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第295話 vs魔都⑨

「──ここは……BARか。悪魔も酒を飲むのか……?」


 悪魔達の襲撃から身を隠す為、Katsu-首領-隊が逃げ込んだ先は薄暗いBARだった。

 驚いた事に悪魔にもそう言う文化があるらしく、使用済みのグラスを洗った形跡まで見られるが、しかし今は緊急事態である為か営業はしていなかったようだ。

 恐らくは従業員も皆戦闘に出ているのだろう。静かな店内の様子を横目に観察しながら、Katsu-首領-は隊を先導して店の奥へと向かう。


(ここは居住スペースか……今は誰もいないようだな)


 カウンターの奥へ続く通路に出ると、そこには裏口まで続く真っ直ぐな通路が伸びていた。

 向かって左側には昔の厨房らしき一角があり、その奥には二階へと続く階段。そして通路の反対側には、一段上がって畳が敷かれた部屋がある。

 悪魔達が暮らすにしては妙に和風だが、明治時代の街並みの中にある建物としては違和感は無い。ごく一般的な居住スペースといった風情だ。しかしそれは──


(ここはあまり籠城に向いているとは言えないな。だが……!)

「皆、こっちだ! 階段を上るぞ!」


 背後からは悪魔が追って来ている。熟考している時間は無い。Katsu-首領-は咄嗟の判断で二階へ続く階段に足をかける。

 これは一種の賭けでもあった。

 二階に到達する前に悪魔が上から降りてくれば、不利な戦いを強いられる。しかし、逆に先に二階を占拠する事が出来れば、少なくとも一階から上ってくる悪魔に対しては圧倒的に優位な立ち位置で戦える。


(──良し! 悪魔達は二階から攻めて来てはいない……!)


 Katsu-首領-の判断が早かったからだろう。階段を上りきるまでは、順調だった。しかし……


「な……! これは、思った以上に……!」


 二階に到達したKatsu-首領-は、その光景に一瞬立ち止まる。


(狭い……! これでは戦うどころではない!)


 階段を上った先は広さにして六畳ほどの部屋だった。

 戦闘を行うには手狭であり、更には今の彼等は少人数とは言え部隊。これでは文字通り一網打尽にされてしまう。

 だが、周囲の状況を見回したKatsu-首領-は直ぐに気付いた。


(っ! ふすま……! 部屋が仕切られているのか!)


 階段を挟むように、左右にふすまがあったのだ。

 Katsu-首領-は少なくとも今のまま戦うよりはマシと、向かって左のふすまを開け放つ。

 ……しかし、そこでまたしてもKatsu-首領-は、目の前の光景に息を飲む事になった。


「窓……!」


 開けたふすまの先には、やや縦長の十畳ほどの座敷が広がっており、その奥には大通りに臨む大きな窓があったのだ。

 当然、その先には数体の悪魔が飛んでおり……その内の一体と視線が合ってしまった。


(マズい……ッ!)

「皆、急げ! 家具でも畳でもなんでもいい! 窓を塞ぐぞ!!」


 そう指示を出すと同時にKatsu-首領-は帯電する長剣と、炎を纏うサーベルを構えて駆けだした。

 直後、窓を破って部屋に突入してくる悪魔。

 Katsu-首領-は正面から迎え撃つ形となったが、拳や尻尾と数手ほど打ち合った後、魔法を使おうとした一瞬の隙を突き、Katsu-首領-の斬撃が悪魔を切り伏せた。

 当然部屋に入って来た悪魔はその一体だけではなかったが……


「──【燕返し】! 【一閃】!」

「──【引き斬り】ッ!」


 ソーマや闇乃トバリといった近接戦闘ジョブのダイバーが主体となって、数体の悪魔を押し留める。

 そして彼等が時間を稼いでいる内に──


「──波ァァァーーーーーッ!!」


 オーマ=ヴィオレットから魔力の大砲を教えて貰ったダイバーが、どこかで見た構えから大量の魔力による光線を放ち、窓周辺の悪魔を吹っ飛ばす。

 そうして作った一瞬の隙を突いて、他のダイバーが畳を剥し、タンスを持ち上げ、窓の前に置いていく。さらに……


「仕上げは任せて! ──【サテライト・ウォーター】!」

「──■■■■! 凍れ!」


 配置された家具や畳を水の球体で包み、それを凍らせる事で、窓を塞ぐバリケードを築く事に成功した。

 ……しかし、窮地は変わらない。


「追い詰メたヨ~!」

「もう逃げられナイ!」


 窓を塞いだことで退路を自ら断ったKatsu-首領-隊は、今のいざこざの内に階段を上って来た悪魔達との連戦を強いられることになった。

 ……だが、この時点でKatsu-首領-の策の一つは完了していたのだ。


「どうやら、この状況の本当の意味を理解していないらしいな……! ──今だ、トバリ!」

「? ナニをッ──」


 言葉の途中で、ニヤニヤと笑みを浮かべたまま悪魔の首が飛ぶ。

 それをなしたのは、突如彼女の首元に現れた、死神を思わせる大鎌だ。


「っ!? オ前、いつの間ニッ!」


 仲間を目の前で殺された悪魔は、怒りの眼差しで大鎌の持ち主を睨むが──


「き、消えタッ──」


 その姿が薄闇に溶けた次の瞬間、彼女の首もまた先程の悪魔同様宙を舞った。


「──影は俺の一部。俺もまた影の一部……ここはもう、俺の腹の中だ……!」


 そう。この環境こそがKatsu-首領-の思い描いた理想の籠城だった。

 大通りに面した窓を塞ぎ、部屋を影で覆う。それにより悪魔の侵入経路を制限すると同時に、闇乃トバリの『エレボスの外套』が最大限力を発揮する環境を整えたのだ。


「ふぅ……助かったぞ、トバリ……!」

「それは俺のセリフだ、Katsu-首領-。元々これは俺の不始末が招いた状況……雪辱の機会を貰えたことに、感謝する!」


 そう言い残して、闇乃トバリは再び影と同化し、なおも部屋に入って来る悪魔達の首を狩っていく。

 攻撃の一瞬しか姿を現さない闇乃トバリに悪魔達は動揺し、一方的な戦況が構築された。

 ……だが、Katsu-首領-は知っている。闇乃トバリの『エレボスの外套』には、決してカバーできない()()()()()がある事を。

 それを悪魔に気取られる前にこの状況を更に好転させなければ、窮地を真に脱したと言えない事を。


「総員、油断なく悪魔を殲滅しろ! 闇乃トバリだけに良い恰好させていては、ダイバーの名が廃るぞ!」

「オォーッ!!」


 Katsu-首領-の激にダイバー達の士気が上がる。

 こうして影の籠城戦は正念場を迎えたのだった。



「──見えました! あそこですね!」


 一方その頃、魔都の路地裏を全速力で進むクリム隊。

 彼女達は窮地に陥ったKatsu-首領-隊を救出する為、彼等が籠城するBARを目指して駆けていた。

 当然ながら魔都の何処に彼等が逃げ込んだBARがあるのか、彼女達は知識として持っていない。だが、どこを目指すべきかは最初から分かっていたのだ。

 というのも……


〔分かりやすいな……嫌な意味で……〕


 Katsu-首領-隊が籠城するBARに向かって飛翔する悪魔は後を絶たず、更に視界に収めたその建物には夥しい数の悪魔達が群がっていたからだ。


「凄い数……Katsu-首領-さん達は大丈夫でしょうか……!」


〔上手い事籠城して耐えてる!〕

〔マジで上手くやってる。初見の建物でよくあそこまでやれるよなぁ…〕

〔ただ、トバリの弱点がバレるまえに何とかしたい〕

〔その為にコメントも非表示にしてるからな……〕


「なるほど……」

(時間はあまり無いって事ですね……!)


 路地裏を駆けながらコメントから情報を仕入れるクリムは、建物に群がる悪魔達を見上げて戦力を分析する。


(軍服の悪魔が多い……! そして、その中に指揮を執っている悪魔が一人! あの悪魔を倒せば……!)


 軍服の悪魔はそう言う訓練を詰んでいるのか、連携に優れている。

 その要である司令塔をいち早く確認したクリムは、後に続く部隊のダイバー達に告げた。


「皆さん、私は一人先行してあの司令塔を叩きます! 皆さんは引き続き、Katsu-首領-さん達の救助をお願いします!」

「ちょ……っ、クリム先輩!? 一人でってどうやって……」


 クリム隊に配属された高野恋の声を尻目に、クリムは鋼糸蜘蛛の焔魔槍を構える。そして、石突から伸びるワイヤーを操り、横糸の性質に切り替えると、それを近くの建物の屋根へと伸ばした。

 それがしっかりと屋根に張り付いた事を確認すると、彼女はそれを伸縮させ──


「皆さん、頼みましたよーっ!」

「な、なんかアメコミのヒーロー見たいッスね……クリム先輩……」


 呆然と見送る高野恋達に後の指揮を任せ、一人屋根へと上るのだった。

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