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第307話 城門を目指して②

 時間は少し巻き戻り、春葉アト隊とユキの戦いが決着した直後の事。


「──ははっ! 春葉アトの奴、派手にやるやないか……!」


 路地裏を移動中、上空を飛び去ったユキの向かった先──旅館の様子を、遠くから見ていたティガー隊。

 彼女達はいざという時があれば、いつでも春葉アト隊の救援に迎えるようにとスタンバイしていたのだが……そんな彼女の視線の先で屋根を突き破った竜巻が、魔都の天井たる岩盤を穿ったのだ。

 コメントによってその一撃が春葉アトによるものだと知り、ティガーは思わず笑みが漏れた。

 崩落する天井。降り注ぐ無数の大岩と結晶は近くにあった建物の外壁を破壊し、街並みの形を変えていく。

 その様子に狼狽える悪魔達の様子は、ティガーにとって中々に痛快な光景だった。


「……っと、ぼーっと見とる場合でも無いなぁ」

(悪魔達が動揺しとる今なら、この先も一気に駆け抜けられるかもしれん……今がチャンスや)


 そう思考しながらティガーが見つめるのは、路地裏の先に広がる広場──中央にある噴水が目を引く公園だった。

 隠れられる場所も少なく、本来正面突破は厳しい難所だが……しかし、回り道をしようとするとどのルートを通っても広い通りを二、三箇所抜けなければならない。それを考えれば、やはりここを真っ直ぐ突っ切るのが最善と思えた。


──『この先』『正面突破』『急げ』


 ティガー隊はハンドシグナルで合図を出し合い、そして一気に駆けだした。


(よし! 思った通り、今は悪魔達の注意が地上に向いとらん! この調子なら……)


 しかし、先頭を進むティガーが公園の中央に陣取る噴水に差し掛かったその時──


(! ベンチに私服の悪魔!? まさか……っ!)


 噴水の周囲を囲むように配置されたベンチ──先ほどの路地裏からは死角になっていたそこに、一体の悪魔が腰掛けているのが見えた。

 ヴィオレットの戦いを見ていたのだろう。上空を仰いでいた彼女は、しかし視界の端にチラリと動く物を確認したのか──『グリン!』と音でもしそうな勢いでティガー達に振り向いた。


「あかん……ッ! ──【狂化】!」


 理性を削って身体能力を限界近くまで引き出すスキル【狂化】に加え、【マジックステップ】も併用したティガーが高速で悪魔に迫る。

 視界の開けた場所で、視線の先で繰り広げられる戦闘に参加しようともしない姿勢から、ティガーには彼女が『ダンジョンホッパー』である事は即座に理解できた。

 【消音】の魔法がかけられたグリーヴで口を塞げば、少なくとも大声で仲間を呼ばれる事は無くなる。一瞬でそう判断したティガーの特攻。

 しかし、そんな彼女の目の前で悪魔の口は開かれ──


「──キャアアアアア……」

「くっ……! ちょい、間に合わんかったか……!?」


 絶叫する悪魔の口にグリーヴが叩き込まれ、声は直ぐにかき消された。

 だが、一瞬とは言えあの大声だ。直ぐに悪魔が駆け付けるだろう。ティガーは迅速にダンジョンホッパーの悪魔にとどめを刺すと、ハンドシグナルで『先に行け』と不安そうに彼女を見つめていたティガー隊に命じる。

 悪魔が駆け付ける前にティガー隊が路地裏に逃げ込み、隠れる事が出来れば、存在が露見するのは自分だけに抑えられるという判断だったが……


「──見つけタゾ、侵入者どもメッ!」


 一瞬早く、ティガー隊は悪魔達に捕捉されてしまった。

 障害物の少ない開けた公園で、上空には数体の軍服の悪魔……この状況の危険性を理解できないダイバーはいない。


「お前ら、走れェ! どこでもええから、建物の中に入るんやぁッ!」


 大声で指示を出しながら、仲間達の元に駆けつけようとするティガー。

 その目の前で──


「させるカッ! 総員! 撃テェーーーッ!!」


 上空の悪魔達が、ティガー隊に絨毯爆撃を開始した。


「くっ……! 『大気の盾』よ!!」

「ナイス! 今の内に移動を──」


 魔力の盾を傘のように頭上に掲げ、降りかかる魔法を防ぐダイバー達。

 そのまま建物の中に逃げ込むべく歩を進めようとするが……


(──土煙の所為で、方向が……!)


 悪魔達の放つ炎や雷の魔法が公園の石畳を撃つ度に巻き上がる粉塵が、煙幕のように彼女達の視界を遮ってしまっていた。

 直前の進路から凡その方向は分かるものの、魔法攻撃によって荒れているだろう地面を進むとなれば、転倒のリスクは無視できない。


「──ウチに任せぇ!」

「! 魅國さん!」


 魔力の盾の下に密集していた中から、一人飛び出したのは魅國だ。

 彼女は【誇華虎意】による訓練のおかげで、ヴィオレットから多くの魔法をかなりの高精度で伝授されている。

 その為、悪魔達の絨毯爆撃の中に出ても、無詠唱で展開した魔法の防御で動き回る事ができた。

 そして彼女が愛用する大鉄扇を広げ、扇ぐように一振りすると、付与された風の性質によって巻き起こった突風が、一瞬土煙を晴らした。


「今や、行けェ!」

「で、でも……!」

「ウチとティガーなら大丈夫や! こないな奴ら、さっさと片付けて追いつく! お前達はさっさと屋内に逃げ込むんや!」

「わ……分かりました! お気をつけて!」




「──はぁ……アイツら、何とか逃げ切ったみたいやな。助かったで、魅國」

「礼は後や。さっき悪魔の半数が、アイツらの後を追って行くんが見えた。こいつ等さっさと始末して、合流するで!」


 晴れた視界が絨毯爆撃による土煙で覆われる度、魅國がそれを晴らす事数度。

 何とか公園を突っ切り、近くの建物の窓から屋内に逃げ込んだダイバー達を見送ったティガーは、悪魔達の攻撃を潜り抜けて魅國の隣に並び立つ。

 そして、愛刀である双剣『双雷牙』を構え、確認の為に尋ねた。


「ウチの【虎華誇為】はまだ使わんでええよな?」

「アレは一度使(つこ)ぉたら魔力使い切るまで止まらんやろ? 【狂化】までにしときィ。この程度の敵なら、ウチの【誇華虎意】だけで十分や」

「ははっ、頼もしぃなァ。ほな……始めようやないか。──【狂化】!」

「──【誇華虎意】」


 ティガーが発動した身体強化スキル【狂化】の理性を削るデメリットを、意識と精神を共有する魅國の魔法【誇華虎意】によって無視し、その上で完璧な連携を可能とする二人の鉄板戦術。

 その猛威が悪魔達に振るわれようとしていた。



「──ほ、報告しまス! ユ、ユキ様が……敗れましタ!」


 魔都の最奥に聳える城。その玉座の間に慌てた様子で飛び込んで来た悪魔の一体が、城の主である魔族に跪きながら、そう報告した。

 すると魔族は玉座に深く腰掛けたまま、手に持っているスマホを見せながら、まるで興味が無いかのように淡々と返す。


「……知っているわ。配信で見ていたもの」

「は、ハイシン? ですカ……?」

「ふぅ……まぁ、貴女に言っても伝わらないわよね。報告ご苦労様、早く侵入者の迎撃に戻りなさい」

「は──ハッ!」


 悪魔達の文化は地上で言うところの明治時代で止まっている。

 スマホや配信など、口で言ったところで理解には時間がかかるだろう。

 その事を良く知っている魔族は悪魔を軽くあしらうと、彼女が玉座の間を出た後に静かに立ち上がる。


「『ラウンズ・オーダー』……ね。まさか、()()()()が貴女の切り札なんて言わないわよね? ヴィオレット?」


 嘲笑するようにそう言い残すと、彼女は転送魔法で玉座の間を後にする。

 彼女の目的の鍵である『魔王』──二百年前のあの日から、未だに魔に堕ちる事を拒み続ける『結晶の男』の()()に、今度こそ終止符を打つ為に。

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