第〇一八話 素材
今日はレティシアを連れて、俺の聖域であるゴーレムの研究室へ来た。
まあ、研究室といっても、使われなくなった離れに材料の石や木材、そして俺の愛すべきゴーレムたちが並べられているだけだが。
「わぁ……ルー君、すごい!」
キラキラとした瞳で部屋の中を見回すレティシア。その無邪気な感嘆の声に、俺の口元も自然と緩む。
やがて、彼女の視線が一体のゴーレムに釘付けになった。
「ルー君、これ可愛い!」
レティシアが愛おしそうに指差したのは、俺が初めて生み出した記念すべきゴーレム初号機、タイニーである。
小石を繋ぎ合わせただけの、不格好なゴーレムだ。
「そうか? 初めて作ったやつだから、あまり出来は良くないと思うが」
「ううん! ルー君の『初めて』だもん!」
間違ってはいないが、その言い方は少し、いや、かなり誤解を招きそうだ。
レティシアは駆け寄ると、身長二十センチほどのタイニーをぎゅっと抱きしめ、俺を上目遣いに見上げてくる。
「これ、頂戴! ダメ?」
子犬のような瞳でそんな風にお願いされたら、断れる男がいるだろうか。いや、いない。
「もちろん構わないが、今ならもう少し性能の良いのを作れるぞ? こっちの白いゴーレムなら動きもスムーズだし――」
「これがいいの! ルー君の初めてがいい!」
有無を言わさぬ力強い言葉に、俺は頷くしかなかった。
「……分かった。名前はタイニーだ。可愛がってやってくれ」
「ありがとう! ター君、今日から私がママよ。よろしくね!」
ママだと!?
ということは、自動的に俺がパパになるのか……。
レティシアは本当に天然なのか、それとも全て計算なのか。時々、本気で分からなくなるな。
明日のペンダントが届くまで特に予定もなかったので、レティシアが俺の研究を見てみたいと言い出したのだ。
本来なら、まだ秘密にしている研究も多い。特に、レティシアの侍女がいる手前、あまり手の内は見せたくなかった。
しかし、その侍女は今、部屋で寝込んでいる。理由は、俺に近づこうとしたのをレティシアが牽制した結果、俺の魔力に当てられてしまったからだ。
俺に近づく者は許さないということか……その独占欲の強さもまた、愛おしいと思ってしまう俺は、かなり毒されているらしい。
レティシアがタイニー改めター君を抱きしめながら、ニコニコと嬉しそうに俺を見ている。その視線を受けながら、俺は実験を続けることにした。
付与魔法は精通するまで使えないので、今日はゴーレムの素材に関する実験だ。
基本的に、ゴーレムのスキルを持った者が扱うゴーレムは、ストーンゴーレムがほとんどらしい。
モンスターとしてのゴーレムは多種多様で、木でできたウッドゴーレムや鉄でできたアイアンゴーレムなど、様々な素材のゴーレムが存在している。
その中でストーンゴーレムが主流なのは、利用価値とコストのバランスがちょうど良いからだ。
ウッドゴーレムは倒したあと、使えるパーツがほとんど残らない。アイアンゴーレムは、鍛冶の素材としての価値が高すぎて、ゴーレム使いにはまず回ってこない。
そういった理由から、そこそこ頑丈で素材としての価値も低いストーンゴーレムが、主な選択肢となっている。
「アイアンゴーレムは消費魔力が大きいという話もある。もしかしたら、重量によって消費魔力も変わるのかもしれないな。それも、いずれ実験が必要か」
独り言を呟きながら、俺は今日の実験テーマへと意識を切り替えた。
◆ ◆ ◆
今回実験するのは、魔力の浸透実験だ。
ゴーレムを作るには、魔力が浸透した素材が多く必要になる。俺の溢れる魔力でその素材を自作できれば、実験の幅は格段に広がるはずだ。
実験のため、ベッドの下にゴーレムのパーツに加工した木と石を数日間入れておいた。リリアナの話によれば、人間は活動していない睡眠時が一番魔力を多く放出するらしい。
もっとも、今は毎晩レティシアが俺のベッドに潜り込んでくるので、それがどう影響するかは未知数だが。彼女の魔力欠如症が、俺の魔力を吸い取ってしまっている可能性もある。
まあ、成功さえすれば、魔力の浸透期間による性能実験という、新たな研究テーマも見えてくる。
「まずは、浸透しやすそうな木のゴーレムから試すか」
今回、素材として選んだのはマリオネット人形だ。
人形といっても、観賞用のものではなく、マリオネットのスキルを持った者が戦闘で使う、木製のデッサン人形のようなシンプルなフォルムのものだ。
これをゴーレムにすることができれば、様々な人形をゴーレムの素体にできるかもしれない。
俺はマリオネット人形の頭部に魔石を乗せ、意識を集中させて詠唱を始める。
――クリエイトゴーレム。
――木の塊よ、我が手によって生まれし者。
――汝の名は、チップ。我が意志の下にあれ。
――汝に仮初めの命を与えし対価として、我が魔力を汝に分け与えん。
――汝は我が命令を忠実に従え。
――我が敵は汝の敵、我が友は汝の友。
――汝は我が盾となり、我が剣となれ。
――今、汝の目を開け、汝の心を燃やせ。
――チップよ、汝、我の呼びかけに応じ起動せよ。
呪文を詠唱すると、頭部の魔石が眩い光を放ち、その光がマリオネット全体に淡く行き渡る。
しばらくして光が収束すると、魔石は頭部にすっぽりと埋まり、体長二十センチのマリオネット・ゴーレムが生成された。
「成功だ! いや、まだだ。しっかり起動するか確かめないと。チップ、起動!」
俺の言葉に反応し、頭部の魔石が一瞬、淡く光る。するとチップは、まるで眠りから覚めるようにゆっくりと起き上がった。
タイニーの無骨な動きとは明らかに違う。関節が多いせいか、その動きは驚くほど滑らかだ。
「チップ、右手を上げて!」
チップはスッと、流れるような動作で右手を上げる。
「チップ、右手を下げて!」
チップは命令通り、右手を下ろした。タイニーより遥かに素早い反応速度だ。
「チップ、五歩前進!」
まるで熟練の人形師が操っているかのように、チップはスムーズな足取りで前進したのだった。
木製ゴーレムの可能性に、俺は確かな手応えを感じていた。
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