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第16話 エロゲーで勉強

 夏真っ盛りの七月。外は頭が沸騰しそうになるくらい連日の酷暑。


 そんな酷暑にも関わらず、元気に走り回っている運動部の声が放課後の教室に微かに響く。


 教室には俺と桐野さんが席を並べて座り、その前には早瀬さんが座っていた。


 俺が呻きながら教科書を睨み、横に座った桐野さんは、時折早瀬さんにわからないところを聞いている。

 桐野さんの質問に答えた早瀬さんは、問題の解説が終えると手に持った文庫本に視線を落とす。


 来週に差し迫った日本史の小テストのために、俺と桐野さんは早瀬さんに教えてもらっていた。


 と言っても本格的にまずいのは俺だけ。

 桐野さんは基礎が出来てるのでわからないところをたまに早瀬さんに聞き、基礎というかなにも頭に入ってない俺はとりあえず暗記することに集中している。


「だめだ、全然頭に入らない……」


 集中力が切れてしまった俺は、シャーペンを机に放り投げた。


「まだ勉強を始めて一時間も経ってないじゃない」


 呆れたようすで桐野さんが苦言する。


 桐野さんが呆れるのもわかる。

 俺が日本史に自信が無いと嘆いていると、早瀬さんが教えてあげると言ってくれ、桐野さんも一緒に勉強をしてくれることになったのはいいが、教室というのがいけない。


 いつ誰が来るかわからない状況では勉強に集中できず、足音が聞こえては神経をすり減らしていた。


 こんな状況をクラスメイトに見られたら、どんな噂を囁かれることやら。


 本当は家で勉強したかったが、自宅の部屋に美少女二人を引き連れたなんて沙希に見られたら何を言われることやら。


「早瀬さん、なにか簡単に覚えられるコツとかない?」


 俺が都合のいいことを聞くと、文庫本に視線を落としていた早瀬さんが顔をあげる。


「……ごめん。わたしはそういうのわからない」


 早瀬さんが申し訳なさそうに瞳を伏せた。


 彼女は学年一と言っても過言ではないくらいに頭が良い。

 もしかしたら何か秘訣があるのではと思って聞いたのだが、どうやら特別なことはしていないようだ。


「早瀬さんは暗記系ってどうやって覚えているの?」


「教科書を一回読んだら覚えられる。だから、その……覚えられないっていうのが、わたしにはよくわからない」


 特別なことはしていないが、早瀬さんの頭が特別だった。


 早瀬さんは言いにくそうに、俺のことを馬鹿にしているわけじゃないというのが気を遣った口調や雰囲気で伝わる。


「そういうのは真理愛に聞いたほうが良いよ」


 俺が桐野さんに視線を移すと、水を向けられた彼女は胸を張っていた。

 スタイルの良い桐野さんの胸が強調され、思わずそちらに視線が泳ぎそうになったが強固な意志で顔に固定する。


「よくぞ聞いてくれました! あたしも日本史は不得意だったけど、これのおかげで得意になったわ!」


 桐野さんはそう言って机の横に引っ掛けてあった鞄から何かを取り出した。


「じゃーん!」


 効果音を自分で言いながら取り出したのは、彼女お得意のというかわかりきっていたというか、桐野さんのお馴染みのエロゲーだった。


 ド〇えもんのようにお手軽に頭が良くなる道具を期待していたわけではないが、それでも少し期待してしまっていた俺は冷ややかな目でそれを見つめた。


 満面の笑顔でエロゲーを紹介してくる桐野さん。


「ユキユキにこれを貸してあげたくて持ってきたの!」


「……エロゲーで日本史が得意になるの?」


「なるわ! あたしは得意になったんだから」


 俄かには信じ難い。また新たなエロゲーを紹介できるのが嬉しいのか、桐野さんは喜色満面で俺の手にエロゲーを押し付けた。


 その笑顔が怪しすぎて、宗教勧誘の人に見える。

 この人はいつもエロゲーを鞄に入れてるのかな?


「ちょうど今勉強しているところが平安時代でしょ? このエロゲーは平安時代を舞台にしてるから勉強にはもってこいよ」


 まじまじとエロゲーのパッケージを見る。

 可愛いヒロインが所狭しと描かれているが、平安時代にこんなにも活躍した女性っていたっけな?


「うーん……」


 難色を示す俺に、桐野さんが安心するように持っているエロゲーの説明を続けてくれた。


「漫画とかアニメだと平安時代をそのまま描いちゃうから男臭くなっちゃうけど、このエロゲーは登場人物が女体化してるの」


「それだと誰が誰だかわけがわからなくならない?」


「大丈夫。登場人物名はそのままだから覚えやすいの」


 なるほど。確かにそれだと大丈夫なのかな?


 桐野さんが名案を閃いたとばかりに両手を叩いた。


「そうだ、またユキユキの家で一緒にやりましょ!」


「えー……」


 ……また家に来るの? 沙希にわけもわからずヘッドロックをかけられるじゃん。


 都合の悪いことは見えないのか、桐野さんは露骨に渋っている表情の俺を無視して早瀬さんも誘っていた。


「今回も麻衣は来ない?」


「わたしはいい。エロゲーには興味ないから」


「麻衣も少しはエロゲーに興味を持ってよ。こんなにも人生に役立つ作品って他にはないわよ」


 桐野さんにとってエロゲーとは人生のバイブルなのかもしれない。


 あと俺は一言も家に遊びに来ることを同意をしていないのだが、どうやら桐野さんの中では勝手に同意していることになっているらしい。


 そして、このエロゲーがきっかけで俺も桐野さん同様、エロゲーにハマっていくのだが、このときはそんなこと知る由もなかった。

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