6.神を拾った日②
「……詳しく説明してもらおうか」
若き領主は、アルベルトと少女に交互に目をやり、あらん限りの威厳を振り撒きつつ、事の次第を問う。
しっぽを膨らませた子猫だな…
苦笑を、巧妙に真摯さで上塗りする。
「地盤調査中に陥没事故がありまして」
「それは知っている」
「落ちたところが横穴になってまして」
「…」
「空気の流れを頼りに出口を探しまして」
「……」
「大きな空洞を見つめまして」
「………」
「…そこに、眠っておられまして」
「…………?」
「……拾って…きました」
「……………何…を…??」
アルベルトが、少し言葉を選ぶ。
「………厄介な方を……」
エリシアの視線が少女に向く。
少女は、きちんと椅子に座り、足を揃えていた。
周囲の気にしているのか、していないのか、その表情からは、判別できない。
「あなたは……」
エリシアが慎重に口を開く。
「……お名前は?」
少女が、一拍置いて答える。
「……ない……」
「ない?」
エリシアが驚き、思わず声に出した。
「よばれたことは……あった…。でも……もう…
いない……」
少女が、たどたどしく、静かに答える。
その言葉で、エリシアは全てを察したようだった。
感情の昂り。
胸が詰まるような想い。
胸の奥での葛藤。
それをアルベルトは確かに感じ取った。
平然を装い、パンっとひとつ手を叩く。
「今日は疲れたでしょう。夜も遅い。また明日にしませんか。子供はもう寝る時間です」
エリシアは、その助け舟にほぅっとため息を吐き、
お開きを宣言した。
「そうだな、そうしようか。
お嬢ちゃんも眠いだろう。
マーサに客間を用意させてある。
今夜はそこで休んでくれ」
そして、アルベルトの肩に手をやり、そっと呟く。
「お前が…そばについていてやってくれ……」
肩に置かれた指が、呟く唇が、感情の昂りで震えているのを、アルベルトは認めた。
2人で部屋に入る。
簡素だが、清潔。
窓の外には、寝静まった街。
少女が窓辺に立ち、街の静寂を見つめる。
「……静か…」
「みんな寝ているんだ。明日、また起きるために」
「みんな……起きるの…?」
一瞬の逡巡、しかし笑顔で打ち消す。
「起きるさ。生きてるからな」
ベッドの毛布をめくる。
「さぁ、ここでお休み」
少女はベッドに腰掛け、しばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟く。
「……ここ、こわれる…?…」
アルベルトが頭を振る。
「簡単には壊れないよ」
蒼い目が視線を向ける。
「……わたしが……いるから?」
アルベルトは、少しだけ考え、
「いや」
はっきりと否定する。
「君がいなくても、だよ」
窓の外に目をやる。
街の静寂、僅かな人の流れ……
それでもそこには生の息吹が確かに存在している。
「ここには人がいる。たとえ街が壊れても、人が残る」
「……人が…いれば……?」
「ああ。街はまた作れる」
蒼い視線に、驚きと微かな安堵の色が混じる。
「……じゃあ…わたしは……」
「ここにいて、いいんだ」
そして、いつもの口調で続ける。
「ただの居候、としてね」
少女は、しばらく彼を見つめ続け、やがてふっと息を吐いた。
ほんの僅かだが、笑みらしき表情も浮かんだ。
「…へん……」
「よく言われるよ」
アルベルトも微笑んで、少女にそっと毛布を掛けた。




