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第275話 水と炎

 魅國の実力を測る為の魔法戦。

 Katsu-首領-による開始の宣言直後、両者の魔法が同時に展開された。


「(【■■■■■■■(無垢なる水よ)■■■■■■■■■■(我が意に染まりて従え)】)──『水の従者』」


 炎の魔法を扱う魅國に対抗するべくヴィオレットが発動したのは、水の魔法だった。

 ヴィオレットと百合原咲が戦った際に使われた水魔法によって、部屋の至る所に水溜りが作られていたのだが……その水に彼女の魔力が注がれた瞬間、それらは浮き上がるとヴィオレットの前に束ねられた。

 まるで百合原咲が使う魔法【サテライト・ウォーター】のようにも見えるその魔法に対し、魅國が発動した魔法は──


「! 【無詠唱】ですか……」

「そうや。便利やろ? 声に出して発動せんでええから、いっぺんにいくつも魔法撃てんねん」


 ヴィオレットの確認にそう答えた魅國の周囲には、六つの火球が浮かんでいた。

 それら一つ一つは炎魔法の基本である【ファイアーボール】だが、同時に六つも制御するとなると、かなり高度な魔力操作を要求される。

 彼女がレベルや【無詠唱】に頼るだけのダイバーではない事の証左と言えるだろう。


「魔法戦っちゅう事やからな、遠慮なく行くで?」

「ええ。念の為に全身を魔力で防御していますから、いくらでも撃ってきてください」

「それ聞いて安心したわ」


 六つの火球が一斉に撃ち出される。

 火球は空中でそれぞれ軌道を変え、四方からヴィオレットへと向かうが、それを阻止したのは彼女が先程『水の従者』で浮かばせた水の塊だった。

 水の塊はぐにゃりと粘土のように形を変えながら空中を漂い、主へ襲い掛かる炎を次々にその身で受けて防いでいく。

 ジュウジュウと身体の一部を蒸発させながらも、魅國の攻撃を防ぎ切った水の塊が再びヴィオレットの正面へと舞い戻ると、魅國の目が見開かれた。


「! それ、『サテライト・ウォーター』やなかったんやね」

「簡易的なゴーレムのような物です。水分と魔力がある限り、私の身を自動的に守ってくれるんですよ」


 立ち上っていた白い蒸気が収まると、心なしか水の塊は最初よりも小さくなったように見える。

 この体積を全て蒸発させれば、この魔法は解除されるという事だろう。

 それを理解した魅國は……それよりも、もっと直接的な解決策に出た。


「ほなこう言うんはどうや?」


 魅國が構えた杖の先から、一筋の熱線が高速で放たれる。

 貫通力に特化した炎魔法【プラズマ・レイ】だ。いくら自動で防ぐと言っても、ただの水ではこの攻撃は防ぐ事が出来ない。

 攻撃を察知してヴィオレットの正面で盾のように広げた『水の従者』だが、それは一瞬の抵抗もなく貫かれるだろうと確信する魅國。

 しかし──


「そうはいきません」


 ヴィオレットがそう言って手を『水の従者』に触れさせると、『水の従者』が一瞬で凍結し氷の盾となる。

 【エンチャント】によって凍結の性質を付与させたのだろう。魅國の放った熱線は氷の盾の表面を蒸発させて抉る事には成功したが、貫通には至らなかった。

 そして【プラズマ・レイ】を防ぎ切ったことを確認したヴィオレットが【エンチャント】を解除すると、『水の従者』は再び水の塊に戻った。


「なるほどなぁ……確かに、一筋縄では行かなそうやね」

「これで分かったでしょう? 遠慮はいりませんよ。本番と行きましょう」


 ヴィオレットが指摘したように、ここまでは魅國も様子見の段階だった。

 組手で殺傷力の高い炎の魔法を使って良いのか、彼女は確かめる必要があったからだ。

 しかし、まだそれほど多くの魔法を見せていないにもかかわらず、余裕を持って対処して見せたヴィオレットを見て、ついに魅國は本気を見せる決心がついた。


「やっぱり分かっとったか。ほな……おしゃべりはここまでやね」

「!」


 魅國の足元から吹きあがった炎が無数に分かれ、計四体の炎の蛇となる。

 火柱を蛇のように操る【プロミネンス】の魔法だ。

 威力は勿論の事、操作性と持続力に特化しており、様々な状況で活躍する上級者御用達の魔法を【無詠唱】で四つの並列発動。

 【無詠唱】の使用にも魔力を消費する事を考えると決して軽い消耗ではない筈だが、それでも魅國は平然としている様子だった。


(……流石に、今のままでは対処が難しそうですね)


 そう判断するが早いか、ヴィオレットは自身の腕輪に指を添える。


「──【ストレージ】」


 そして手に持っていた訓練用ショートソードを収納し、代わりに取り出したのは──


(まさか、この企画で使う事になるとは思わなかったな……)


 無数の水風船だ。

 最後に使ったのはいつだったか、用意はしたものの死蔵されていたそれらは彼女の片手では収まらず、ぼとぼとと地面に零れ落ちていく。


「(【■■■■■■■(無垢なる水よ)■■■■■■■■■■(我が意に染まりて従え)】)──『水の従者』」


 その目的は言わずもがな、『水の従者』の体積アップだった。

 割られた水風船から新たに従属した水が『水の従者』へと殺到し、混ざり合い、その規模を大きくしていく。


「おっと、そうはさせへんよ!」

「む……!」


 四匹の炎蛇がヴィオレットを包囲するように宙を舞い、ぐるぐると回転しながらその径を狭めていく。

 逃げ場を封じる動きにヴィオレットが身構えていると、魅國は更に魔法を行使した。


「──【バーン・ウェイブ】!」

「なるほど……!」


 魅國の足元から、波のように炎がせり上がる。

 最初はさざ波程度だった炎はヴィオレットに近付く毎に高くなっていき、最終的に一メートル程の高さの壁となって彼女に迫った。

 頭上には既に四匹の炎蛇が取り巻いており、反応した水の従者はヴィオレットを覆うドームのように展開している。


(【プロミネンス】と【バーン・ウェイブ】で、『水の従者』を削りきるつもりか……ならばその前に──!)

「(【■■(水よ)■■■■■■■■■(荒れ狂う激流の)■■■■■■■(大蛇と化せ)】)──『水の大蛇』!」


 ヴィオレットが『水の従者』に触れて魔法を使った瞬間、『水の従者』は勢い良く吹き上がり、その形を変えていく。

 それは忽ち巨大な蛇と化して空中に浮くと、ヴィオレットに迫る【プロミネンス】の一つをあっという間に飲み込み、消火してしまった。


「なんや、随分と派手な魔法が出よったなぁ……!」


 一瞬にして形勢が不利になったと察知した魅國は、現れた『水の大蛇』は無視してヴィオレットの方を狙おうとするが──


(! ヴィオレットはんも空飛んだか……これはもう【バーン・ウェイブ】は役に立たんなぁ)


 ヴィオレットは『水の大蛇』が浮かび上がるのと同時に飛翔しており、【バーン・ウェイブ】も躱されてしまった後だった。

 残った三体の【プロミネンス】もけしかけてみるが、ヴィオレット本体がヒラリヒラリと躱している内に『水の大蛇』に呑まれて消されてしまった。

 その過程で『水の大蛇』のサイズも多少減りはしたが、まだまだ健在だ。


(【バーン・ウェイブ】は届かん、【プロミネンス】は火力不足……それなら、次は──)



「──今のところ、ヴィオレットは様子見か?」


 魔法戦の行く末を見守っていたダイバーの一人が、少し残念そうにそう呟く。

 というのも、戦闘が始まってから今まで、積極的に動いているのは魅國ばかりで、ヴィオレットは殆ど様子見をしているからだ。

 ヴィオレットの手によって次から次へと異世界の魔法が繰り出される光景を期待していた彼等にとって、『水の従者』と『水の大蛇』以外にそれが見られていないのは少しばかり残念な展開だった。


「しっかし蒸し暑くなって来たな、ここ……」

「炎の魔法と水の魔法をぶつけ合ってんだからなぁ。これもう、ちょっとしたサウナだろ……」

「状況もあまり動かないし、一旦ロビーに戻りたいな……」


 レベルアップで超人的な身体能力を持つダイバーと言っても、暑い物は暑いのだ。

 ダンジョン内で装備を脱ぐ訳にも行かない彼等の口から、愚痴の一つや二つがこぼれるのも仕方のない事だろう。

 ……しかし彼等がげんなりとした表情で額から伝う汗を拭いているその裏で、魅國の作戦は既に佳境に差し掛かっていた。

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