表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
318/321

第310話 城門を目指して⑤

(──急げ! 急げ! もう、時間が無い! 動くなら、今しかない!!)


 焦燥に駆られながら、翼を広げて城内を飛翔する。


「チヨ!? アンタこんな時にどこ行くノ!?」

「ちょっと報告があってね~! じゃ、そう言う事で!」

「あ、ちょット!? ホントに勝手なんだかラ……」


 すれ違う悪魔達を誤魔化しながら、私は城の奥へ、更に奥へと向かう。

 魔都に増え始めた結晶が魔王の……あの方の封印が解けかかっている証である事には、直ぐに気付いた。


(──させない! 義真くんの意志は私が守る!)


 それが今私が生きている、たった一つの理由なのだから。




 程なくして辿り着いた封印の間。

 部屋の入り口の影に隠れて様子を伺うと、アイツはまだ無数の魔石を結晶に取り込ませているところだった。

 まだ封印は無事だ。そう安心したのも束の間、アイツが片手で弄んでいる不思議な魔石を目にした瞬間、私は背中にゾッとした物を感じる。


(アレは拙い……!)


 『魔』と『人』の両方の魔力が融和したあの魔力は、彼の封印術式にとっては猛毒に等しい。

 もはや一刻の猶予もないと確信した私は、ポケットの中にしまってあるユキの魔石をギュッと握る。


(お雪……力を貸して……!)


「……そんなところに隠れて、どうしたのかしら? ──チヨ」

「──ッ!」


 ゾワリとした緊張が背筋を駆け上がる。

 見つかった……いや、見つかっていたのだ。既に。

 私は早鐘を打つ鼓動を悟られまいと、普段通りに仮面を被る。


「いやぁ~、バレちゃいました? なんかいよいよその時が来そうだなって思って、ついつい見学を!」

「そう。確かに貴女は、ユキの次に私に長く仕えてくれたものね? 感動は一入(ひとしお)と言ったところかしら……」

「はい! やっぱり感慨深いですよ~! あれからもう二百年ですからね!」


 笑顔を張り付け、自然な動作で歩み寄る。

 ……まだだ。もう少し近付きたい。コイツの隙を突くには、まだ遠い。


(落ち着け……落ち着け。いつもやって来た事だ。道化になれ、へらへら笑うんだ……!)


「──フッ、良いわ。隣に来なさい。記念すべき瞬間を共に迎えましょう?」

「! さっすが、懐が深い!」


 悪辣極まりないこの女の口から出たと思えない、望外の申し出だ。私にとっては実に都合が良い。

 出来ればこのままあの魔石を奪い取りたいところだが、奴が促したのは魔石を持つ手とは逆の位置……強引に奪うのは流石に難しい。


(今は怪しまれないことが肝心……とにかく、隙を伺うんだ……!)


 魔石については気にしない体で、奴の隣に並び立つ。

 間近で見た結晶の封印は、かなり摩耗してしまっている。思わず飛び出しそうになる足を強い意志で押さえつけ、私はその時を待つ。

 ……そして、いよいよその時が訪れた。


「今ので人間の魔石は最後ね。ふふ……封印の方も、良い感じにガタついて来たわ。貴女もそう思うでしょ? チヨ?」

「ええ! それはもう! いよいよ、封印を破壊するので?」

「そうよ。この魔石を撃ち込めば終わり……──魔王の目覚めの時よ」


(──今だッ!!)


 奴が魔石を投擲する瞬間、私は結晶の前に立ちはだかった。

 そして、奴が手放した魔石を手で掴み……取って……


「……──ぷっ! くくっ、く……! どうしたのかしら、チヨ? ()()()()()()()?」


 奴は魔石を手放していなかった。

 投擲されると思った魔石は、魔力によって奴の指先に吸着されており、私の方へ飛んできてもいない。

 ……バレていたのだ。私の目的は。


「あっはっはっはっは……! あぁ──本当に面白いわね、貴女は……」

「……いつからだ。いつから気付いてた……!」

「最初から──って言ってやりたいところだけどね、実は最近なのよ。貴女が春葉アトを逃がす為に演じた茶番……アレは最高の見世物だったわ」

「! く……っ!」


 こうなってしまった以上は仕方ないと覚悟を決め、イチかバチか結晶の方へと駆けだす。

 まだ封印は破られていない。悪魔となった私の魔力を一気に流し込めば、封印は再び強固になる筈。

 しかし──


「──ぐあっ!?」

「ホント……こんな長い間、よく私を欺いたものだと感心したくらいよ」

「ぐっ、ぅ……! は、離……せ……!」


 背後から伸びた右手に頭を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。

 予想はしていたが、やはり奴の方が私よりもずっと速く……そして強い。

 背にのしかかった奴の身体を退かそうと、尻尾による刺突で反撃も試みたが、同じ尻尾で絡めとられて防がれてしまった。

 そして──


「チヨ……貴女の事、結構気に入ったわ。今度こそ、本当の仲間になりましょうね?」


 奴の両手が私の角を掴み……


「力をあげるわ。その代わり……今度こそ私に誠心誠意、尽くしてくれるわね?」

「っ! やめ──」


 私の頭に莫大な魔力と、洗脳の為の術式。そして、情報が流し込まれた。





「──さぁ、立ちなさい。チヨ」

「はい」


 魔族の呼びかけに従い、チヨがゆらりと立ち上がり、振り返った。

 ピンク色だった髪が血のような深紅に染まった彼女は、どこか虚ろな様子で魔族の言葉を待っている。

 魔族はその仕上がりに満足気な笑みを浮かべると、静かに問いかけた。


「どうかしら、新しい力は。気に入った?」

「はい。身体の奥から際限なく湧き上がる魔力に、酔いしれてしまいそうです……」


 口ではそう言いつつも、チヨは恭しく礼をするのみで、力に飲まれた雰囲気は感じられない。

 まるで人形のように静かな物腰になったチヨに、魔族は首を傾げた。


「……チヨ、貴女──」


 その瞬間──チヨは、弾かれたように結晶の方へと駆けだした。


「! しま……ッ!」


 今度こそ完全に虚を突かれた魔族は、チヨの動きに対応しきれない。

 直ぐに捕えようと腕を伸ばしたが、能力が総合的に向上したチヨは間一髪その魔手から逃れ、結晶に触れることに成功した。そして──


「この人は、起こさせない!」


 結晶に自身の──悪魔の魔力をありったけ注いだ。


「──貴様ッ!」

「げぅ……ッ!」


 すぐに距離を詰めた魔族の膝蹴りがチヨの脇腹を捉え、彼女を結晶から弾き飛ばすが……既に悪魔の魔力を注がれた封印は、再び分厚い結晶に包まれてしまっていた。


「ぐ……──くっ、はは、は……! 残念だけど……私、洗脳とか、効かないんだよね……! 悪魔になった時に、耐性が付いたみたいでさ──がふっ!」

「……調子に乗らない事ね。元・人間」


 想定外の妨害により計画を崩された魔族は、腹いせとばかりにチヨを甚振(いたぶ)り始める。

 首を掴んで壁に押し付け、尻尾で何度も全身を刺し貫く拷問のような八つ当たり。

 しかし……


「──『奈落の腕』!」

「ッ!?」


 チヨが無詠唱で発動した『奈落の腕』が魔族の顔に伸ばされると、魔族は咄嗟にチヨの首を離し──チヨの腹を全力で蹴り上げた。


「がぁ……ッ、は……!」


 あまりの威力に肺の中の空気を全て吐き出させられ、『奈落の腕』を維持できない程のダメージを受けたチヨ。

 次の瞬間──


「──消えなさい」


 魔族の右手から放たれた目も眩むほどの魔力砲が、容赦なくチヨを飲み込んだ。

 魔力砲はそのまま城の外にまで届き、深層の天井にまで大穴を穿つ。そして──


 ──カツーン。


 封印の間の天井に空いた大穴から、小さな深紅の魔石が一つ、魔族の足元に落ちて来た。


「……」


 魔族はその魔石に対して何も言わず、封印の結晶へと振り返る。

 そして、内心で自身の慢心を反省した後に……ぼそりと一言呟いた。


「仕方ないわね……やはり、『あの子』がここに来るのを待ちましょう」


 そう言い残し、魔族は封印の間を去って行った。

 その背を見送ったのは、グシャリと踏み砕かれた紅い魔石だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ち、チヨが殺られた…!?目的を果たせぬまま道半ばで果てる…悔しいでしょうなぁ…。 ヴィオレットちゃん達に仇を討って欲しいですが…首領は今いるメンバーが全員揃ってフルパワーで挑んで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ