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第309話 城門を目指して④

「──コイツで、終いやッ!」

「ぐアァ……ッ! く、くソ……ォ!」


 ティガーの左手に握られた双雷牙が悪魔の身体に食い込み、雷の魔力によって感電させる。

 そして次の瞬間、右手の双雷牙によってその首が刎ねられた。


「……今ので最後やんな?」

「そやなぁ。隠れとる悪魔の気配もあらへんわ」


 ぐるりと周囲を確認した魅國からの返答で残心を解き、ティガーは肩をぐるりと回して一旦緊張を解す。

 ティガー隊の方へと視線を向ければ、彼女達の戦闘はまだ続いてはいるものの……


「隙を作ります! ──■■■■■ ■■ ■■■■■■! 『ゲイル・スパイク』!」

「ウッ!? 貴様ァ……!」

「ナイスアシスト! ここだッ!」

「ば……っ、ばカナ……!?」


 後衛ダイバーの一人が突風を固めた楔で悪魔の動きを一瞬封じ、その隙に前衛のダイバーが重い一撃を浴びせる連携。

 彼女達の息があっているのは遠目からでも確認できた。


「……あの様子なら、ウチらが出張る幕やないな。皆のレベルアップにもなるし、ウチらは外から悪魔の増援が来んか警戒しとこか?」

「せやなァ。さっきの奴が仲間呼んどらんとも限らんし……──」

「ティガー……? ──っ!?」


 言葉が途切れたティガーに一瞬疑問を持った魅國だが、直ぐに【誇華虎意】によって伝わったその理由にバッと振り返る。


「──なァ、魅國……あの結晶、さっきまでは確かに()()()()()よなァ……?」

「あぁ……ウチも覚えとるから間違いないわ。どう言う事や、これは……?」


 ティガーの示す庭園では、雰囲気にそぐわぬ結晶が相変わらず異様な存在感を放っている。

 しかし今、その数は()()に増えていた。

 まるで寄り添う双子のように並ぶその姿に、ティガーと魅國の中に根付いた違和感が警鐘を鳴らし始めていた。


「何が起こっとるんや……この魔都で……」


 ぼそりと呟くティガー。

 その異常は、庭園だけに留まらぬものだった。



「これは……何が起こってるんですか……!?」


 最初は気のせいかと思っていた。

 私を包囲する悪魔達との戦闘で目まぐるしく動く視界の端に、時折映り込む青白い光……それは窓や噴水といった鏡面に、天井の結晶や戦闘で生じる光が反射したのだろうと。

 ……しかし、そうではなかった。


(──魔都に結晶が生えてきている……!?)


 視線の先で今、石畳を割って結晶が一つ魔都の大通りに生えて来た。

 見間違いではない。剥き出しの結晶が魔都の路上に……それも大通りにあったのなら、早い段階で気付いた筈。

 結晶はその性質として、地面や壁面から切り離された時点で輝きを失う事から、天井から剥離した物でもない。

 つまり今、あの場所に生えたとしか考えられないのだ。


「余所見をしていル場合カッ!?」

「邪魔をしないでください! 今考え事をしているんです!」

「ぐハッ!?」


 襲って来た悪魔を、蛇腹剣状態のアセンディアで返り討ちにしながら魔都の全体像を俯瞰する。

 すると、こうしている今も次々に魔都の至る所で結晶がその数を増やしている事が良く分かった。

 そして──その傾向に法則性がある事も、ここからならばよく分かる。


(っ、城に近付くほど結晶の数が増えている! 偶然じゃない……! もしかして、アイツの計画がもう……!?)

「──皆さん! 各部隊の進捗を教えてください!」


 何が原因の現象かは分からない。しかし、この変化が良い傾向だとはどうしても思えなかった私は、直ぐにリスナー達に各部隊の進攻状況を確認した。


〔ティガー隊は噴水の公園っぽいところを通過してたよ!〕

〔アトちゃん達は第三チェックポイント突破済み!〕

〔クリムとKatsu-首領-は合流したまま、Katsu-首領-ルートで進攻中!第三チェックポイントは目の前!〕


「ありがとうございます!」


 つまり、もうほぼ全員が第三チェックポイントに到着した状態という訳だ。

 これなら……


(多少、予定を前倒しにする事は出来る!)


 私は蛇腹剣アセンディアを一度剣の形に収縮させ、【エンチャント】によってそのオーラに雷の性質を付与。

 そして、アセンディアの形を変更。蛇腹剣の刀身はぐにゃりと形を変え、大きな円筒の姿をとる。その正体は……


「──アセンディア・キャノン!」

「なぁ……、グバハァッ!?」


 言うなれば片手で構える大砲だ。

 アセンディアのオーラを砲弾のように悪魔達の包囲に撃ち込むと、付与された性質によって広範囲の悪魔を感電させる事に成功した。


〔なんでもありかよ…〕


 包囲の一角が感電によって墜落し、穴が開く。

 そこを突破するように空を駆け、させまいと正面に回り込んでくる悪魔達にもアセンディアのオーラ砲を撃ち込み、そのまま強引に包囲を突破。

 なおも後方の悪魔達がしつこく追って来るが、そこで私は振り返り呪文を詠唱する。


■■■■■■■■(天より見守りし) ■■■■■■(星々の射手よ) ■■■■■■■■■■(ここは汝の狩場なり) ■■■■■(舞い降り給え) ■■■■■■■(夜闇纏いし弓に) ■■■■■■■■(星の矢を番え) ■■■■■■■■(我が前に居並ぶ) ■■■■■■(尽くを射貫け) ──■■■■■■■■■■(星辰の光矢)


 魔法名を唱えた瞬間、私の周囲約五メートルに夜が訪れる。

 そして、星のように瞬く無数の光点から放たれた夥しい数の光線が、追手の悪魔達を蹂躙した。


〔かっけぇ!!〕

〔つっよ〕

〔もうそれだけで良いんじゃないの!?〕


 コメントは今の魔法への称賛で埋まるが……残念ながら、今の私にそれらに反応できる余力はない。


「──はぁっ……! はぁっ……!」


 くらりという立ち眩みのような感覚と、激しい倦怠感に襲われる。いずれも魔力が枯渇しかかった際に現れる症状だ。


〔ヴィオレットちゃん!?〕


 先程の魔法は異世界でも屈指の大魔法。

 主に大規模な戦争でしか使われない上、人間が一人で使えば魔力どころか生命力まで使い切る危険がある代物だ。

 威力や規模は制限したが、それでも反動は大きく、私はぐんぐんと高度を落していく。


(翼を、広げろ……! せめて、滑空の形にするんだ……!)


 しかし、レベルアップによる弱体化の影響だろう。翼の動きまでが酷く鈍い。

 何とか翼を広げて滑空の体はとったが、もう飛行に使えるだけの動きは出来まい。


「はぁ……はぁ……! ──【ストレージ】……!」


 魔都の大通りに着地後、腕輪から魔力回復用のポーションを二本取り出して一気に飲み干すと、魔力が急速に回復を始め、次第に呼吸も落ち着いてきた。


〔大丈夫!?〕

〔やっぱりあの魔法消耗が激しいのか〕

〔今まで使わなかったわけだ…〕

〔少し休もう!〕


「いえ……! 今は先に進まなければ……! 手遅れになる前に……!」


 私は魔力の回復が完了するのも待たず、少しでも先に進もうと足を踏み出す。

 と、その時チラリと視界に入ったアセンディアのオーラが枯渇している事に気付いた。


(やっぱり直接オーラを砲弾にしたのは拙かったか……!? いや、ああでもしなければ星辰の光矢に余力を残せなかった……!)


 『アセンディア・キャノン』とおちゃらけてはみたが、砲弾二発でオーラを使い切る荒業だ。今の状態のアセンディアを酷使すれば、どんな悪影響が残るか分かった物ではない。

 何より少しでもオーラの回復に充てなければ、この後の戦いには使えなくなってしまう。

 私はアセンディアを本来の形態に戻し、【エンチャント・イデア】を解除すると腕輪に収納する。

 そして……代わりに最初の相棒であるローレル・レイピアを取り出して手に取った。


(魔力も、オーラも──魔族の性質も枯渇寸前だ……せめて城門前広場に着くまでに、魔力だけでもある程度回復すれば良いけど……)


 今後の戦いを案じつつ駆けだした魔都の大通りは、まるで私の不安を煽るように無数の結晶で彩られていた。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 残念ながら向こうの真の企みは現状順調に進行中→ヴィオレットちゃんの焦りは正解なのがキツいですなぁ…。間に合って欲しいですが、間に合ったとしてもちょっとキツいかこれ? それでは今…
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