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60.野盗狩り⑮〜戦闘

「フ、フザケやがって……!お、おう、オマエら

ビビンな!数の上じゃ俺たちが有利だ!」


 頭目が部下に檄を飛ばすが、ゼクスがそれを笑い飛ばす。


「おいおい、無理せんでもいいぞ。お前らのうち2人はケガ人じゃろう。数の差なんぞないも同然じゃぞ。

 おい、そこの2人、わしにかかってくるんか?

どうじゃ?」


 ゼクスに顎でしゃくられ、痛めつけられた2人が顔を青くする。

 手にした武器を放り捨て、両手を上げた。


「…ムリだ、かなわねえ、俺ぁ投降する…」

「…俺もだ…、この身体じゃ戦えねえ…」


「この腰抜けどもが!!」

 頭目の怒りが2人に向く。

 勢いよく走り出し、手にした大剣を横殴りに振った。


 ガキャッ!


 大剣が1人の左腕を切り飛ばし、そのまま肋骨を砕きながら振り切られ、男の身体は土埃を上げながら転がっていった。


 間髪入れず頭目がもう1人の男に襲いかかる。

 弁明しようとする男に一切構わず、振り下ろされる大剣が頭蓋を砕き、男はぐしゃりとイヤな音を立て、地面にへばりついた。


「おうお、酷い事するのぉ」

と言いつつ、そんな感慨は微塵もないまま、頭目と対峙するゼクス。


 野盗たちは、まさに前門の虎、後門の狼状態。

 ゼクスに太刀打ち出来ようはずもなく、かと言って

退けば頭目の怒りを買い、地面に転がっているかつての

仲間と同じ末路を辿る。

 選択肢は、前門の虎の"手下"しかなかった。


 野盗たちの視線が自分以外に向いた事を察し、ゼクスが注意喚起する。


「お前ら、雑魚どもは子細に及ばずじゃ、好きにせい」

「了解!!」



「舐めんなあ!テメエら、かかれ!」


 頭目の号令で、一斉に動き出す野盗。


 野盗が護衛の1人に猛然と斬り掛かった。

「うおおおお!死ーーーー」

「ふんっ!」

 野盗の台詞の途中で、護衛の剣が袈裟懸けに走る。

 左肩から入り、右脇腹までを通る、”武神の一閃”と

同じ太刀筋。


 血煙を上げながら崩れる野盗を一瞥し、呆れたような顔で呟く。

「おいおい、舐めんなよはこっちのセリフだ。

 なんだよ、その程度の剣技ウデで。まるでなっちゃいねえ。俺たちがどんだけあのヒトにしごかれてきたと思ってやがんだ」


 他の野盗も同じだった。


 斬り掛かってもほとんど剣を交えられず、ほぼ一刀のもとに斬り捨てられ、次々に地に沈んだ。


 野盗側は頭目を含め残り3人。


 数の優位があっという間にひっくり返され、力の差も歴然。

 野盗に焦燥感がありありと浮かぶ。


 しかし、1人が悪党らしく邪な視線を傍らに向けた。村長の家だ。


「あ、あれマズい」


 エヴァが野盗の意図を察し、それと同時にシドが体躯に似合わぬ俊敏さで姿を消した。


 野盗の1人が村長の家に押し入った。

 村人の悲鳴が上がる。

 男はそれを意に介さず一同を見渡し、母親に抱きかかえられる子供に、イヤな視線を向けた。


「ヘヘッ、コイツでいい」


 男が子供の髪を鷲掴みにし、母親の腕から奪い取った。

 子供を盾にして、逃げるつもりだ。

「オラ、ガキ、一緒に来いや!」


 泣け叫ぶ子供を引きずるように連れ出そうとする男。

「や、やめて下さい、子供だけはーーー」

「うるせえ!」

 縋りつき懇願する母親を足蹴にする。

 が、それでもなお縋りつく母親に、苛立ちの目を向けた。


「ジャマすんじゃねえ!」


 男の長剣が振り被られた。

 凶刃が母親を襲おうと舞った瞬間、男の剣を握る腕

が虚空で凍りついた。


 ……腕が…動かない……


 戸惑う男の視界の隅に、剣を握る腕を掴む大きな手が見えた。


 男がカタカタと震え、自分の背後を見やる。


 そこにあったのは、

 巨大な体躯、

 暴虐の気配、

 凶相、

 それが自分を見下ろしていた。


「ひ、ひいっ!」


 もうひとつの大きな手が男に迫った。 

 ガシッと子供を捕らえる腕を掴み、グリッと捻り上げる。

「い、痛え…!」

 男の力が抜け、放たれた子供が再び母親に抱きかかえられる。

 それを確認し、剣を持つ腕ごと男を放り投げた。

 ブンッと音を立て、男が壁まで転がっていった。


「…くっそ…、この野郎……」


 剣を支えに立ち上がったが、劣勢は明白だった。捻り上げられた左腕は力が入らない。剣を持つ右手も相当痛手を受けている。


 なんとかこの場を逃れる方法は……


 男の視界に村人たちが映る。

 敵の武力が自分に勝る時の対処法。

 自分の武力で更なる弱者を制し、それを盾として自らへの攻撃を抑止する。 


 つまりは人質。

 また同じ所業。

 やはり、これしかない。


 男が長剣から手を離した。

 一見、降参するような素振り。


「ま、参った、投降する」


 両手を顔の辺りまで上げて、上目遣いでシドを見る。


 媚びた眼差し…

 だが、目の奥にはまだ邪気が宿っている。


 シドの目が更に警戒色を帯びた。


 男は一瞬たじろぎ、それに弾かれるように、近くにいた村人の女に飛び掛かった。


 男の手が女に迫る。


  あんなバケモンと真っ向勝負なんかできっか

  オンナ盾にして逃げ切ってやる

  あと少しだ

  もう少しで手が届く

 

 しかしその直前で、男と女の間に壁のようなモノが分け入ってきた。


 男との激突。

 だが、ソレはびくともしない。


「ぐ…う…」


 ぶつけた鼻を押さえ、ソレを見上げる男。


 目の前に立ちはだかるのは暴虐の気配。


 …さっきまであそこにいたのに…

 …コイツ、速すぎる…!


 男を睨みつけながら、シドの右拳にギリギリと力が込められ、ゆっくりと射出軌道に乗った。


「ま、待ってくれ!ホ、ホントに投降ーーーー」


 男の言い逃れを遮るように、打ち下ろし気味に拳が飛ぶ。ブンッと空気を震わせ、放たれた拳が男の顎先を捕らえた。凄まじい衝撃がそこから首に伝わり、鈍い音とともに男の頚椎を破断して、男の顔をあらぬ方向にまで捻じ曲げた。


 そのまま床に倒れた男。

 シドはそれを一瞥し、村人の方を向く。


 誰もが茫然自失。

 身動きひとつできない。

 助けられた女さえ、固まったまま怯えた目でシドを見つめている。


 続く沈黙のなか、先ほど助けられた子供が、母親の腕から離れ、シドに歩み寄っていった。


「……ひい…ダ…ダメ…!」


 母親が子供を引き戻そうとしたが、身体がうまく動かない。


 子供はそのままシドの前に立った。


 圧倒的な暴力の気配に、誰もが凍りついたまま、成り行きを見つめる以外できなかった。



「……おじちゃん…、ありがとう……」


 そう言って子供がシドの足にしがみついた。


 シドの表情は一向に変わらない。

 顔の筋肉は微動だにせぬまま、大きな身体を屈ませ、子供と同じくらいの目線に落とし、大きな手を子供の頭に乗せた。


 ポンポンと軽く子供の頭を叩くと、子供がニパァッと笑顔を作った。


 母親と村人の空気が一気に弛緩する。


 母親が這いずるようにシドの足下に来て、床に頭を

擦りつけて涙を流す。

「あ、ありがとうございました!」


 村人たちも同様に平伏し、感謝の言葉を叫ぶ。


 シドは依然として表情を変えず、その大きな手を

上げ、いつも通りひと言も口にせずその場を去っていった。





**********************





【エマ視点】


「まにあったようだね、よかった。お疲れサン」


 女が戻ってきたデカイ男を笑顔で迎え、労った。

 でも男は何も喋らず、ただひとつ頷いただけ。


 女はニコニコしながら男に話しかけているが、

男は稀に頷くだけでほとんど反応しない。


「…ねえ、さっき、何があったの…?」


 野盗が村長の家に入っていって、男もそこに向かったのはわかったが、何が起きたのかはここからじゃ伺い知れない。

 思いきって聞いてみた。


「ホラ、追い詰められた悪党が、人質取って何か要求するって、よくある話だろ。定番だよね。

 アレやられると、結構面倒だからさぁ、やられる前に止めてきたんだ」

 

「……みんな…無事…だったの…?」


「当然でしょ、あんな野盗如き、ダンナにかかればチョロいモンよ」


 女が男をバンバン叩いて褒めてるが、男は全く喋らないし、表情も変わらない。

 あの怖い顔のままだ。




「え?、う、嘘だろ?」


 女がいきなり驚きの声を上げた。 


 …え?なんで驚いた?


「へっえ〜、子供がアンタにありがとうって言ってくれた?!

 そりゃスゴイ!うれしかったろう!」


 ……ダンナさん…何も喋ってないケド…?


「アハハハハハ!そんなに照れなさんなって!

 村のみんなの英雄サマじゃないか」


 ……あの…、姐さん……

 …照れてるって…どこを見ればそう見えるの…?


「そうね、アタシら民間人だから、ホントは出入りに出張るのはご法度なんだけどね。まあ、仕方ないだろ、許してくれるよ」


 ……民間…人…?

 …何言ってんの…

 どう見ても…その筋の人…にしか…


 確かに、このふたりも、あのジイさんも、荷馬車の連中も、素性を教えてもらってない。


 ただ…、あたしの味方をしてくれてるのだけはわかる。


 またあの優しい声があたしに指示した。


「エマ、そろそろこの小芝居も終演のようだ。

 必要な荷物纏めて持ってきといて」


「…はい!」


 信じていい。

 この声を、

 あの瞳を、


 あたしは確信して家に走った。


 

 


 



 

 


 

 




 

 


 

 


 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになりますので、よろしければお気持ちの分だけ☆をいただけますでしょうか。


できましたら、ブックマークもしていただけると嬉しいです。

末永くお付き合い下さいませ。


次回タイトル予告「小芝居の終焉」

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