5.神を拾った日①
2人が地上に出た時、もう夜が明けていた。
陽の光がやさしく照らし、空は青く、風は穏やかで、流れる雲も、揺れる草木も、いつも通りの日常。
アルベルトには、逆にそれが異様に感じられた。
神が現れたにしては、あまりに平凡な風景だった。
「…まぶしい」
少女がそう言って目を細め、空を見上げる。
「地上だからな」
「…そう」
それ以上の感想はない。
歓喜も、恐怖も、感動も。
この年頃なら、目に映るもの全てが新鮮な驚きに満ちているだろうに…
不遜かもしれないが、ひどく不憫に思えた。
「街まで少し遠いが…、大丈夫か?」
「…うん…」
少女は俯いたまま、か細い声で答える。
だが、アルベルトの手だけはしっかり握っている。
アルベルトはフッと安堵し、また同時に少しばかりの照れくささも感じつつ、帰路を歩んだ。
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「う〜ん……」
2人が領主邸の正門前に辿り着いたのは、そろそろ夕暮れが近づく刻限だった。
その眼前には……
土と埃にまみれて疲弊しきった騎士団員達
(たぶん自分達の捜索隊…)
彼らに甲斐甲斐しく食料や水を配る侍女・メイド達
(たぶん非番の方々も駆り出されてる…)
庭の傍らにテントを張り、地図らしき紙を広げ、何やら喧々諤々の議論をしている、文官と、技官と、武官達
(たぶん幹部ほぼ総動員…)
更に屋敷の奥から聞こえてくるのは、もっと不穏で、且つ不毛極まりない言い争い……
「邪魔をするな、マーサ!ゼクス!
やはりここは、私自ら陣頭指揮をーー」
「ダメです、エリシア様、危険です!
代わりに、このマーサが必ずやーー」
「バカ者ども!非力な女など、現場では足手まと
いになるだけだわ!ここは一番、この老骨がーー」
あまりにカオスな光景と、屋敷に木霊する3体の猛獣の如き咆哮に、アルベルトはただ一言、
「……マズい…」
陥没事故の発生は夕刻近く。
日没後の捜索活動は、二次被害の危険性を踏まえ
見送り。
物資と装備を整え、翌早朝、改めて捜索隊を派遣。
常道な対応策だ。自分でもそうするだろう。
一方で…自分はミスを犯した。
捜索隊は、人員と装備を円滑に現地に搬入するために、必ず主要道を使う。
自分達が帰路に主要道を使っていれば、どこかの地点で必ず合流できたはず。
「(捜索隊)よかった、無事だったんですね(涙)」
「(自分)みんな、心配をかけて済まなかった。
ありがとう(感謝)」
誰も不幸にならない、そんな世界線。
だが…自分は、子供の足への負担に配慮しつつ、できる限りの最短ルートを選んでしまった。
故に、メインルートから外れた裏道や小路を駆使しまくりーー
結果、子連れ且つ徒歩での帰路としては、それなりに満足できる時間短縮が成し遂げられた……のだが……
その帰結が、この混乱状態……
アルベルトは、これから自分に襲い掛かるであろう
苦難に思いを馳せ、崩れるように膝をつき、片手で顔を覆った。
少女は、眼前の喧騒と、自分の目線と同じくらいの位置に降りてきたアルベルトの顔とを、不思議そうな表情で交互に見つめた。
その最中でも、アルベルトも少女も…握った手を離すことはなかった。




