第22話 沙希とデート?
土曜の昼前。俺は沙希の指定されたとおりにボーダーの服を着て、街へ出かけた。
「えへへ~」
俺の隣では幸せそうな笑顔をこぼしながら腕を絡んでくる沙希。
「お兄、どする? ウチら、もしかしたらカップルに見られちゃうかも」
「どうするもこうするも、見られてないから安心しろ」
従妹と腕を組んで街中を歩くなんて恥ずかしいったらない。
俺はなんとか腕を放そうとほんのり身をよじるが、沙希はがっしりと、腕を放すまいと力入れて掴んできた。
チラッと、隣で笑顔を浮かべる沙希を見て心の中で嘆息する。
これが従妹じゃなければどれほど最高だっただろうか。
目鼻立ちの整った顔に、体つきも細いのに出すべきところはしっかり出てメリハリがある、万人が魅力的に思うであろう容姿。
今も沙希の胸が腕にしっかり当たってるので気まずくてしょうがない。
従妹だが実の妹と腕を組んでいる感覚なので、放して欲しいのだがそれを伝えても。
「人の波が凄くて迷子になっちゃう~!」
なんて気持ち悪いネコナデ声で甘えてくる始末。
たしかに休日ということもあって人混みは凄い。しかし身動き取れないほどの混雑でもないし、むしろ腕を組んでいる今のほうが歩きづらい。
なのだが沙希は離れてくれる気がさらさらないことがわかったので、俺は諦めてそのまま腕を組んで歩くことに。
「それで、どこの店で洋服買いに行く?」
服を買いに来たので俺が至極当然のことを聞くと、沙希が信じられないといったようすで眉を寄せている。
「お兄、まさか服を買うだけのつもりじゃないよね?」
「まさにそのつもりだったけど」
服を買いに街へ繰り出したんだから。
沙希が呆れたように肩を竦める。
「お兄、今日は遊びに来たんだよ。それで服を買って終わりとかつまらないっしょ」
なんと今日は買い物ではなく遊びに来たみたいだ。いつのまに予定が変わっていたんだろう。
「それにお昼もまだじゃん。なんか食べようよ」
沙希の言うとおり、俺たちは昼ごはんも食べずに外へ出かけた。
俺はそれだけ早く買い物が終わるのかな、ぐらいにしか考えていなかったのだが、遊びに来たなら話が違ってくる。
長時間遊ぶなら昼に何か食べないと持たない。
そしてそれは人がいる場所で物を食べなければいけないということなので、俺にとってとんでもない苦痛を味わうことになる。
「あ、あそこにクレープ屋があるじゃん」
沙希が指差した先に移動販売車のクレープ屋が。
俺の返事も待たずに沙希は足を運ぶ。もちろん腕を組んだままなので、俺も引きずられるようにして向かうことに。
「お兄、なにするー?」
沙希がメニューを見ながらどれにしようかと吟味している横で、俺はこの局面をどう切り抜けようか考えていた。
さて、どうしようか……。
ここで俺は食べないなんて言うと、沙希はきっと不機嫌になるだろうな。
けれど俺の分を買ったところで、それがクレープなんて軽食だとしても、丸々一個なんて食べられそうにない。
「沙希の好きなの買って、それを一口二口分けてよ」
「……一つのクレープを二人で食べるの?」
「だめかな?」
一口二口くらいなら我慢して食べられると思って提案したんだけど、いくら従妹といってもさすがに気持ち悪かったか?
押し黙ってしまう沙希の天頂部を眺めながら俺が悩んでいると、いきなり目の前の人に肩を叩かれた。
「お兄も可愛いところあるじゃーん!」
「お、おーん……?」
沙希の急変ぶりに、おもわず阪神タイガースの前監督のような言葉がでてしまった。
俺の提案をどう解釈したかわからないが、沙希は頬を染めて嬉しそうにしている。
「口では嫌がってるくせに、まったくお兄はツンデレなんだからー」
「……そだねー」
よくわからないので、とりあえずカーリング女子のような相槌を打っておいた。
都合のいいように解釈した沙希が、散々迷ってフレッシュストロベリーを頼んだ。
出来立てほやほやのクレープを受け取った沙希が、俺の口元にクレープを寄せてくる。
「はい、先に食べていいよ」
移動販売車で買ったので、ここは屋内ではなく外だ。
周りには人が沢山いる中での飲食は思った以上に精神的な負担が大きい。
俺は意を決してクレープに齧りついた。
コンビニに売っているクレープくらいしか食べたことないので、その出来立ての生地の温かさに驚いてしまう。
クリームの甘味が舌に広がるのを感じながら、なんとかそれを喉奥に流し込んだ。
たぶん美味しかったのだろう。
飲み込むことに必死で味わう余裕がなかったが、同じようにクレープに齧りつき綻ばせる沙希の表情でよほど美味しかったんだと察する。
沙希が二口ほど食べたあと、またもや俺の口元にクレープを運んできてはそれを必死に飲み込み、それを何度か繰り返して完食することができた。
「あー、美味しかった!」
クレープの味にご満悦なようすの沙希。
満足したようだしそろそろ服を買いに行こうか、と俺が一安したのも束の間、またもや沙希がなにかの店を発見したようでそこに足を向ける。
……そりゃそうだよな。小学生じゃないんだからクレープ一個で満足するわけないよな。
近くにあったたい焼きから始まり、あらゆる甘味処を網羅していく。
一体その細い身体のどこに入っているのか、沙希は次々と食べては近くの店に向かっていき、俺は甘いものでお腹を満たされる気持ち悪さから、途中で人がいるいないに関わらず食べるのを断った。




