表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しに殺される大罪人に転生。推しのために……  作者: 流庵
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/38

第〇一五話 魔法

 さて、キスをした張本人は、顔を真っ赤にして俺のベッドの上でゴロゴロしている。


 羞恥心から逃れるようにシーツに顔をうずめ、身をよじる姿はまるで小動物のようだ。高価なシルクのドレスが皺になることなど、もはや些細な問題だった。


 対照的に、レティシアの侍女は顔を林檎のように赤くして俯き、リリアナは面白そうに口元を綻ばせ、ニヤニヤとこちらを見ている。


 それにしても、手を握るよりキスのほうが吸収量はアップするのか……。


 一体、どのくらい違うのだろうか。好奇心がむくむくと湧き上がるが、今の彼女にそんな野暮な質問はできない。


 唇と手、どちらも肌が直接触れ合っているのは同じはず。……ああ、そうか。粘膜接触か!


 色々と気になることはあるが、悶えているレティシアを見ていると、今はそっとしておくのが賢明だろう。



 ◆ ◆ ◆



 空気を読んだのか読んでいないのか、リリアナが淹れてくれたお茶の香りに誘われて、レティシアはようやく落ち着きを取り戻した。


「そういえば、シアはどのくらい魔力を貯めることができるのだ? まだ余裕はありそうか? 満タンになって体調を崩さないように注意するのだぞ?」


「分からないけど、ルー君の魔力は多分大丈夫」


「それは、満タンになっても、傍にいて平気ということか?」


「うん、多分そう」


 ここは、レティシアを信じるしかないか。


「リリアナ、魔力に相性とかあるのか?」


「一般的にはないとされています」


「そうか、一般的にはということは、そうでないケースもあるのか?」


「そういった説はいくつかありますが、普通は体から魔力が溢れ出ることはありませんので、相性を研究することができないのが実情ですね」


「なるほど、確かにそうだな」


「ただ、私やヴェルナー先生が平気なように、レティシア殿下もルシャ様の魔力を平気とする体質、つまり相性が良いのだと思います」


「そうか! 確かに、フリーダの調子が悪くなったところは見たことないな。ところで、リリアナはエルフだから耐性があるのではないのか?」


「確かにエルフのほうが人族より耐性はありますが、ルシャ様の魔力には耐えられないでしょう」


 ハイエルフだから耐えられる、とかは考えすぎか。


「つまり、シアの魔力が満タンになっても、問題ないのだな?」


「そういうことになります。というか、もう満タンなのではないでしょうか?」


 リリアナがレティシアの侍女のほうへ視線を送る。そちらに目をやると、彼女は少し苦しそうな表情を浮かべていた。なるほど、シアの魔力タンクが満タンになり、吸収が止まったことで、俺から漏れ出す魔力の影響範囲が再び広がったのか。


「まあ、シアが傍にいてくれるなら、それでいい」



「――っ!」



 しまった! 心の呟きが漏れてしまったようだ。


 レティシアは両手でティーカップを持ちながら、チラチラと上目遣いでこちらを見ている。その可愛らしい反応が見られたのだから、結果オーライとしよう。


「ところで、シアは魔力のある今なら魔法が使えるんじゃないか?」


「分からない」


「試してみるか? ここにいる間は俺がいるから練習し放題だぞ?」


 レティシアは少し考えたあと、こくこくと小さな頭を縦に振った。


 俺は机の引き出しからナイフを取り出し、躊躇なく自分の指先を浅く傷つける。


「――!」


 指先から滲み出る赤い雫を見たレティシアは、慌てて俺の指をパクリと咥えた! その仕草は妙に艶めかしく、俺のフェティシズムを刺激する。


「……シア、そうではなくて、魔法の練習をやってみよう」


 我に返ったレティシアは、こくりと頷くと、俺の指にそっと手をかざし詠唱を始める。


「聖なる祈りよ、我が身に……」


「最初は、『聖なる祈りよ、我が願い』だな」


「聖なる祈りよ、我が願い。聖なる……聖なる……」


 自信なさげに呟く声が、どんどん小さくなっていく。潤んだ瞳が不安げにこちらを見つめていた。どうやら、彼女は詠唱を覚えてないようだな。


「大した傷ではないから、焦らなくてもいい。俺が一度最後まで言うぞ?」


 レティシアが頷く。


「『聖なる祈りよ、我が願い。聖なる力よ、我が身に宿り。聖なる癒しを、彼の者に与え給え』。だな。思い出したか?」


 ふるふると首を横に振る彼女は、完全に忘れてしまっているようだ。


「それでは、一行ずつ俺が言うから、シアは後に続いてくれるか?」


 それでは練習だ。


「聖なる祈りよ、我が願い」

「聖なる祈りよ、我が願い」


「聖なる力よ、我が身に宿り」

「聖なる力よ、我が身に宿り」


「聖なる癒しを、彼の者に与え給え」

「聖なる癒しを、彼の者に与え給え」


「さすがシア。完璧だ!」


 褒められたのが嬉しかったのか、レティシアは子犬のように頭を差し出し、ナデナデを要求してくる。もちろん、その期待に応えないわけがない。


「全部言えたところで、もう一度やってみよう」


「聖なる祈りよ、我が願い。聖なる力よ……力よ……」


 さっきより『力よ』まで増えた――じゃなくて、薄々感づいていたが、やはりレティシアは記憶するのが苦手なようだ。


「記憶するのは苦手か?」


「ごめんなさい。ごめんなさい」


 レティシアの大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


「気にするな、誰にでも苦手なことはある。もう少し大きくなれば、自然と覚えられるだろう」


「いいの?」


「もちろんだ。シアは何も悪くないから、謝らないでくれ」


「ルー君、大好き!」


 弾かれたように飛びついてきた彼女の体温と、耳元で囁かれたその言葉は、俺の心臓を鷲掴みにした。


 ……『大好き』。


 その一言が、これまでの俺の計画や打算、全てを吹き飛ばしていく。ゲームの中での推しというだけだったはずの彼女に、いつの間にか本気で惹かれてしまっている自分に気づかされる。


 この世界に来て最大の目標であった「レティシアに惚れられる」というミッションは、予想もしない形で、あまりにもあっさりと達成されてしまったのだった。

『糸を紡ぐ転生者3』好評発売中!

『糸を紡ぐ転生者』も重版ありがとうございます!

購入して応援してもらえると助かります(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ