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第300話 vs魔都⑭

「──やぁッ!」

「う、ゲェ……ッ」


 春葉アト隊のダイバーが自らの得物であるトライデントを突き出すと、それに貫かれた私服の悪魔が、小さな断末魔を最期に塵となって崩れ落ちる。

 しかし、悪魔を倒したダイバーに休む暇を与えず、また次の悪魔が襲い掛かった。


「もう……っ、多すぎ! 外からも目立つし、ここに逃げ込んだのは間違いだったんじゃないの!?」

「文句言わないの! 今の私達なら、そんなに苦戦する相手でもないでしょ?」

「そうだけど……!」


 彼女達が戦っているのは、魔都にあった四階建ての旅館の最上階。

 百畳以上の畳が敷かれ、仕切りや柱を極端に排した広大な一部屋。所謂『百畳敷きの大広間』だ。

 そこを舞台に彼女達十数名は、その数倍の数で攻めて来る悪魔達と大立ち回りを演じていた。しかし……


「そらっ!」

「ぐゥ……ッ、つ、強イ……!?」

「どうなっテル!? 人間ハ我々より劣ル生物ではなかったのカ!?」


 春葉アト隊の旗色は決して悪くない。寧ろ、これだけの数の差を前に互角以上の戦いっぷりだ。

 それを可能としていたのが──


「散々レベルアップさせて貰ったからね! ここに来たばかりの私達じゃないよ!」


 春葉アト隊はこの旅館──第二のチェックポイントに逃げ込むまでの間に悪魔から捕捉され、何体もの悪魔を倒しながら進んで来た。

 悪魔が悪魔を呼ぶ絶え間ない襲撃を、狭い路地や屋内などの構造を活かしつつ戦い抜いた彼女達のレベルは上がり続け、今ではダイバー全体の中でも上澄みの実力者揃いといった風格だ。

 百畳敷きの大広間の天井は、およそ四メートル。この程度の高さで生まれる飛翔のアドバンテージなど、今の彼女達相手では何の意味も持たない。


「く……ッ、退ケッ! 撤退ダ! 屋内では戦うナ!」


 これ以上の戦闘はいたずらに悪魔側に犠牲を増やし、ダイバー達を強くするだけ。それを理解した悪魔達は春葉アト隊から手を引き、最奥の城へと向かって飛び去っていく。


「アトさん、追撃はどうします?」

「うーん……上手く撃ち落とせても二、三体ってとこかな? 魔力の温存を優先しようか。……多分、この後は魔都での襲撃がもっと激しくなるだろうからね」


 今の悪魔達の撤退は彼女達のリーダーへの報告と、増援の要請も兼ねていると踏んだ春葉アト。

 ここで数体程度減らしたところで意味は無いと判断し、魔法による追撃を止めさせると、続けて隊のメンバー達に短く指示を飛ばした。


「今の内に魔力回復用のポーションを飲んでおいて。悪魔が戻ってくる前にここを出て、最後のチェックポイントに向かおう」

「了解です!」


 ダイバー達の返事を聞いた春葉アトは、哨戒も兼ねて百畳敷きの広間をぐるりと囲むように伸びる廊下に歩み出て、魔都の最奥に壁に半分埋まったような状態で聳える城を見据える。

 旅館の四階の窓からは、城門前広場の様子も、その少し手前に立つ最後のチェックポイントも良く見えた。


(なんとなく、もう直ぐな気がする。だけど──)


 春葉アトは『その時』が迫っているのを薄々直感していた。


「……」


 パキリと、春葉アトが握りしめた窓枠が人知れず小さな音を立てた。



「──ご主人様。腕輪から回収致しました、魔石のお届けに参りました」

「ご苦労様、ユキ。こっちまで持って来てちょうだい」

「失礼します」


 魔都最奥の城内。

 その玉座に腰掛けながら、手元のスマホでオーマ=ヴィオレットの配信を見ていた魔族の元へ、無数の籠を両手に抱えたユキが歩み寄る。


「そこに置いてちょうだい」

「はい」


 スマホから目を離す事なく告げられる指示に従い、玉座の傍に抱えていた籠をそっと置くユキ。

 籠の中から水色の──人間の魔力で作られた魔石がいくつか転がり、大理石のように硬質な床にカツンと音を立てた。


「……あの、ご主人様。実は回収した魔石の中に一つ、妙な魔石が混じっていたのですが……」

「! 見せてくれる?」


 おずおずと切り出したユキに、ここで初めてスマホから視線を外した魔族。

 珍しく急かす様な視線を魔族から向けられながらも、ユキは胸ポケットから一つの魔石を取り出した。

 それは水色と紅色、二色が混ざらずに入り乱れたような色合いを持つ魔石であり……ユキはこの魔石の扱いに悩んだ末、直接主人である魔族に尋ねようと別個に持っていたのだった。


「ふふ……やっぱり、ね」

「ご主人様……その魔石はいったい……?」

「これはあの子──オーマ=ヴィオレットの魔石よ。人間になりかけている魔族の魔石。二つの魔力を持つ、貴重な物……これなら、きっと“よく馴染む”わ」

「馴染む……? それは、どういう──」

「──ご報告いたしまス!」


 ユキが詳しく尋ねようとしたまさにその時、部屋の扉を『バン!』と開いて一体の悪魔が駆け込んで来た。




「──そう、あの旅館にねぇ……」

「なにとぞ増援の許可ヲ! このままでは、奴らを押し留メル事も出来まセン!」


 その悪魔は先程春葉アト隊を襲撃し、そして敗走した生き残りの一体だった。

 彼女の報告を聞いたユキはそのタイミングの悪さに表情を強張らせ、恐る恐るといった様子で玉座に腰掛ける魔族へ視線を向ける。

 ……果たして、その予感は的中した。


「──ユキ、腕輪の魔石の収穫作業は終わったのよね?」

「え、えぇ……っと、その……──は、はい……」


 魔族の確認にしばらく視線を彷徨わせ、やがて観念したかのように首肯を返すユキ。

 本来彼女にとって『ご主人様』は絶対的な存在だ。嘘はおろか、誤魔化すと言う選択肢も存在しない。

 ……しかし今、そんな彼女の心に僅かな迷いが生まれていた。

 その抵抗とも呼べない程度の逡巡に何を思ったか、魔族はスッと立ち上がり……ユキの目を間近で見つめながら、宥めるように頭を撫でる。


「そう……貴女、怖いのね? 彼女達の所に向かう事が、春葉アトと戦う事が──私の命に従う事が……」

「い、いえ、そんなっ! 滅相もございません!」


 咄嗟に頭を下げようとするユキ。しかしそれよりも早く、彼女の顎に魔族の指がかけられ、クイと視線を上げさせられる。


「良いの。良いのよ、ユキ。私は怒ってる訳じゃないの。懐かしいわね……昔、一度だけあったわ。貴女が私の指示に難色を示した事が……」

「──? 私が、ですか……?」

「ええ。貴女は覚えていないでしょうけれど、ね。その時も私はこうして貴女を宥めて、言う事を聞いて貰ったのよね……」


 魔族の言葉にピンと来ていないユキの頭を、魔族は優しく撫でながら言葉を紡ぐ。


「あの時の貴女は忠誠心が足りなかった。だからそれを与えてあげた。今足りないのは、何かしらね?」

「……っ」


 目を合わせて微笑みかけているようで、その実何も見ていない。そんな魔族の表情に嫌な予感を覚えたユキは、咄嗟に後退ろうとするが──魔族は、そんなユキの両の角を掴む事でそれを制止する。

 そして……


「力かしら? 勇気かしら? それとも自信? ──良いわ、私が全部与えてあげる。受け取りなさい、ユキ」

「ま、待っ──」


 彼女の角を掴んだ魔族の両手から、莫大な魔力がユキへと流れ込んだ。


「あ──ああああぁぁああッ!!」

「ひ、ヒィ……ッ!?」


 ビクビクと全身を痙攣させるユキの様子に、報告に来た悪魔が怯える。

 魔族の魔力はユキの角を通して、彼女の頭に注がれていく。それを示す様に、ユキの水色の頭髪が根元から徐々にその色を失っていき──その名の通り、雪のような白髪に変わっていった。




「はぁ……はぁ……」

「──どうかしら? ユキ。生まれ変わって得た力は。……素晴らしいと思わない?」

「ええ……! ええ、仰る通りです! 今の私なら春葉アトにも負けない! 人間なんかに負ける筈が無い!」


 魔族の問いに答えるユキは、熱に浮かされたような表情をしており、明らかに正常な判断能力を失っていた。

 彼女は内側から湧き上がる力と高揚感に促されるまま、熱弁を続ける。


「素晴らしい力をありがとうございます、ご主人様! 貴女の忠実な下僕であるこのユキが、貴女に刃向かう全てを討ち滅ぼしてまいりましょう!」


 一方的にそう宣言した後、支度を整える為に部屋を飛び出したユキの背を満足気に見送る魔族。

 それは、今となっては彼女しか知らない、二百年前の光景と全く同じだった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 部下を良い感じに言いくるめて使い勝手の良い捨てゴマに…うーん見事な悪魔ぶりですな。 なんか『凄く頭が良くなって戦闘力もめちゃくちゃ上がった魔導師バビ○ィ』みたいな印象ですね…あい…
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