第3章「恋人たちの惑星」第5話
初夏の陽射しがさす、このレストルーム(休息室)に、12人の男女が思い思いに座り込んでいた。
よく見ると寛いでいる雰囲気ではない。
皆一様に真剣な面持ちである。
シーンとしていて誰も喋ろうとしない。
張りつめた空気の中、彼らはじっと動かないままであった。
他の学生は事情を知っているのか、誰もレストルームに入ってこようとはしなかった。
今からしばらく前、彼らの教官であるヴァーノン・ウエダ大佐は、こう宣告したのだ。
「私の指導する学生たちからは、君ら12人がSPトレイニングプレイスの学生に選出された。知っての通り、このセクションは辞退することもできる。確かに過酷なセクションではあるが、君たちが選ばれたのは、その厳しさに身体的だけでなく、精神的にも耐えうると判断した結果であるから、私個人としても君たちはやれる、と確信しているのだ。できるなら辞退しないで欲しい」
大佐のこの言葉がこだまのように彼らの耳に響く。
彼ら──そう、言わずと知れたノリコとその11人の仲間たちである。
彼ら一人一人の瞳は期待と不安で揺れ動いていた。と、その時。
「なあ! みんな!」
立ち上がって叫んだのはヤスオである。
「これはチャンスだ! 俺たちが選ばれたのも運命のような気がしないか? 俺たち12人、頑張ってみようよ!」
「フン、俺は運命なんてもんは信じねぇけど、チャンスをみすみす逃すことは、こりゃあもったいねぇ話だと思うぜ」
そう言って一人反抗的なのはやっぱりハヤトである。
「そうだね。教官もああ言って下さったのだし、きっとやれるよ」
あくまでも穏やかなノブオだ。
「そうね、やりましょう。私たちの前に敵なし、よ!」
いや、敵というのもどうかと思うのだが、さすがノリコと言うべきか。
だが、ノリコがそう言って締めくくると、残りの仲間たちも立ち上がった。
「頑張ってみよう!!」
その様子を外でうかがっていた彼らの教官ヴァーノンは満足そうに頷いていた。
SPトレイニングプレイスでの訓練は、通常のパイロット育成訓練とは違い、軍関連対象の戦闘訓練が主な内容である。
大体、ノリコたちの教官であるウエダ大佐は現役の軍人でもあるのだ。
しかし、彼の場合、あくまでも次代の軍人を育成するための軍人であって、実戦は皆無である。
したがって、彼らを担当する教官はバリバリの実戦マンが教官として就任することになる。
そういうことで、彼ら12人には、これから1年間の地獄のような日々が手をこまねいて待っているのだ。
さて、あれから1年が過ぎようとしていた。
SPトレイニングプレイスでの地獄のような訓練を無事乗り越えた学生たちは、卒業試験を終え、休暇に入るところだった。
試験結果は休み明けに発表である。
「みんなーお互いに頑張ったねー! おめでとー!」
ここは例によってレストルームである。
そして、叫んだのは、小さい身体だけど元気いっぱいのカズである。
彼の言葉にみんな口々に、そうだそうだと言い合った。
「これで晴れて卒業となれば、みんなはどーする? 何をするんだい?」
いつも落ち着いた感じの真面目な青年といったアキオがそう言った。
「そうねえ。私なんかはたぶん軍に入ると思うわ」と、誇らしげにリエが言うと「あ、それ、私もよ」とヤエが言う。
「私は民間の商船にバイロットとして乗ろうかと思うの」と言うミーユに「私もよ」「あら、私も」と言ったのはサミーとケーコだ。
「そうだなあ。俺も軍に入ろうかと思っているな」とヤスオが言うと「僕もだ」とマサオが言う。
すると、実家が有名な宇宙貿易商であるカズが「僕は家を継ぐんだ」と言ってから「そう言うアキオはどうするんだ?」と、話題のきっかけとなった当人に質問する。
「僕はね、大学に残ろうと思う。もっと勉強して、教える立場になりたいんだ」
すると、ノブオが「君もか。僕も大学に残るんだ」と、アキオの肩を叩きながら言った。
「ハヤト、あなたは何になるの?」
先程から妙に静かな彼にノリコは声をかけた。
「…………」
彼は顔を上げると顔に似合わぬ優しげな表情を彼女に向けた。
「そう言うノリコ、あんたはどうするんだ?」
「そうそう、聞きたいわ」
ハヤトの言葉を受けて、11人の仲間たちは彼女の答えが一番聞きたそうである。
「いやだな。そんなにごたいそうなもんじゃないのよ」
ノリコはほんのり頬を赤らめて言葉を続けた。
「私はね、宇宙に出たいの、ただそれだけなの。そしてね、理想の星を見つけるの…ていうか、地球のような美しい星、そう、第二の地球を探す旅に出るのだわ」
「すばらしいじゃないか」
「ステキ!」
彼らが口々にそう言ってくれると、ノリコは照れて頭をかいた。
「ありがとう」
「……………」
誰も気づいていなかったが、ノリコが自分の思いを語っている時に、ハヤトはなぜか一瞬ハッとした表情を浮かべた。すぐにその表情を消したが。
そして、いつもの皮肉っぽい顔に戻り、言った。
「ハン! なんだそれ。ほんとにたいしたことないな。ロマンチストなノリコ様、だ」
「なーんですってぇ、ハヤト! そういうあんたはどーなのよっ!」
憤慨してノリコはまくしたてた。
ハヤトはノリコの顔にくっつきそうなくらい自分の顔を近づけると吐き捨てるように言う。
「俺のは秘密だ。人に言うなんざ、もったいねえ、もったいねぇ」
「んまああああああ!!」
ユデダコみたいに真っ赤になるノリコ。
「あーもーいーじゃない。ノリコもハヤトももーやめなさいよ」
そんな二人を姉御肌のヤエが止めるが、ノリコはプーッと膨れるし、ハヤトはニヤニヤとノリコを見ている。
「とにかく」
二人の間に立ったヤエはさらに言った。
「試験の結果は気にせずに最後の休暇を楽しみましょうよ。とりあえず、また外で会いましょう。そうだ。どこかに旅行もいいかもね」
ヤエの提案に皆が色めきたった。
「うん、それいい!」
「じゃあ、決まり! 詳しいことはまた連絡し合いましょう」




