61.野盗狩り⑯〜小芝居の終演
「ほれ、村長んちに乗り込んだお仲間も出てきよらんぞ。人質取るのも失敗したようじゃ。
そろそろ観念せいや」
「く、くそ、役立たずが……」
残るは頭目ともう1人。完全に追い詰められた状態。
「か、頭…、もうムリだ…、投降しましょうや…、ソレしかねえ…」
手下に言われるまでもなく、頭目にもそんな事はわかっている。
だが、捕まればどうせ縛り首になる身だ。
ならば、なんとか足掻いてでも活路を見出したい。
……村長の家は…
ダメだ…、さっきの事があって
2人も家の前に陣取っていやがる…
村の入り口は……
このクソジジイともう1人
もう1人はなんとかなるかもしれねえが
とにかくあのクソジジイがジャマだ……
その他の抜け道はねえ…
村の連中が逃げ出さねえように
自分らで塞いじまった
八方塞がりだ
こうなったら、是が非でも
このクソジジイを潰して……
頭目がジリジリと間合いを詰めてくる。
……ほう、やる気か…
ゼクスが大剣を肩に背負う。
ゼクスの臨戦態勢がこの所作だ。
それを察し、護衛の1人も剣を正眼に構えた。
こういう捕物の場では、ゼクスたちが先手を取る必要はない。
逃げようとする悪党を迎撃するのが正道だ。
自分たちはただ待つ。
そしてしびれを切らした悪党が攻め込んできたところを討つ。
ご多分に洩れず、頭目の様子もその典型だった。
……こういう手合いが考える事といえば……
頭目の目が部下を一瞬捉え、決死の色に染まった。
ーーー来るか…
「うりゃあああ!」
頭目が部下の襟首を掴み、ゼクスたちに向かって放り投げ、同時に突進してきた。
「う、うわああ?」
「どけえぇ〜!!」
ーーーこういう手段じゃろなぁ…
護衛が一太刀で野盗の部下を斬り捨てた。
その横をすり抜け、頭目がゼクスに迫る。
「ジャマだ!クソジジイ!!」
大剣を振り被る頭目。
それを嘲笑うように、ゼクスが囁いた。
「浅いんじゃよ、オドレらは」
頭目の渾身の力で大剣が振り下ろされた。
しかし、それを軽々とゼクスが躱す。
大剣はそのまま空を切り、地を叩いた。
すかさず大剣を蹴り飛ばし、首もとに自身の大剣をかざす。
「指摘する点は2つ。第1に、こういう時のオドレら悪党は必ず他人を盾にして逃れようとしよる。
味方でも何でもお構いなくな。
あの突っ込んでくる前のオドレの仲間を見る目。
ああ、やりよるなと、まるわかりじゃ。
正直、見飽きるくらい見てきたわ。
第2に、剣に身体能力が追いついておらん。
完全に鍛錬不足じゃ。イキがって大剣持ってもあんな遅い剣筋では勝負にならんわ」
ゼクスの煽りとも取れる説教に、苦々しい顔で頭目が反論する。
「ケッ!テメエだってその大剣使ってねえだろが。
俺の剣よりデカブツをそんなに軽々と扱えるわけねえ!本当はカッコだけのハリボテなんだろが」
その言葉にゼクスの眉がピクリと動いた。
首もとから剣をどけ、頭目に言う。
「ほう、そこまで言うなら……、立て」
「…はあ?」
「そこまで言うなら、この剣持たせてやるわい。
ほれ、立ち上がらんかい」
敵に剣を渡す?しかも自分のエモノを?
どういうつもりだ…
急かされ、不承不承の体で立ち上がった頭目に、ゼクスが手にしていた大剣を放った。
「うわぁ!」
思わず飛び退く頭目。
ザシュッと音を立て、大剣が地面に刺さった。
「なんじゃい、なんじゃい、しっかり受け取らんか、
アホタレめが」
コイツ、ホントに剣捨てやがった。
何考えやがる…、バカなんか?
信じられないといった表情で、警戒しながらも大剣に手を伸ばし、引き抜こうとした。
しかしーーー抜けない。
いや、重すぎて持ち上がらない。
自分の大剣より遥かに重い。
……コイツ…、こんなバカみたいの重さの剣を
片手で放り投げやがったのかよ……
悪戦苦闘する頭目だが、剣はびくともしない。
剣を支えに息を切らせていた頭目の前に、ゼクスが
歩み寄り、一喝した。
「どけ、なんじゃい、情けない」
一歩二歩、後ろに後ずさる頭目の目の前で、ゼクスが大剣を軽々と片手で持ち上げ、肩に担いだ。
唖然として、ゼクスを見つめる頭目。
「ふんっ!」
その目前を凄まじい斬撃が一閃し、その風圧で頭目の身体がよろけた。
まるで、風だけで身体を斬られたような感覚。
茫然とする頭目に、ゼクスがニヤリと笑った。
背中に悪寒が走った。
腰が砕け、その場にペタンと座り込む。
……こ…こんなバカ重い剣を振り回せるヤツ
なんかに……敵うわけねえじゃねえか……
「わかってもらえたかの?、ん?」
いつもの獰猛な笑みが、頭目にずいっと迫った。
「……は……、はい……」
頭目は真っ青な顔でガタガタ身体を震わせた。
それは縛り上げられている間も、縛り上げられた後もなお続けていた。
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ゼクスたちの野盗討伐は終了した。
野盗11人のうち死亡10人。生存者は頭目のみ。
頭目は縛り上げられたうえ、井戸付近の大木に鎖で更に縛られ、身動きひとつできない状態にされている。
「よし、こんなモンじゃろ。
お〜い、村長、村長はおるか?」
「……はい」
ゼクスの前に並ぶ村人の中から、村長がおずおずと出てくる。
「わしらはそろそろ消えるでな。あとはここの代官に任せい。そろそろココに到着する頃合いじゃ」
「…はい…、到着したらおっしゃられた通り……」
「おう、アンタらは何も知らん。
わしらもココにおらんかった。
野盗どもを成敗したのは代官。
野盗どものアジトはアンタに渡したその地図の通り。
そして、この村でいなくなった者はおらん、もともとそんな者はおらんかった。わかったかの」
「はい、承知しました」
それからは、村人たちが口々に感謝の気持ちをゼクスたちに伝えに来た。
シドの周りには特に人々が集まり、子供たちが怖がりもせず礼を言っていた事は、エヴァをはじめ一同を驚愕させた。
エマは村の皆に頭を下げたが、逆に感謝されていた。
アンタのおかげで私たちは助かった、
アンタの子供たちがこの方々を連れてきてくれた、
ありがとうと言われ、エマも、村人も、涙に暮れた。
しばらくして、ドース代官への連絡担当が馬で現れ、代官率いる捕縛部隊が間もなくここに到着するとの報告を届けた。
「よ〜し、撤退じゃ。皆、馬車に乗れい」
走り出す荷馬車と、深々と頭を下げる村人たち。
珍妙な小芝居はここに完全終演した。
【ヤムル地方代官の野盗討伐に関する記録】
カルバンシュタイン子爵領ヤムル地方のドース代官が、先般来当該地方で多数の荷馬車襲撃を繰り返していた野盗一味の拠点を突き止め、一味の一斉捕縛を敢行。
激闘の結果、野盗11人のうち10人をその場で討ち取り、頭目を捕縛した。
野盗のアジトからは、強奪された金品、物資を多数押収。
尚、捕縛部隊に死者、負傷者なし。
頭目は尋問を受けた後に、罪状明白と決され、
縛り首に処された。
領主カルバンシュタイン子爵は、この功績を高く評価し、ドース代官ならびに捕縛部隊全員に多額の報奨金を授与した。
【ヤムル地方における流行り病の被害報告】
過日、当ヤムル地方の複数の山村を流行り病が襲い、多数の者が感染し、多くの死者が出た。
遺体は感染拡大防止のため、慣例に従いその場で焼却処分された。
死亡した者の名は次の通り。
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ーーーーエマ、アリス、ケインーーーーーーー
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以上、死亡者 67名
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次回タイトル予告「手配書の行方」




