031 カーミル
カーミル達の前に青いドラゴンが現れた。
「見つけたぞ、カーミル。我の婚約者」
青いドラゴン――龍の国の王子、ドラーゴ・ケーニヒの声を聞いた瞬間に、カーミルは震えが止まらなくなった。
(怖いよ、助けて、ユウシン)
カーミルは優心の袖をギュッと握る。
ドラゴンの姿をしたドラーゴがカーミルへと突っ込んで行く。
「【暴風壁】【光壁】」
リザは魔法でドラーゴを止めようとする。
ドラーゴはリザが2重に張った魔法の壁を簡単に破り、前足でカーミルを掴んだ。
優心は咄嗟に短剣でカーミルを掴んでいる前足を斬りつけたが、短剣はあっさりと折れてしまった。
「ユウシン!!」
カーミルは叫びながら優心へと手を伸ばした。
「カーミル!!」
優心はカーミルへ手を伸ばすが、2人の手が触れ合あう事は無かった。
ドラーゴは、カーミルを前足に掴んだまま、龍の国へと飛び立っていった。
★★★
カーミルは龍の国の王たちが住む城の中にある1つの部屋にいた。
中にあるものはどれもこれも綺羅びやかな装飾が施してある物ばかりだった。
そして、その部屋にはカーミルの他にもう1人、男がいた。
その男――ドラーゴは、整えられた青い髪に豪華な服を着ていた。
「カーミルよ。やっと見つけたぞ。今の今まで何をやっていた」
カーミルは黙っていた。
「ほう、我にそんな態度を取るのか。面白い」
カーミルはガタガタと震えていた。
「ほう、震えるほど我と会えたのが嬉しいのか? そういえば、我が直々に迎えに来てやったのに他の男の名を呼んでおったな。確か、ユウシンと」
ドラーゴは続けて言った。
「その男の前で我がお前を犯したら嘸かし楽しいだろうな。その後、その男をお前の無残に殺してやったらさらに楽しそうだな」
「…………やめて……ください。ユウシンには手を……出さないで……」
カーミルは恐怖を無理やり抑え込み、絞り出すような声で言った。
「ほう、我に意見するのか。まあいい、この首輪を自ら付けたら考えてやっても良い。無理やり着けるより自分から着けたほうが面白いからな」
部屋の入り口からメイドが綺麗な装飾をされた奴隷の首輪を持ってやって来た。
カーミルは奴隷の首輪を受け取り、首に着けた。
(これで、ユウシンは――)
「ほう、よく似合っているな。おい、画家達に準備をさせておけ」
メイドは「かしこまりました」と部屋を出て行った。
「そういえば、お前の両親は、お前が逃げる手助けをしたから捕まえて城に幽閉してあるからな」
(なんで、お母さんとお父さんがわたしを……)
カーミルは困惑していた。
「カーミル、この意味が分かるよな」
「…………はい」
カーミルは非常に小さな声で返事をした。
「我はなぁ、絵、特に裸婦画が好きでな。美しい女をみつかれば、我専属の素晴らしい画家達に描かせてるのだよ」
10名の画家が道具を持って部屋に入ってくる。
画家達は全員男だ。
「この女の裸体を描け」
「かしこまりました。ドラーゴ・ケーニヒ様」
画家達の代表らしき男が言う。
「カーミル、服を脱げ。まあ、奴隷の首輪で命令してもいいが、その時は――」
ドラーゴの言葉を聞き、カーミルは震えた手で服を脱ぎ始めた。
カーミルは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
(嫌だよ……こんなの)
カーミルは一糸纏わぬ姿になった。
「真紅の髪と白い肌がよく映えるな。これは絵の完成が楽しみだ。カーミル、我の画家達が言う事は――まあ、言わなくても分かるな。まあ、襲われる事はないから安心したまえ。」
ドラーゴはそう言うと部屋を出て行った。
10名の画家はカーミルを囲うように位置取り、キャンバスに描いていった。
(嫌だよ……わたしを見ないで……)
画家体tはみな嫌らしい目で見てきたり、嫌らしい笑みを浮かべていた。
画家達はカーミルに様々なポーズを要求してきた。
カーミルはそれに全て従った。
(なんでこんな事……でも、従わないとユウシンが、お母さんとお父さんが――)
画家達はカーミルに触れはしなかったがもうすぐで触れそうな距離に来て、体中を隈無く観察した。
カーミルの目から涙が溢れてきた。
(嫌だよ、もうやめてよ……)
「笑顔の表情を描きたいのに、これでは掛けないなー」
画家達の代表らしき男がわざとらしく言う。
カーミルは無理やり笑顔を作った。
「素晴らしい笑顔だ」
非常に嫌らしい笑みで画家達の代表らしき男が言った。
それから、カーミルは城にいる間、寝る時とご飯の時以外はずっと画家達に裸体を描かれていた。
カーミルは寝る前は毎日ベッドで泣いていた。
(お願い。もう嫌だよ。助けて。助けて――ユウシン)
★★★
結婚式の日の朝、カーミルは龍の聖域へと連れていかれた。
そこで結婚式用のドレスを着させられた。
カーミルはメイドに呼ばれるまで1人で部屋にいた。
メイドに付いて別の部屋に移動した。
そこには、カーミルと同じくドレスに装飾を施された奴隷の首輪を着けた女の子が6名いた。
明るい表情をしている者は誰もいなかった。
会話は一切なく時間が過ぎていった。
ドラーゴが部屋にやって来た。
全員の表情が一瞬強ばる。
「美しい! 素晴らしい! 付いてこい、我の花嫁達」
ドラーゴを先頭に式場へ入っていく。
外に出ると、目の前には数え切れないほどの人が来ていた。
ドラーゴ達のいる所は神殿で、観客のいる所より高くなっている。
その高く舞台のようになっている所には、ドラーゴとカーミルを入れた花嫁7人の他に、王ドラゴ―ク・ケーニヒと神父、兵士が十数名がいた。
「ワシは、今日は持って王の座をドラーゴ・ケーニヒに渡す。ワシは――」
王、ドラゴ―クはそれから3分ほど話した。
「我が今日から王となる。この七名が我の花嫁だ」
無数にいる民衆から歓声が上がった。
ドラーゴはそれから10分ほど話をした。
神父が結婚式を執り行う。
「ドラーゴ・ケーニヒ様、この者達との愛を誓いますか?」
ドラーゴは「誓おう」と即答する。
神父が花嫁7名に愛を誓うか尋ねると、全員「誓います」と答えた。
「では、誓いのキスを」
ドラーゴが花嫁1人ずつに濃厚なキスをしていく。
最後にドラーゴがカーミルへとキスをしようとする。
(嫌だ、したくない。初めては――――としたい。助けて、このまま結婚するなんて嫌だ。お願い、助けて――――――――ユウシン――)
ドラーゴの顔がカーミルへと迫ってくる。
カーミルは目を瞑る。
「なんだ!? あのドラゴンは!?」
王が空を指差す。
全員が空を見る。
青いドラゴンが神殿へ向けて物凄いスピードで迫ってきた。
ドラゴンは、神殿の前に着地すると光を発した。
光が消えると、そこには優心、結菜、ドランの3人が立っていた。
「ユウシン!」
「カーミル、助けにきたぞ」