7,音楽でも聴きながら、ほくそ笑む
オーレリウスたちが、今まさにトラックへと運び込まれているその時。
ウェンリー・ギルベルトjr大佐が、電話の受話器越しに聞こえる破壊音へ眉をひそめていた。
灰皿の上に置いた煙草を再び咥え、紫煙を吐く。
そうして、仕事机の上に肘を立てて両手を組む。その上に顎をのせる。
しばし、思案する。
ウェンリーへ「それ」に関する報告はすでに伝えられている。
あの場にいた中隊規模の帝国軍が、「それ」ただ一体の前に蹂躙された事実を。
生き残ったのは、10人にも満たない程の者たちだけ。
間違いなく幸運だ。
だが同時に、不運でもある。
灰色の髪を梳く。紫と金の、オッドアイをしている。
そうして、再び電話の受話器を握る。
「……私だ」
ウェンリーは静かに、その通話内容を受理する。
「それ」に関するものだ。
生き残った兵士たちへ、話を聞くように命じていた。
その、報告である。
「…そうか、炎を……分かった。本来の作戦は完了しているのだな?」
電話越しの相手へ改めて確認をする。
任務完了の受理並びに、作戦地点からの撤退開始を伝える。
ゆっくりと受話器を下ろす。
煙草を、深く吸う。
誰もいない執務室の天井へ、紫煙を吐き出す。
その心中で、小さく祈っていた。
死んでいった戦友たちが、せめて「上」に行けますように。
上る紫煙へ、祈りをのせていた。
そんな時だ。執務室のドアがノックされる。
「どうぞ」
煙草を灰皿へ押し付け、ウェンリーが入室を促す。
制服を着た士官が、入室する。
その顔は、どこか浮かばれないというよりも。
どう弁を述べるべきか、迷っているようにも感じた。
「…何があった?」
ウェンリーの言葉で心臓を打ち抜かれたかのように、動揺する士官の口から放たれた言葉。
口角が上がるのを感じた。
顎を押せていた手で口元を覆いながら、その報告を聞く。
「分かった。なら先方にはよろしく言っておいてくれ」
士官の退室後、ウェンリーは。
――ほくそ笑む。
ガラティアから聞いた通りだ。
最高にクレイジーな展開になってきた。
そう思いつつ、手が煙草へ延びる。
「オルトマン・スウェイ」と銘が記された煙草を一本取りだし、火をともす。
再び、天井へ紫煙を吹かす。
机の上に乗せられたのは、今回の任務における生存者のリストである。
その中に、オーレリウスに関する調書も当然ある。
ウェンリーはオーレリウスの調書を手に取り、改めて眺める。
⦅こいつ、アルハンブラのところの?⦆
どこかから、声が聞こえる。
ウェンリーはよく知っている。
この声は、自分にしか聞こえないものだと。
「あぁ、軍学校でもあれに劣らずだったあの子だ」
だがそれを語るウェンリーの顔は、どこか笑っている。
⦅嫌な顔だ⦆
「いうなよ。上手くいけば昇進ものだぞ?」
⦅そういう考え方は、馴染まぬ⦆
「綺麗好きめ」
ウェンリーが煙草を持ち、外の景色を眺める。
重厚な、ビル群。
高くそびえる複数のビルは帝国が抱える軍需産業連盟に属する企業のものだ。
奥には、この距離からでも確認が取れるほどの外壁がそびえる。
帝国領首都、アールマ。
竜騎王と呼ばれた男の、最初の領地は自らの相棒たる竜の名を冠している。
ウェンリーがいるのは、帝国陸軍参謀本部。
その執務室である。
重厚で、物々しく。
何より温もりのない機械と魔法と、文明という技術の力によって押しつぶされたような景観である。
だがウェンリーはこの街が好きであった。
この街のそこかしこ。
今も息づき住まう人間が持つ、熱が好きであった。
「なんにせよ、脅威を前に剣を持たない真似は出来ない」
⦅……》
「たとえそれが、魔剣の類であったとしても。力は力だ」
ウェンリーが煙草を宙へと指で弾く。
青白い文字が一瞬浮かび上がると、そのタバコがまるで吸い込まれるように灰皿へと降りていく。
「俺たちがやってきたように、やるだけさ」
⦅観測し、思案し、解析する…...か。それで御せるような奴ではないぞ》
ウェンリーは机の引き出しから、小型の機械を取り出す。
片耳にイヤホンを押し当て、スイッチを入れる。
機械が静かに奏でる。
「まぁ、今はただ待つだけさ。昨日公開された新曲だってよ」
その音色を、ウェンリーは静かに楽しむ。
⦅……》
静寂の奥で、ただ待つ。
音楽でも聴きながら、ほくそ笑む。
⦅お前の、そういうところが嫌いだ。雌に対する物言いには及ばぬが》
「雌って……お前な」
⦅だが》
未だウェンリーの眼前に現れないが、彼には眼を閉じ静かに耳を傾けているように感じた。
⦅いい曲だ》
「だろ?お気に入りのシンガーだ」
そういったウェンリーは虚空へ指を突き出し、物言う。
「あと、俺が好きなのは雌じゃねぇ。何度だっていうぜ?」
⦅……しくじった》
溜息をつく相手を無視して、ウェンリーは語る。
「俺が好きなのは、ルゴウェストウイスキーと…アズマの桃の如く麗しいヒップを持つ美女だって。言ってるだろ?」
再び、深い溜息を聞いた。




