第274話 悲喜交々
高野恋の後も、ラウンズのダイバーが次々に私と組手をし、合否の判定を受けて行った。
「──良く分かりました。合格です」
「~~っ! ありがとうございます!」
最近急速に強くなった事で知られ始めているラウンズのダイバー達は、いずれも高い身体能力を有していた。
探索や攻略に対するモチベーション(主に打倒ユキ)の高まりが、彼女達のレベルアップによる成長を助けたのだろう。
……しかし、それがそのまま合格に繋がる訳ではない。
「──残念ながら、不合格です。理由はもう、分かってますね?」
「はい……──ありがとうございました……ッ!」
フェイントに弱かったり、誘いを見破れない者などは、いくら高い身体能力を持っていても策に嵌まって死んでしまう可能性が高い。彼女達の命を守る為にも、今回は不合格とさせて貰った。
しかし、彼女達の思いは──悲願はきっと、春葉アトを始めとしたラウンズの仲間が受け継いでくれるだろう。
不合格を告げられた彼女達がその無念を仲間に託す光景は、私の立つ部屋の中央からも見る事が出来た。
「お願いします、アトさん。私の分も絶対──ユキをぶっ〇してきてください!」
「絶対に……絶対に、ユキだけはラウンズの手で!」
「──うん、任せて。貴女たちの思い、確かに背負ったよ」
……まぁ、内容は非常に物騒ではあったが。
因みにだが、今回の検査においてヒーラーのダイバーについては、こちらの攻撃に対して一定以上の対応力を見せて貰えば合格とさせて貰った。
ヒーラーに求められているのはある程度自分の身を守れる事と、戦場でも味方に注意を払い、危機に瀕した仲間を回復出来る能力だからだ。
その点で言うと、ラウンズのヒーラーはその殆どが合格を上げられるレベルの実力者が揃っていた。
リーダーである春葉アトの影響もあるのだろう。
なにせヒーラージョブの『クレリック』が、最強の戦闘職『パラディン』になるという可能性を示した本人が率いるクランだ。彼女に続こうと戦闘技能を鍛えた者が非常に多かった。
(頼もしい限りだ。ヒーラーの数はそのまま生存率に繋がるからな)
この世界では魔法やレベルアップによる治療が出来るからこそ、生きて帰還さえできれば何とかなる。その最大の助けが前線で回復魔法を使えるヒーラーだ。
私や春葉アトも回復魔法は使えるが、今回はそれなりの人数による攻略を見越している。二人で攻略メンバー全体のカバーをするのは非現実的である為、彼女達の存在は非常にありがたかった。
「さて、次はとうとう貴女ですか……──ティガーさん」
「おぅ。さっきまで組手見とったけど、腕は鈍っとらんようで安心したわ。活動休止の期間があったから不安やったけど、杞憂やったな」
「その節はご心配をおかけしました。そして、あの日助けに来ていただいて、ありがとうございました。改めて感謝します」
感謝と共に頭を下げる。
私の正体が明るみになった騒動もあって、こうして改まって感謝するのも随分と遅れてしまった。
「ええって。感謝ならあの日にもう貰っとるしな。……それよりも、早速やろうやないか。ウチ一人でアンタにどこまで喰らいつけるか、試したいんや」
「? ……わかりました。では始めましょうか。合図をお願いします」
発言に少し引っ掛かるところはあったが、この後もまだまだダイバーは控えている。
この配信後にも魔法の訓練などやる事がある為、私は彼女の促すままに距離を取り、武器を構えて合図を待った。
そして……
「二人とも準備ええな? ──始めッ!」
魅國の合図で戦いが始まった。
「──最初から飛ばして行くでェ!」
ティガーの戦い方における最大の特徴……四足獣のように低い姿勢と速度から繰り出される力強い攻撃の数々を、両手のショートソードで確実に捌いていく。
今回組手と言う事で本来の武器を封じられたティガーの得物は、今の私と同じ訓練用ショートソードの二刀流だ。
互いの間合いは完全に重なっており、至近距離での剣戟が絶えず繰り広げられる。
(流石はティガーだ。魔法の牽制はまるで意味が無かったな……)
一見して前のめりに転倒しそうなほど低い姿勢での疾走ながら、【マジックステップ】を用いた足捌きで直角に曲がる事も出来る彼女には、牽制の風弾など止まって見えるのかもしれない。
そしてその動きは近接戦闘に持ち込んだ後は、より一層冴え渡る。
「流石、ですね! 素晴らしい連撃です!」
「ハッ! 余裕で捌いとるくせに、よぉ言うわホンマ! ──まだまだ行くでェ!!」
正面からの攻撃を受け流した次の瞬間には、背後から斬撃が襲ってくる。
左に右に動き回りかく乱し、刺突斬撃織り交ぜて攻めかかる気迫はまさに猛獣のそれだ。
こちらも両手のショートソードと尻尾で反撃を試みてはいるが、その攻撃の予兆を確実に見切って来る。下手な反撃をしようものなら、その反撃にカウンターを合わせられそうだ。
(恐らくは魔力感知。少し前のティガーは苦手としていた筈だけど、この短期間で克服して来たのか……!)
「──むっ!?」
既に関西ではトップダイバーとして揺るぎない実力を備えているだろう彼女が、今も成長を続けている事実に舌を巻いていると……突然、彼女がらしからぬ攻撃に出た。
(正面からの斬撃……それも、鍔迫り合いを狙っている……!?)
ティガーのような戦い方をする者にとって、鍔迫り合いなんてその強みを殺すだけだ。
それを理解していない筈もない彼女が態々それを狙う意図は分からなかったが、敢えて私はそれに応じて自身の得物をティガーの攻撃にぶつけるようにして競り合った。
「一体何を狙って──」
「──配信の後、用がある」
「っ!?」
「時間、作って貰えるか?」
どうやらこのメッセージが彼女の目的だったのだろう。
私が小声で『分かりました』と答えると、彼女は自ら距離を取る事で鍔迫り合いを解除。再びいつもの戦い方に戻り、その後も組み手は続けられることになった。
「──素晴らしい実力です。今更言うまででもありませんが、合格です」
「おっしゃ! ま、当然やな!」
切り結ぶ事数分。その動きを十分理解した私は、彼女に合格を告げた。
と言っても、彼女は既にチヨ相手に四回以上勝利している。実力の高さはその時点で十分に証明されており、今回の合格も最初から決まっていたような物だった。
合格を讃えるダイバー達の歓声に手を振りながら、悠々と彼等の元へ歩いていく彼女の背を目で追う。
(配信後の『用』、か……)
彼女の言っていたそれが何なのか……組手の途中では告げられなかったが、恐らくは魔法関連ではないだろう。
それならば態々らしくない動きまでして、こそこそ告げる必要は無いからだ。合格者には配信終了後、この場所で魔法の訓練を付ける事は既に大々的に発表しているのだし。
「……さっきの事、考えとるん?」
「! 魅國さん。次の相手は貴女でしたね」
ティガーの方を見て考え込んでいた私の様子からそう判断したのだろう。
今は彼女と同じクラン『虎華呼居』のメンバーとなった魅國が、訳知り顔で尋ねて来た。
「今は気にせんでもええよ。それよりもウチの武器……ちょいと訓練用のもんが見当たらんくてなぁ。これでもええやろか?」
そう言う彼女が持っているのは、全金属製の細い杖だった。
杖と言ってもダイバーが使う魔法を補助する目的で作られた物であり、先端には恐らくゴブリンの物だろう。申し訳程度の魔石が嵌まっていた。
「あぁ……確かに訓練用の鉄扇なんて、普通はありませんよね。すみません、こちらの落ち度です。もしもご希望であれば、本来の武器での組手も受け付けますが……」
「かまへんよ。今のスタイルに落ち着く前は、普通の杖を使っとった時期もあるさかい。それに、流石に不公平やろ?」
「……そうですね、分かりました。配慮に感謝します」
魅國の戦闘スタイルは鉄扇ありきと言っても良い。
それを封じられてしまっている以上、彼女がこの組手で本領を発揮できることは無いだろう。
そんな状態での組手で実力検査の本懐が達成されるのかと聞かれれば微妙としか言えないが、不幸中の幸いは彼女が既にチヨを倒した事がある事だ。
実力の証明がされている為、彼女もまた合格が決定されたダイバーの一人だった。だから──
「……貴女の実力は、純粋な魔法戦で測る事にしましょう。私は迎撃に専念しますので、どんどん撃ってきてください」
「ふふ、おおきに。ヴィオレットはんの魔法、楽しみやわぁ」
「思えば純粋な魔法戦は久しぶりですね……勘を取り戻す為にも、色々使ってみましょうか。そう言う訳なので、合図を出したら急いで離れてくださいね。Katsu-首領-さん」
「あ、ああ。じゃあ、二人とも準備は良いな? ……──始めっ!」
そして、逃げるように全力で駆け出したKatsu-首領-を余所に、私と魅國から魔力が溢れ出した。




