第280話 配信後、深層入り口にて
すみません、予約投稿ミスってました!
次回は普段のペース通り3/6に投稿予定です!
迷惑系ダイバー達が協会職員達に連れていかれ、全員が配信を終了した後。
私はこの場に残った合格者達に、教えて欲しい魔法について聞きまわっていた。
「──ふむ、バリアのような魔法ですか」
「はい! 上空からの魔法を防げれば、回復や休憩する時も安心かなって……」
「なるほど。私の方でも対策は考えていますが、自分でも対処出来ればそれに越した事はありませんね」
「──威力のある遠距離攻撃ですか。確かに悪魔相手であれば必須になるでしょうね」
「前のゴブリンの要塞じゃあ、良いようにやられてしまったからな。……あんな醜態はもうごめんだ」
「良いでしょう。分かっていると思いますが、この魔法を犯罪に利用した場合は──」
「ああ。当然そんな事に使うつもりはないが、もしもの時はどうとでもしてくれ」
「──空を飛ぶ魔法……ですか」
「悪魔だけが飛べるってやっぱり不利でしょ? 攻めるにしても逃げるにしても、上下の選択肢があると変わると思うの」
「そうですね。それは間違いありませんが……扱いは非常に難しいですよ? 私だって翼を使って制御してるくらいですし」
「ぅ……そんなに……?」
「『手足を使わずに泳げ』って言ってるようなものですからね。多分飛べたとしても、飛んでる間はまともな戦闘が出来る状態ではないかと……」
「う、うーん……空は飛んでみたいけど……──少し考えさせて!」
彼等が望む魔法はまさに十人十色。
それぞれの戦い方や、抱える改善点。悪魔への対策等の観点から様々な魔法を教える事になった。
魔法の難易度によってはそれを伝えて確認を取る事もあったが……一通り希望の魔法の詠唱や名前、そして訓練の仕方を教えていく。
「く、くりぇーら……ふぉむぬ……しぇんとるーぱ……?」
「■■■■■■■■■■■■■■■……響きとしては『クリェーラ フォムンヌ シェンドルーパ』が近いですね。意味は先程も言った通り、『大気の盾よ、我が身を守れ』です。魔法が発動したら正式な魔法名を教えますので、先ずは発動させる事に専念してイメージを固めましょう。魔力操作のイメージは空気に溶かした魔力を操って、盾を作る感じです」
「ほ、本物の魔法ってこんなに難しいんですか……!?」
「複雑な魔法程詠唱は長くなりますからね……この魔法は他者に危害を加える事も無いので、地上でも練習は出来ますから頑張ってください」
「うぅ……英検の勉強してる気分……」
以前配信越しに教えた【■■■】……もう最近はSNSでも『手汗魔法』で浸透してしまったが、アレと同じ感覚で習得できる魔法は存在しない。
実戦で使える本格的な魔法を一から習得するとなると、短く見積もっても数十時間はかかるだろう。
魔都攻略までに習得できる魔法は恐らく一人につき、二つか三つが限界だ。
……とは言え、回復魔法や防御の魔法なんかは地上でも練習できる為、努力次第だが習得は出来るだろう。
問題はダンジョンでしか練習ができない攻撃魔法だが──
「バラルキン フィジー……リーラ?」
「■■■■■■■■■■■■発音は『バラァル クィン フィズィーラリーヤ』が近いです。意味は『魔力の大砲』。イメージは……有名なバトル漫画の『波ァーーー!』が分かりやすいですね」
「マジか……『アレ』がリアルで撃てるのかよ。オラ、ワクワクして来たぞ……」
こちらはモチベーションを刺激する形で習得を促す事にした。
形から入るタイプだったのか、気合が早速口調に現れたダイバーに思わず笑みが漏れる。
「ふふっ、イメージはしっかりしていればしている程習得しやすいですからね。分かりやすい魔法を選びました。込める魔力によって威力の調整もしやすいですし、使いやすさや発動の早さも長所です。無詠唱で発動できれば、まんま『アレ』が出来ますよ♪」
「うおお……ぜってぇモノにすっぞ……!」
「あっ、この魔法を練習する時はくれぐれもダンジョン内で、特にここのように人の少ない所でお願いしますね。うっかり成功しちゃったら大変なことになりますので……」
「ああ、わかった!」
練習場所としては今居るこの部屋をお勧めしておいた。
深層の入り口であるにもかかわらず、鉄扉で深層と区切られたここには魔物が湧かない。
恐らくは下層に向かって絶えず魔力が流れている所為で、魔物が上手く現出できないのだろう。境界周りの魔力量は安定しないから、こういう事も良くあるようだ。
そんな感じでコツや発声の間違いなどを教えて行き、やがて最後の二人の順番がやって来た。
その二人は──
「それで、貴女達が最後になりますが……わざわざ『最後に回してくれ』と言ったのは、何か理由があるんですよね? ティガーさん、魅國さん」
彼女達は自ら訓練の順番を後回しにしていた。
その理由は恐らく、ティガーが組手の途中でこっそりと私に伝えてきた『配信の後に用がある』と関係があるのだろう。時間を取って欲しいとも言っていた為、余程の事情があるようだが……
「あぁ……すまんねんけど、ウチらともう一回組手して欲しいんや。二対一っちゅう形になってまうけど、頼めるか?」
「もう一度……? ティガーさん達は既に合格していますが……」
「ウチ等のスキルになぁ、二人一組のもんがあんねん。魔都攻略の作戦にとっても、きっとカギになる……せやから、ヴィオレットには予め知っといて欲しいんや」
二人一組のスキル……そんなものがどうして存在するのかは疑問だが、あのティガーが作戦でカギになると言うくらいだ。余程強力なスキルなのだろう。
「……分かりました。では皆さんにも伝えてきますね」
この部屋は広いとはいえ、十人以上のダイバーが各々の魔法を訓練する為にそれなりのスペースを使っている。
防御魔法や回復魔法など、安全な魔法を練習しているダイバー達は少し詰めて貰い、急遽組手用のスペースを確保する事になった。
◇
「二人一組のスキル……そんなの、聞いた事ないけどな……」
紫織に言われて場所を詰め、魔法の練習をしながらチラリと視線をティガー達に向ける。
彼女達がそんな嘘を言うとは思えないが、そうなのかと直ぐに信じるのも難しい話だった。
「聞いた事が無いスキルが見つかるのは、最近じゃそう珍しい事じゃないでしょ? 【ノブレス・オブリージュ】と【聖痕/スティグマ】だって、今もあたし専用のスキルみたいなところあるしさ」
「は……アト先輩。まぁ、確かにここ最近そう言うスキルを発現するダイバーも妙に多いですけど、二人一組って言うのは流石に異質ですよ……」
俺の独り言に対する返答をしたのは、いつの間にか隣に来ていた春葉アト──真崎遥香先輩だった。
確かに彼女が言うように、実力の高いダイバーに他のダイバーが習得できない『固有スキル』とでもいうようなものが発現する事例はこれまでにもあった。
クリムの【クレセント・アフターグロウ】や、Katsu-首領-さんが今回の組手で初めて見せた自動反撃もその類だろう。
だけど、それはあくまでも本人の才能や研鑽によって発現した物だ。『二人一組』……他者に依存することが前提なんてスキルが、はたしてそう言った経緯で発現する物なのだろうか。
「確かに変わったスキルだけどね、実際にあるんだったら『そう言う事もある』って事なんじゃないかな」
「……まぁ、そうなんでしょうけどね」
ダンジョン療法士を目指して勉強してきた身としては、また覚える事が増えるのはちょっと勘弁だ。
新しい事実が発見される度に資格試験は難しくなるのだから。
「……って言うか、アト先輩はしなくて良いんですか? 魔法の練習」
「ん? あぁ、その前にソーマくんに渡しておこうと思ってね。──【ストレージ】」
『何を?』と俺が尋ねるよりも早く、彼女は腕輪から取り出したものをこちらに差し出した。
「はい、実力検査の合格祝い。きっと君にはこっちの方が合ってるよ。あたしの直感!」
「ちょっ……これって……!?」
彼女がやや強引に手渡してきたのは、品の良い装飾が施された鞘に収まった一振りのサーベル。
俺がメイン武器に使っているショートソードと近い刃渡りのそれは、しかし俺の剣とは比べ物にならない雰囲気を放っていた。
「これ……アト先輩が倒した悪魔が持ってた、炎の魔剣じゃないですか!? こんな高価なもの、合格祝いなんかで受けとれませんって!」
「良いから良いから、魔都攻略にソーマくんも来るんでしょ? 寧ろ今のショートソードじゃ力不足だよ」
「だからって……」
「あたしのメイン武器がハルバートなの知ってるでしょ? 感覚が違い過ぎて、あたしじゃ使い道が無いんだよ。この武器」
半ば強引に押し切られるような形で、俺の手に収まる魔剣。
ずっしりと両手に感じるその価値の重みに、貧乏性な俺はどうしても慣れない。
「……こう言うのって、ラウンズのメンバーに渡した方が良いんじゃないですか?」
最後の抵抗とばかりに聞いてみるが、彼女はひらひらと手を振りながらあっけらかんとそれを否定した。
「良いの良いの、そもそもウチのクラン的にサーベルって不人気って言うか……ほら、騎士っぽくないじゃない?」
「えぇ……?」
ラウンズが実質『ラウンズ・サーガFC』というのは有名な話だが、まさかここまで徹底しているとは……なんかこの武器がちょっと可哀そうに思えて来たな。
(とはいえ、あの真崎先輩がわざわざ手渡しに来たんだ。何か意味がありそうだし、使えるようにはなっておくか……)
この魔剣を協会に換金して貰えば、恐らく数千万以上の値が付くだろう。
『推し活の資金集め』を目的とするラウンズであれば、そうする方が自然なのだ。
それが今こうして俺の手に渡って来た……これはもしかしたら、俺の思う以上に重要な事だった可能性がある。
「さーて、それじゃああたしもこのへんで自分の魔法の訓練に戻ろうかな……──っと思ってたけど、そろそろティガーちゃん達の組手も始まりそうだね。ついでに一緒に見る?」
「え? えっと……はい」
周囲のダイバーもティガー達に注目しているようだ。
俺も彼らに倣って、彼女達の組手を見守る姿勢を取った。
そして、しんとした静寂が見守る中──彼女達の持つスキルによって組手の開始が告げられた。
「──【虎華誇為】!」
「──【誇華虎意】!」
ティガー&魅國のコンビの戦い方に関してはもう描く事は描いたのでダイジェストにする予定です。




