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第271話 理想を求めて得た力

「──さて、次はあたしの番だね! ヴィオレットちゃん!」


 三戦目の相手は春葉アト。

 彼女の本来の武器はダイバー名の通り『ハルバート』だが、市販されている訓練用の武器にそのようなマニアックな物が存在する筈もなく、彼女の両手には最もそれに近い武器である槍が一本ずつ握られていた。


「春葉アトさん……最強のダイバーと謳われた貴女と戦えるのは、私としても貴重な経験となるでしょうね」

「『元』ね。今の最強のダイバーは間違いなくヴィオレットちゃんだよ。あたしは挑戦者って訳」


 最強の名にはそこまで拘っていなさそうな春葉アトだが、その実『とある理由』から()()()()()()()には一定以上の関心がある。

 使い心地を確かめるように訓練用の槍を振り回していた春葉アトが、見定めるような目をヴィオレットへと向ける。


「実はヴィオレットちゃんには最初にあった頃から目をつけてたんだ。『この子は絶対強くなる』……いや、ちょっと違うな。『この子はもう既に強い』って、分かってた気もするよ」

「……」


 当時のヴィオレットは今よりも魔力が多かった。

 春葉アトはその力を、その直感によって把握していたのだろう。


「──本気で来てよ、ヴィオレットちゃん。()()()()()その武器じゃ、あたしの攻撃を一度だって受けられないよ?」

「……やっぱり、貴女に隠し事は出来ないようですね」


 彼女の恐ろしいまでの直感がレベルアップによって得た物なのか、それとも元々鋭かったのが強化されていったのか……それはヴィオレットには分からない。

 一つだけ確実な事は、春葉アトは先程のクリムとの戦いでヴィオレットが武器を壊さずに戦える方法を温存していた事を見抜いているという事だった。


(温存していたのは勝負を早く切り上げたかったからではない。純粋に危険だからだ。訓練用のこの武器でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()脅威になる可能性がある)


 そんな物を使えばもはや組手とは言えない。だから彼女はその『魔法』を、クリムとの戦いでも使わなかったのだ。

 しかし春葉アトはそれを使う様に促した。それはつまり──


「……貴女の直感が、私がこれを使っても大丈夫だと判断したんですね?」

「そうだよ。そして、それを使わないとあたしの本気は図れないって事もね」


 春葉アトの言葉から本気を感じ取ったヴィオレット。

 彼女は今回ヴィオレットの企画に集まったダイバーの中でただ一人、もう一人のヴィオレット──悪魔のリーダーに会っている。

 肌で感じた彼女の力に、ヴィオレットがどこまで迫れるのかを測ろうとしているのだろう。


「……分かりました。私も、貴女にだけはこの武器で出せる本気でお相手しましょう」


 二人のやり取りを見守っていたダイバーの中から『ズルい!』とクリムの非難が上がる中、ヴィオレットは両手に持った訓練用のショートソードを正面で交差させる。

 そして──


「このエンチャントは私の切り札の一つです。付与した物の本質を引き出し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。理想の追求、原点への回帰。これまで皆さんに見せて来たエンチャント風に言うならば──」


「──【エンチャント・イデア】」


 その瞬間、訓練用のショートソードに莫大な魔力が注がれる。

 以前オーマ=ヴィオレットがアセンダーロードに止めを刺した時と同じ、どこまでも純粋な力がショートソードに宿った。


「……なるほど、貴女の直感が大丈夫と判断したのはこういう事でしたか」


 手に持った訓練用のショートソードから伝わる感覚で、ヴィオレットはその武器が得た本質を理解する。

 かつてそれを宿したローレルレイピアが得たのは『斬る』という剣の本質。しかし、今回はその逆とも言えるものだった。


(『傷付かず、傷付けず』。訓練用の武器──なるべく相手を()()()()()()()()()()()()。だから、こんな本質に……)


 手に持った剣を見つめながらそれを理解したヴィオレットに、春葉アトは語り掛ける。


「どうやらヴィオレットちゃん自身、施してからじゃないとどうなるか分からないみたいだね。その【エンチャント・イデア】って」

「──ええ。強力ではあるのですが、偶にこういう想定外の結果を生む事も多いんですよ」


 消費する魔力も多い為、『とりあえずやってみよう』というのも難しい。

 基本的に本質がある程度想像できる物にしか使えない、危険な能力なのだ。


「触れた物に理想を追求させる為の魔法か……──なるほどね、どんな力も使い方次第って訳だ」

「? アトさん……?」

「いや、こっちの話! さぁ、早速始めようよ! 皆も待ってるみたいだし!」


 恐らくはその直感で何かを理解した春葉アト。

 しかし既に観客となったダイバー達もリスナーも、二人の戦いが始まるのを今か今かと待っている状態だ。

 それを確認したヴィオレットは、細かい質問は後に回す事にした。


「では、合図をお願いします。百合原咲さん」

「はい。──始めっ!」




 三戦目、春葉アトとの戦いは、最初から多くのダイバーが驚愕する展開となった。


「──【ノブレス・オブリージュ】、【聖痕/スティグマ】!」

「っ!」


 春葉アトが自身の切り札を最初から使用したのだ。

 いずれも強力な自己強化スキルである代償に、再使用に条件が存在するスキル……特に、自身のレベルの二倍の数の敵を倒さなければ再使用が出来ない【ノブレス・オブリージュ】を切った事は、ヴィオレットにとっても驚愕だった。


(春葉アト……どうやら彼女は実力を測られる側だけに留まるつもりは無いようですね……!)


 寧ろ、試されているのは自分か……ヴィオレットは春葉アトの決意から、その意図を汲み取った。


(ならば私も、全霊で応えるまで!)


 これまでの二人との組手ではヴィオレットは悪魔の行動をシミュレートし、距離を取りながら弱い魔法で牽制をしていた。

 しかし、春葉アトの目的がヴィオレット自身の力をその身で確認する事であるならば……そして、その為に二つの切り札を使ったのだとすれば──


「正面から迎え撃ちましょう!」

「良いね! それでこそだよ、ヴィオレットちゃん!」


 ヴィオレットの翼がヒュンと風を切り、春葉アトの踏み込みで地面が爆ぜる。

 次の瞬間、二人は部屋の中央で互いの得物をぶつけ合っていた。


「うおおおお!?」

「やっべぇな……これ本当に組手か?」


 そこらのダイバーが扱える力を遥かに超えた二人の武器が衝突する度に金属が軋むような音が響き、衝撃が空気を震わせる。

 強風が二人を中心に吹き荒れ、二人の戦いを見守るダイバー達もその光景に息を飲む。

 それ程の力をぶつけ合っているにも拘らず、訓練用の武器が今も壊れていないのは、偏にヴィオレットが自身の武器に施した【エンチャント・イデア】によって引き出された本質の効果だった。


「──【レイ】!」

「(【■■■■(閃光よ穿て)】)──『レイ』!」


 ぶつけ合うのは武器だけではない。

 春葉アトが放つ光魔法を、異世界で見た全く同じ魔法で相殺するヴィオレット。

 魔法に関しては【エンチャント・イデア】の影響範囲外である為、春葉アト自身を狙うような事はしない。

 ただし、それ以外では手加減を極力しないと決めていた。


「──【千刺万孔】、【ラッシュピアッサー】!」

「──【ラッシュピアッサー】!」


 一撃毎に攻撃回数を増すという、『ダイバー・ヴィオレット』の切り札。

 それが【ラッシュピアッサー】の効果で引き上げられた高速の連続突きにより、一瞬にして無数の刃となって春葉アトに降りかかる。

 最初こそ同じく【ラッシュピアッサー】で迎え撃っていた春葉アトも、直ぐに手数で後れを取ることになり、ここで早くも決着かと思われたが──


「──【ウェポン・ガード】!」

「くっ……!?」


 二本の槍を交差させ、春葉アトが発動した【ウェポン・ガード】。

 本来は武器に盾の役割をなす力場を一瞬だけ発生させ、受け止めた攻撃の威力に見合った反動をぶつけるだけのスキル。

 しかし、【騎士】系統のスキルを多く持つ春葉アトが使えば、それらのスキルの共鳴がその効果を数倍にも押し上げる事になる。


 ──空気が爆発したかのような轟音。


 攻撃回数が十分増えたタイミングでそれを受けたヴィオレットは、強烈なノックバックに一瞬で数メートル程吹っ飛ばされていた。


(今の【ウェポン・ガード】……彼女が本来の得物を使っていれば、結構なダメージを受けていたでしょうね……)


 春葉アトが現在メインとして使っているのは、チヨによって魔法武器として作り変えられた二振りのハルバートだ。

 それぞれチヨが使用できる二つの属性、風と雷が割り振られており、彼女が扱う【ウェポン・ガード】には本来その属性も乗る事になる。

 突風によるより激しいノックバックか、轟雷によるカウンター……いずれにせよ、実戦を想定するのであれば同じ轍は踏まないに越した事は無いだろう。


(これが『元・最強』……本当に、頼もしい限りだ)


 ヴィオレットは彼女が味方である頼もしさを、改めて実感していた。

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