第21話 自分を変えたい
「自分を変えたい?」
学校が終わり帰宅した俺は、自室に沙希を呼んだ。
沙希はベッドに腰かけ足を組みながら、床に座って決意の言葉を口にする俺を渋面で迎えた。
「自分を変えたいってウチに相談されてもなー」
まったく興味も無さそうに、視線を明後日のほうに放りながら投げやりに答える沙希。
「お兄、空手とか始めるわけ? そしたらウチ役に立たないよ」
「そういうのも考えたけど、まずは形から変えようかなって」
「形から変える……、外見ってこと?」
「そうそう」
外見といっても、整形をするとか極端の話じゃなく、服装とかそういうのに気を遣おうと思い、オシャレに詳しい沙希に相談することにした。
内面はすぐに変わるものじゃないし、まずは外見からでも。
俺の決意は伝わったはずなのに、なぜか沙希は相談してからずっと不機嫌な雰囲気を醸し出している。
「……お兄、好きな人でもできた?」
「え、別に好きな人いないけど」
「おかしいっしょ。特に理由もないのに自分を変えたいとか思うわけないし。絶対好きな人ができたっしょ」
どうしよう、沙希が勘違いしている。
本当に好きな人ができたわけじゃないのだが、沙希には本当の理由を伝えるわけにもいかない。
それは俺が恵子おばさんがいるとご飯を食べられないことを言ってしまうのと同じ。
「自分を変えたいなら空手でも始めれば? その人も十年後とかに振り向いてくれるんじゃない?」
両腕を天井に向かってぐっと突き上げて伸びをし、沙希が腰を上げようとする。
やばい、このままでは俺の決意がうやむやにされる。
逃げられたくない一心で、慌てて俺は沙希の両肩に手を置いて引き止めた。
「な、なにさ……」
「俺はダサいんだ……」
「は?」
「俺はダサいんだ。沙希と出掛けるとき、俺が並ぶとダサくて申し訳なるんだ。沙希はオシャレなのに、隣にいる男性がそんなんだと比べられて辛いし、申し訳なくなる」
「ウチ、そんなこと気にしないけど……」
「俺が気にするの!」
俺の決意が伝わったのか、肩に置いた手から体温が徐々に上がっていくのが伝わり、目を合わせた瞳はとろんと蕩けだす。
「お兄、そんなにウチのこと気にして……」
「わかってくれたか」
「うん、ウチに任せて! お兄をめっちゃオシャレにするから!」
意気揚々と立ち上がる沙希。
よし、なんとか誤魔化せたようだ。
ちなみに沙希に言ったことは嘘ではなく、本当にそう思っていた。それが自分を変えよと思ったというのは嘘だけど。
嘘をつくときは、真実も混ぜると信憑性が増すっていうのは本当だったんだな。
……それにしても、俺に好きな人ができたら手を貸さないっていうのがよくわからないけど。
そこは応援してくれよ。
とりあえず今どんな服を持参しているか知りたいというので、俺はクローゼットの中から服を引っ張り出す。
「ダッサ! お兄、ダッサ!」
俺が服を並べていくと、それを見た沙希が次々と悪態をつく。
「どこがダサいんだよ。これとか花柄でカッコいいだろ」
「お兄、ダサすぎでしょ」
「じゃあ、この虎とか龍がプリントされたシャツは?」
「中学生かっていうの! まじ、ありえないんだけど!」
「虎と龍はカッコいいだろ! 男のロマンなんだから!」
俺が反論するも、沙希は呆れたようにため息を吐いた。
「あと、どんだけボーダーの服持ってんの。それ以外全部ボーダーとかありえん」
「ボーダー無難じゃん」
「ボーダーに逃げすぎ。ダボダボのボーダーに、ピチピチのボーダー。ボーダー専用店みたいになってるじゃん」
ボーダーって楽じゃん。オシャレに疎い俺でも、とりあえず着ておけばなんかそれっぽく見えるし。
沙希はなにかを考え込むように腕を組み始めた。
次の言葉を待ち、俺もその隣で腕を組む。
「……なにやってんのお兄?」
「? なにが?」
「次の服出してよ」
「これで全部だけど?」
おかしなことを言ったつもりはなかったのだが、沙希が大きな目をさらに大きく見開き、口をあんぐりと開けた。
「え、これで全部? たった四着しかないんだけど」
「充分だろ。普段は制服なんだし」
ショックを隠しきれないのか、沙希が舞台俳優のように額に手を当ててため息を吐いた。
どうでもいいがそんな大袈裟にする人いるんだな。まるで嫌味ったらしく、これみよがしにやってるように見える。
「お兄、とりあえず服買いに行こっか……。ウチも一緒に行ってあげるから」
もちろんそのつもりだった。
今自分が持ってる服はダサいのはわかっていたので、色々教えてもらうつもりだ。
「どうせお兄のことだから週末も暇なんでしょ? 一緒に服買お」
沙希の言うとおり、週末は特に予定もないのだが、そういう風に決めつけられるとちょっと抵抗したくなる。
「ちょっと待って。もしかしたら週末予定あるかも、確認する」
先程の沙希と同じように、舞台俳優よろしく俺は顎に拳を当て唸りながらスマホを確認する。
「そういうのはいいって、絶対ないっしょ。あっても断れ。ウチも暇じゃないんだから」
俺の下手な演技は沙希には通用しなかった。すぐに見破られてしまう。
「週末はボーダーにしてよね。間違っても花柄とか虎と龍の服は着てこないでよ」
念を押すように沙希が言ってきた。どうやらこの服は相当不評なようだ。
仕方ない、中学生のときから着てきた愛着のある服だが処分してしまおう。




