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6.リンとメリッサ

 リンが、ゴッヅ・アンナ夫妻のパン屋の一人娘のメリッサと初めて会ったのは、孤児院に通うようになってすぐだった。


 ゴッヅのパン屋は、孤児院にパン作りを委託していた。

 ゴッヅ夫妻がパン生地を孤児院に渡し、孤児たちが自分たちの食べる分の他に、指示された数のパンを焼き、ゴッヅの店に納め、代金を受け取る。

 もともとは孤児院独自の収入基盤確保のためにアルベルトが発案したものだ。


「空腹はいけねえ。気持ちがささくれやがる。

 人間、腹さえふくれりゃそれなりに幸せでよ、悪さなんか考えねえもんだ。

 自分とこでパン作りゃ、それで腹はふくれるし、ウチに納めてくれりゃその代金でいろんなモン買える。ウチも品数増やせて商いを大きくできるぜ」

 かつて、アルベルトが孤児院へのパン作りの委託を頼んだ際に、ゴッヅはこう言って快諾した。

 それ以来の長い取引だ。


 孤児院に遊びに来ていたリンは、ゴッヅと共にパンを受け取りに来たメリッサと出会い、すぐに仲良くなった。


 メリッサは10才。リンは見た目6~7才くらい。

 精一杯お姉ちゃん風を吹かせて、甲斐甲斐しくリンの面倒をみているメリッサを、皆微笑ましく見ている。


「おお、メリッサ、お前も立派なお姉ちゃんだな。

 いいか、お姉ちゃんってのは妹をしっかり守らなきゃなんねえ。できるか、ん?」

 ゴッヅの問いに、メリッサは鼻息荒く答えた。

「うん、お姉ちゃんだもん。リンちゃんはあたしが守るよ」


 リンはしばらくポカンとしていたが、ちょっぴり顔を赤くして、うれしそうに呟いた。


「……ここ、守ってくれるひと、いっぱいいる……」



      ❖  ❖




「違法奴隷か……」

 エリシアが報告書を睨み、苦々しく顔を歪める。

 傍らのアルベルトも表情は険しい。


 先日、リヒテンラーデ国境付近の検問所で、不審な商隊(キャラバン)の積み荷の空樽の中に、14人もの子供が閉じ込められているのが発見され、商隊の7人全員を拘束するという事件が発生した。


 きっかけはアルベルトの『違和感』だった。


 リヒテンラーデ行きの商隊の、積み荷目録と空木箱や空樽を含めた積み荷の実数との乖離。

 総量に占める割合は極々僅か、誤差と言っていい程の僅少な差異。だが、ここ最近、その”通過件数”が増えていた。

 

 目的地は目の前。なのに置かれる複数の空の荷物。

 効率を求める商人の行動ではない。


 この『違和感』と、過日シドの酒場で聞いた

情報の欠片がはまり合う。


 ”隣国で子供の誘拐が増えている“


 アルベルトは、すぐに国境付近の検問所に注意喚起し、「空積み荷」の中を必ず目視するよう厳命。

 その結果、今回の事件が発覚した。


「子供たちはどこから?」

「カーチスから連れてこられたようです。

 彼の国では最近子供の行方不明事件が多発していて、かなり神経を尖らせていまして、近日中に使者が感謝の意を伝えに来るそうです」


 エリシアが安堵と面倒さが微妙なブレンド具合のため息を吐く。


「使者なんぞ要らんから、早く迎えに来て親元に返してやらんか」

「全くです……が、謝意を伝えたいと訪問を希望されては、固辞するのも礼を失します」 

「まぁそうだな、仕方ない、気持ち良くお迎えしよう。

 で、犯人どもはどんな素性だ?」

「正直、商隊とは名ばかりの、寄せ集めの無頼の輩です。輸送の発注元はリヒテンラーデの商会となっていましたが、運送業組合長に頼んで確認したところ、該当する商会は存在しませんでした」


 エリシアが、チッと舌打ちし、腕組みする。


「では、犯人どもを締め上げても無駄か……」

「はい、所詮は烏合の衆です。有用な情報は何も得られないでしょう」

「となると……手詰まりだな」


 憮然とした表情のエリシアに、アルベルトがティーカップを差し出す。


「でも、運送業組合長が、今回の件でお役に立てず、申し訳ない、と申されて、マル秘の情報を差し出して下さいました。あくまで、自発的に。

 今後、役立てられる事でしょう」


 エリシアが苦笑する。


「組合長の半泣きの顔が、目に浮かぶよ」


「今回は、子供たちを無事に保護できた。

 その事は素直に喜びましょう」


「そうだな……」


 出されたティーカップを暫し見つめた後、アルベルトに視線を移し、こう言った。


「ありがとう……、お前のおかげで子供たちを救えた」


 アルベルトは、静かな笑みを浮かべ答える。


「大人は子供を守るものですから」

 


 


 


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