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第306話 城門を目指して①

投稿が大幅に遅れてしまい、すみません!

「……終わったんだね。本当に」

「うん……」


 実感を確かめるように尋ねる百合原咲に、春葉アトは旅館の屋根に空いた大穴を見上げながらそう答えた。

 誰が見ても間違いない、彼女達の勝利。しかし、春葉アトには最後の一撃がユキに直撃していないという感覚もあったのだ。

 ……だが、ユキはもう死んだ。その事実もまた、彼女の直感が告げていた。


(とどめを刺したのは私じゃない。逃げたアイツにとどめを刺せるのは……)


 そこまで考えて、春葉アトはかぶりを振る。

 今必要なのは『誰がユキにとどめを刺したか』ではない。ラウンズが──春葉アト隊のダイバー達が協力し、ユキを倒した。その事実なのだ。

 春葉アトは僅かに残る感情のしこりを振り払い、共に勝利を収めた仲間達へと振り向くと──ユキとの戦いの決着を彩った風のハルバートを掲げ、改めて宣言した。


「皆、来てくれてありがとう。──私達の、勝利だ!」

「「オオォーーーーーーッ!!」」


 戦いの余波でボロボロになってしまった百畳敷きの大広間に、彼女達の勝鬨が上がった。

 と、その時──


 『メキッ……! メリメリ……!』


 先程屋根を貫いた一撃が原因か、或いは彼女達の勝鬨で揺れた空気が最後の一押しとなったのか。

 天井を支える柱からそんな異音が響いたのが、彼女達の耳にも届いた。


「……どうやら、のんびりしてる暇もなさそうだね! 休憩は玄関ホールに降りてからにしようか!」

「はーい!」


 一仕事終えた達成感と高揚感に背を押される様に、軽快な足取りで階段へと向かった仲間達を見送った春葉アト。

 彼女自身も階段へと向かおうと、戦いの疲労が残る足を一歩踏み出し……最後にこの四階からもう一目だけ、魔都の最奥に聳える城を振り返った。


(……私達の目的──ユキを倒す。それは結果的に叶ったけど……まだもう一人、倒さなきゃいけない相手がいる)


 悪魔達の創造主にして、全ての元凶たる魔族。

 たった一度だけ体感した彼女の圧倒的な力を思い返し、春葉アトは次の戦いへと意識を切り替えた。


(城門を目指そう。本当の意味で、全てを終わらせる為に……)


 ガシャ、カシャンと、瓦が落ちて砕ける音を背に聞きながら、彼女は百畳敷きの大広間を後にする。

 旅館の四階の半分が崩落したのは、春葉アトが立ち去って直ぐ後の事だった。



〔ユキvs春葉アト決着!アトちゃん大勝利!〕


「──! そうですか、やはりさっきの竜巻はアトさんの物だったんですね……!」


 リスナーのコメントを見て、ほっと胸をなでおろした。

 魔力の気配でほぼ確信はしていたけど、実際に『決着した』と確認できると安心感が違う。


 そんな矢先──


「──! 旅館が……アトさん達は大丈夫ですか!?」


 先程の一撃の余波か、四階が大きく崩れ始めた。

 慌ててリスナーに無事を確認すると、すぐに安心できる報告が返って来た。


〔みんな無事だから安心して!〕

〔全員階段降りてたから無傷よ〕


「良かった……」


 安堵の息を吐き、私は改めてさっきの一撃を思い返した。


(『ラウンズ・オーダー』……想定以上の威力だったな)


 先程四階建ての旅館の屋根を突き破り、天井を穿った魔力の奔流は春葉アトが『ラウンズ・オーダー』と名付けた魔法だ。

 ラウンズに所属するダイバー達と契約魔法でパスをつなぎ、魔力を束ねる事で一点突破の破壊を可能とした春葉アトの必殺技。

 現在春葉アト隊に居る分のラウンズだけでも、ユキを倒せる威力になったのだ。もしも本格的に全部隊が合流し、あの魔族との決戦で最大火力を発揮する事が出来れば……


(もっとも、あの魔族に対して成功させるには、かなり大掛かりな準備が必要になりそうだが……)


 ──難しい事だと分かってはいるが、期待せずにはいられない。それ程見事な一撃だった。


「これはこちらも負けてられませんね……」


 今の私の役目は悪魔達の脅威として目立つ事で彼女達の意識を引きつけ、地上を進攻するダイバー達が動きやすいようにする事だ。

 しかしあのような一撃を放てる者がいると露見した今、私を包囲していた悪魔達の注意が春葉アトに向き始めている。


(魔力の消耗はなるべく抑えておきたかったが……仕方ない。私ももう少し、派手に暴れるとしよう)

「アセンディア……」


 この魔都での戦いでアセンディアを使い続けている内、分かりかけて来た事がある。

 それは以前、チヨがこの剣の真価を教えてくれた時にも感じていた片鱗……アセンディアという剣の本質。


(あなたが私の思う通りの性質を持っているのなら、きっと──!)

「──【エンチャント・イデア】!」


 その物の理想を、本質を引き出す魔法……それを付与した瞬間、アセンディアの武器としての輪郭が曖昧になる。

 そして……


「あぁ、やっぱりそうでしたか。あなたの本質は──」


 曖昧になった輪郭が、私にとってより『合う』形に再構成される。

 柄はこれまで以上に手に馴染み、重心は更に振りやすく、しかし剣身はまるで画像を加工したように輪郭がぼやけていた。


〔なにこれ?どうなってんの?〕

〔モザイク処理入った?〕

〔ヴィオレットちゃん…女の子がそんな物持っちゃダメよ…〕


「モザイクじゃありませんよ!? ヒトの愛剣に失礼なッ!」


 リスナーからのとんでもない指摘につい反応してしまったが、中にはアセンディアの状態を不安視するコメントもあった。


〔それ武器として使えるんか…?〕

〔なんにも斬れなさそう〕


「心配は無用です。間違いなく、今のアセンディアは()()()()()になっていますよ」


 これは武器としての性能を失ったのではない。寧ろ……私にとって、今のアセンディア程『合っている』武器は無いだろう。何故ならこの剣の本質は──


(『使い手が最も使いやすい形に合うように、変化し続ける武器』!)


 オーラはその本質の片鱗に過ぎなかった。

 そもそもこの武器がレイピアの形をしているのも、前の使い手であるアセンダーロードがそれを望んだからだったのだ。

 だから、私が望みさえすれば──


「こう言う事も出来るんです……!」


 ぼやけた剣身の輪郭が、私の願った形に変わっていく。それは異世界にも存在しなかった、空想の中にのみ存在する剣。


「──蛇腹剣!」


〔!?〕

〔うおお!〕

〔変形!?変身!?〕

〔ロマン武器来たあ!〕


 無数に分割された刀身と、それを繋ぐワイヤーが特徴の武器。

 振り抜けば刀身を繋ぐワイヤーが何故か伸縮し、鞭のように広範囲を攻撃できるという架空の武器だ。

 実際は振った際の刃の向きが不揃いになったり、ワイヤー部分の強度不安など、多くの問題が付き纏うこのロマン武器だが……本質を引き出されたアセンディアは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 何故なら──使()()()()()()()()()()()()のがこの武器の『理想』なのだから。


「ぐあアァッ!」

「な、何だその武器ハ! 何でそんな形状でまともに斬れル!?」

「決まっているでしょう……『そう言う形をしてるから』です!」


 蛇腹剣となったアセンディアを振るえば、まるでアニメやゲームのように、ワイヤーが十メートル以上伸びる。

 断片化された刀身一つ一つを覆うオーラを操作する事で刃の向きは揃い、現実では本来再現不可能な蛇腹剣の切れ味を現実のものとする。


「落ち着ケ、お前達! あんな見せかケだけの剣、近付けばまともに使えやしナイ!」


 そう言って翼を羽搏かせ、接近戦を挑んでくる悪魔。

 悪魔の爪による初撃をデュプリケーターで受け止めると、彼女は直ぐに蹴りや尻尾の刺突も織り交ぜたラッシュを放って来た。


「どうだッ!? そんな玩具は近接戦闘では余計な荷物に過ぎなイ!」


 彼女の攻撃をデュプリケーターや、異界双姿のドレスアーマーの機能で捌きながら考える。

 確かに、連結機構の所為で近接戦で蛇腹剣には強度の不安があるのも事実だ。彼女の判断は正しいと言える。

 しかし……


「──それは、これがアセンディアでなければの話ですね」

「なニッ!?」


 ワイヤーを収縮させ、即座に通常の剣のように戻したアセンディアで尻尾による刺突を受け止めると、悪魔の表情は一変した。

 そして、返しの刀で彼女の右わき腹から左肩にかけてを逆袈裟に斬り上げると、怯んだ悪魔は僅かに距離を取った。その隙に──


「がハッ……!?」


 蛇腹剣を伸ばした勢いを利用した刺突が、悪魔の腹を貫いていた。


〔なんか変に感動してる自分がいる〕

〔ロマン武器…実在したのか…〕


「さぁっ! どんどんかかって来なさい! 今この魔都で誰が一番の脅威か、教えてあげましょう!」


 そう宣言すると同時に、悪魔の腹を貫いたままのアセンディアを振るうと、頭部を正中線で真っ二つにされた悪魔が塵に還る。

 春葉アトに向かいかけていた悪魔達の注意が、狙い通り自身に戻って来たのを確認した次の瞬間──


「──キャアアアアア……」

「!? 今のは……!」


 私の耳に、少し前にも聞いたような悲鳴が聞こえた。

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