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推しに殺される大罪人に転生。推しのために……  作者: 流庵
一章

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第〇一四話 吸収

 朝食を終えて自室に戻ると、当然のようにレティシアもついてきた。

 

 両親からは彼女の相手をするように言われているものの、領内を案内しようにも、悲しいかな、病弱な俺には見所すら分からない。


 

「シアは、どこか領内で行ってみたい場所とかあるか?」


 

 ソファに腰かける俺に、彼女はぴったりと抱きついたまま、ふるふると首を横に振った。どうやら特にないらしい。

 

 いくつか質問を重ねて分かったのは、レティシアも俺と同じで、外に出ることが滅多にないということだった。同じ境遇であることに、わずかな親近感を覚える。


 

「あれっ? ということは、シャドウブレイズ領まで来るの、かなり大変だったんじゃないか?」


 

 なにせ俺は、領内を馬車で移動するだけで倒れたのだ。帝都からの長旅など、想像するだけで気が遠くなる。

 

 ところが、レティシアはこの質問に答えず、ぷいと顔をそむけた。

 

 すると、控えていた侍女が、わざとらしくため息をつきながら口を開く。


 

「殿下はルーシャス様に会いたい一心で、それはもう大変な無理をなさって参りました」

 

「……っ!」


 

 レティシアは侍女を恨めしそうに睨みつける。その表情すら、子猫の威嚇のようで可愛らしい。どうやら、無理をして来たことは隠したかったようだ。

 

 俺の胸に顔をうずめ、気まずそうにしているレティシアの頭をそっと撫でると、彼女は猫のように目を細め、心地よさそうな表情を見せた。


 

 そういえば、昨晩は俺の魔力が強すぎて部屋に入れなかった侍女が、今は平然と部屋の中に待機できている。これもレティシアのおかげだろうか。


 

「シアは今、苦しかったりするか?」


 

 彼女は再び首を横に振る。苦しくはないようだ。


 

「そうか……。どうやら、俺の体調もかなり良いみたいだ。もしかして、シアが俺の魔力を吸い取ってくれているのか?」

 

「分からない……。でも、今のシアの体は、ルー君で満たされてる」


 

 吐息交じりの甘い声で囁かれ、思わず心臓が跳ねた。

 

 なるほど……やはり俺の溢れ出した魔力を、彼女が吸収してくれているに違いない。

 

 だとしたら――研究者としての血が騒ぐ。


 

「なあ、シア。折角だから、ちょっとした実験に付き合ってくれないか?」

 

「実験?」


 

 こてんと首を傾げる彼女に、俺は悪戯っぽく笑いかける。


 

「ああ。俺は何でも実験するのが好きなんだが、残念ながら魔力が多すぎて、僅かな魔力の流れを感じ取れない。もしシアに魔力の流れが分かるなら、ぜひ協力してほしいんだ」

 

「……協力する!」


 

 ぱあっと顔を輝かせ、彼女は力強く頷いた。俺の役に立てることが、よほど嬉しいらしい。


 

「ありがとう、シア。それじゃあ、まず聞きたいのは、俺の魔力をどのくらいの距離まで吸収できるか、だ」


 

 レティシアはこくりと頷くと、俺からそろそろと離れ、距離を取ったり近づいたりして、最適なポイントを探り始めた。


 

「ここっ!」


 

 彼女が指さしたのは、およそ二メートルほどの距離だった。


 

「そんなに離れていても吸収できるんだな」

 

「うん、でも、ほんの少しだけ」

 

「なるほど。距離によって吸収量が変わる、と。よし、では次だ! 次は、俺の隣に座ってみてくれ!」

 

「と、隣に……?」


 

 そう聞き返した彼女の、白磁のように繊細で透明感のある肌が、耳たぶから頬にかけて、まるで溶岩のようにじわじわと紅く染まっていく。

 

 ……あれ? もしかして、恥ずかしいのか?

 

 今朝は裸同然の格好で抱きついてきたり、両親の前で堂々と「アーン」をしてきたりしたというのに、この反応は一体……?

 

 レティシアは少し俯いたまま、俺の隣に小動物のようにちょこんと座った。……可愛すぎる。


 

「この距離だと、吸収量は増えるか?」

 

「うん、少しだけ……」

 

「ふむ、距離の変化はそこまで吸収量に影響しない、か。……では、これはどうだ?」


 

 俺は彼女の小さな手を、そっと握った。


 

「――っ!」


 

 シアはビクリと肩を震わせ、驚いたように俺を見つめる。そのアイスブルーの瞳は潤み、やがてうっとりと蕩けていった。

 

 なるほど、彼女は自分から仕掛けるのは平気でも、俺からアクションを起こされると弱いタイプか。……なんだそれ、可愛すぎるだろ。


 

「シア?」

 

「魔力が……いっぱい流れてきて……気持ちいい……」

 

「そうか、やはり直接接触すると吸収量は増えるんだな。……ん? 気持ちいい?」


 

 聞き返した瞬間、彼女の顔は火山が噴火したかのように、一瞬で真っ赤に染まった。

 

 しまった。最後のは聞くべきではなかったか。


 

「そ、それでは、こうすると変化はあるか?」


 

 俺は慌てて、レティシアの手に自分の上着をかけ、その上から手を握る。布を通すことで吸収量が減るのか、純粋な学術的探求心からの実験だ。

 

 しかし、彼女はみるみるうちに涙目になり、世界の終わりのような絶望的な表情を浮かべた。……え、なぜだ!?


 

「シア、どうしたんだ!?」

 

「ルー君……シアに、触るの嫌……?」

 

「ん? 何の話だ?」


 

 手元に視線を落とし、ハッとする。俺は今、上着越しに彼女の手を握っている……。

 

 しまった、説明が足りなかった!


 

「ち、違うんだ! これはあくまで吸収量の変化を見るための実験で! もちろん、シアには直接触れた方がいいに決まっている!」


 

 言い終えてから、さらに彼女の顔が赤くなるのを見て、余計なことを口走ったと悟る。


 

「ええと、それで、布を挟むと吸収量が減るのか、聞きたかったんだ」

 

「……少なくなった」

 

「やはり減るのか! どのくらい減ったか――」


 

 いかんいかん、実験に夢中になると、次から次へと湧き出る思考が優先されてしまう。


 

「すまん、シア。聞き方を変えよう。さっき隣に座った時と比べるとどうだ?」

 

「それよりも……多い」

 

「なるほど。では、直接握った時の半分くらいとか、分かるか?」

 

「……もう少し、下がるくらい」

 

「そうか、半分より下がるのか! シアのおかげで色々分かった、ありがとう!」


 

 レティシアは恥ずかしそうにこくりと頷いた。本当に可愛すぎるな、この皇女様は。


 

「やはり、肌同士が直に触れ合っている時が一番吸収されるようだな」


 

 上着を外し、再び彼女の手を直に握ると、また小さく俯いて頬を染める。

 

 その時だった。


 

「ねぇ、ルー君。もっとルー君でいっぱいになる方法、シアは知ってるの」

 

「ん? こうやって直接握るよりも、か?」

 

「うん」


 

 それは実に興味深い。『ルー君でいっぱい』という表現は若干、いや、かなりアレな感じもするが、レティシアが言うのならアリだろう。


 

「どんな方法か、聞いても――!?」


 

 俺が聞き終わるか終わらないかのうちに、彼女はふわりと身を乗り出し、俺の唇に、自らのそれを重ねたのだった。

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