8,笑えないはずの、緊急会議
今回もウェンリー回。もうちょっとだけ作戦会議は続きます。
ウェンリーが再びの連絡を受けたのち、執務室を後にした。
無機質な白壁に点在する窓から差し込む夕日が、真っ赤に焼けている。
――街を、染めている。
外を眺め、足を進める。
「……そうは、させないよ」
心の内で誓う。
自動扉が、軽快な空気音とともに解放される。
中へ入ると、既に何人もの男たちがU字型のテーブルを囲うように椅子に座り、近くの者たちと何やら会話をしているところであった。
帝国陸軍の高級士官や情報将校たちである。
ウェンリーが自身の指定席へ腰かけると、眼前の指名票を立てる。
すると部屋の奥に存在する巨大なディスプレイへ、ウェンリーの名も連なる。
これで、参加が証明された形となる。
自身の周囲の将校たちとやり取りを重ねるウェンリーを尻目に、最後の将校が到着する。
ドスポネル・マスコルイド情報統括長が、自身の秘書を連れてくる。
ウェンリーをはじめ、全員がその場に起立する。
ドスポネルが自身の指定席――ディスプレイの眼前に到着すると全員へ着席を促したのち、自身も席に座る。
そして、秘書が口を開く。
「本日は、多忙な中緊急招集に応じていただき誠にありがとうございます。それでは早速ですが…緊急事態対策会議を開始いたします」
リモコンを操作する秘書。呼応するように、ディスプレイの中で情報が泳ぐ。
ディスプレイに映る多数の戦死者の映像や記録。
焼き払われた森。
何よりも――。
将校たちを睨むように、「それ」が睨む。
4つの赤い眼が、こちらを見ていた。
どよめきが広がっていく。
「先日アールマより北方の属領、タランカッタ周辺に到来した2等級相当の禍つ獣討伐作戦が開始」
リモコンで写された、人の肌を持つあの禍つ獣が表示される。
「4等級相当の禍つ獣を率いるように、6つの群れを形成していた獣たちに対し。我々はオドレンド・ダック少尉率いる第6中隊を正面へ衝突させるような形で挑発。陽動作戦を開始」
ディスプレイでは赤いひし形に向かうように、青いひし形が進んでいく。
赤いひし形は6つ。
青いひし形は、1つ。
それが正面からぶつかるような形で進行する。
青いひし形がゆっくりとその場を後ろへと進めていく。
「第6中隊が指定ポイントまで移動を完了したのと同時に、アルハンブラ・カザンドラ中尉率いる第1機動中隊並びに後方部隊による支援砲撃を開始」
鉄の杭を心臓に撃ち込まれ、倒れ伏す別の禍つ獣。
その間も「それ」の瞳は、まっすぐこちらを見たままだ。
青いひし形が2つに増え、6つの赤いひし形を消していく。
そして――「それ」を示す黒いひし形が現れる。
「掃討作戦が完了したその時…確認された新種の禍つ獣です」
改めてディスプレイの中央を赤く染める。
「これは第6中隊に支援要員として随伴していた小型ドローンから送られてきた画像です」
じぃ、と赤い四つ眼がこちらを睨む。
将校たちは、目が離せずにいる。
「新種の禍つ獣。仮称として我々帝国陸軍情報統括局は、これを「個体α」としています」
将校たちのざわつきが、どよめきに代わる。
ウェンリーを含む数人の将校だけが、静かに話を促す。
「個体αは、オドレント・ダック少尉はじめ第6中隊を全滅させたのち……行方は現在、不明です」
秘書による説明が終わったと同時に、部屋の明かりが点いた。
白い蛍光灯の光によりディスプレイが滲む。そうすることで、将校たちは「それ」が画像であっても放つ威圧感を薄めることができた。
そうして、秘書が続ける。
「現在我々はニール・デズウェル少佐を部隊長として、個体αに関する調査部隊を編成中です。これが完了次第、タランカッタを中心としてこれの行方を追います」
ウェンリーとしては、当初聞き及んでいたことを改めて説明されたような形とはなるのだが。
そうであったとしても、驚きは隠せない。
やはり異常なのだ。禍つ獣が強大であったとしても、帝国陸軍の中隊相手に無傷でいられることが。
大昔ならともかく。
ドスポネルが、口を開いた。
「このような事態は、帝国の興隆が進んだ今。起こりえない事案であると私は考える」
弁を続ける。
「我々情報統括局の総力をもって個体αの行方を突き止める。故に、各将校以下所属部隊の支援と展開を要請する」
要は「緊急事態であるから、お前たちの部隊も使わせろ」ということだ。
そうして、ディスプレイに二つの枠が現れる。
「賛成」を表す右と。
「反対」を表す左。
将校たちは自身の指名票を使い賛否を示す。
多くの将校が「賛成」の枠へと記名されていく中。
ウェンリーの名前は「反対」にあった。
それを見たドスポネルがウェンリーへ問う。
「どういうことかな?ウェンリー大佐。まさか貴君の部隊は展開しない。とでもいうつもりか」
それを聞いたウェンリーは、首を横に振る。
「ありえませんよ、ドスポネル少将。こういう時真っ先に動くべきは我々だ」
なら、と続ける彼を制止する。
「ありえないんですよ?我々を抜きに獣追いなんて。余計な死人を増やすだけだ」
そうしてウェンリーはその場に立つ。
将校たちの視線が一か所に集う。
どこか、含みを帯びている。
構わず、続けた。
「此度出現した個体α。我々から言わせてもらえば…象徴たるもの」
分かり切っているように、言い切る。
「すなわち、シュンボルム――第0等級の禍つ獣である。と私は進言いたします。少将」
ウェンリーの顔は、笑っている。
静かに、僅かに。
「まずは、専門家が仕事をするべきでしょう?」
そう、進言した。




