表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/18

10,通じ合ったようで、ふと笑う。

 滲む世界が、暗く染まっている。

 外は、夜になっているのだろう。揺れるトレーラーの上で、俺は空を見ていた。


 強固な外壁により、世界と断絶されたかのような錯覚を得る。

 俺は、空を見ていた。それしか出来ることがないからだ。


 全身を覆う拘束服。

 その体を預ける竜は今も眠っており、静かに体が揺れている。


 俺は、空を見上げそしてゆっくりと瞼が落ちていく。

 そして、夢を見る。


 

 燃える。

 燃える。


 熱さを感じない。

 世界が赤く染まってしまったかのように、燃え続けている。

 

 ぞぶり

 女の悲鳴。


 ざぶり

 男の悲鳴。


 いつものように、俺はそれを見ている。

 赤く染まる、白。

 手が、染まる。


 どこかで、何かが崩れていく音。

 それにすら気を止めることなく、聞こえる。


 ぞぶり

 ざぶり


 何かを引き裂く音。

 手より伝わる柔らかい感触。

 そして、熱。


 これだけは、感じることができる。

 

 いつだって、終わり方はこうだ。

 小さな、血で染まった赤い手。

 「それ」を見る。


 そこで、夢は終わる。



 ふと、目を覚ました俺を見るスカイブルーの瞳があった。

 竜がこちらを見ていた。


 僅かに呼吸が荒くなっていたようで、無意識に何度かの深呼吸を繰り返し落ち着かせていく。


 額に感じる脂汗を拭うように、拘束服へ擦り付ける。


 再び、天を仰ぐ。

 空はまだ暗く、滲んだその先にはきっと星空が広がっているのだろうか?

 

 そう思うほど、深い闇が広がっていた。

 竜が俺を見ている。


 お互いに、眼が合う。

 スカイブルーの瞳が、紫水晶の瞳を静かに見る。


 紫水晶の瞳が、スカイブルーの瞳の奥をみようと細められる。

 

 俺には、竜の考えていることなぞ到底理解できない。

 きっとそれは竜のほうからも同じことだろう。


 知りえないのだ。

 その手段を持たないがゆえに。


 だが、こうして静かにお互いの瞳を見合っていると。

 通じているのではないか。という心境になってしまう。人間とは、何とも都合がいいものだな。

 

 俺はそう考えてしまい、ふと笑みがこぼれる。

 だから、かもしれない。

 

 「調子はどうだ?」

 気が付けば俺は、竜へと声をかけていた。

 理解されているとは思っていない…いや、それは嘘だ。

 

 あの時。俺と竜は心のどこかで通じていた。


 ――ふざけるな。

 向ける相手のいない、燃え上がるような逆上。

 憎悪であるはずの、純粋なまでの怒り。


 あの時、竜と俺はどこかで感じていた。


 ――同じだ。

 そう感じたはず……きっと、そうだ。

 でなければ、俺はこう感じることもない。


 だから、声をかけてしまった。

 返事などないことは、分り切っている。でもそれでも。


 俺は、誰かに理解して欲しいのかもしれない。

 分かって、欲しいのだろうか。


 この心の奥に広がる、感情を。

 静かな、怒りを。

 コールタールのように濁り、澱んでねばつく。


 俺の、燃え上がるような闇を。


 竜は、思った通りの反応をする。

 静かに俺から目を背け、空を眺める。


 夜の闇の奥に思いを馳せるように、静かに上を向く。

 俺はこの時、不思議と。


 怒りを感じることはなかった。


 

 そこから、どれだけの時間がたっただろうか。

 トレーラーは未だ走り続けている。


 最近の車両には自動運転機能が搭載されている。今頃運転手は夢の世界に旅立っているか、そもそも

誰も乗っていない可能性もある。


 俺が気にするような話ではないが。


 竜がわずかに身を動かすたびに、鎖が揺れる。

 そのたびに、俺の背中に甲殻が擦れるようにぶつかる。

 当たる感触が思いのほか痛い。


 「いてぇぞ。もうちょっと落ち着けないのか?お前は」

 俺がそう文句を言ったところで、叶うわけもない。


 竜は思うがままに、空を眺め続けている。

 静かに、俺は溜息をつく。


 そうして、地平線のほうから夜が明けてゆく。

 結局俺はそれ以降、ほとんど眠ることができずに揺られ続けることになった。


 体の上に置かれていた下位除隊勲章はトレーラーの床に落ちてしまっている。

 そんなことすら、気に留めることなく。


 竜はそれ以上に、遠慮などなく。


 俺だけが、不平不満を吐露し続ける一夜となっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ