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58.野盗狩り⑬〜”狩り”の準備

 組合直轄の商隊キャラバンが通過予定の前夜。

 ゼクス、シド、エヴァは、野盗のアジトで、野盗たちと襲撃方法を擦り合わせしていた。


「ーーじゃあ、ケガしてる2人は村の見張りに置いて、俺たち9人とアンタら2人でやると。

 護衛はせいぜい5〜6人ってとこだろう。11人いりゃあ、十分イケる」


「さて、それじゃどこでやるかじゃが……、森ン中はちぃとやりにくいのぉ。道が狭くて囲めん。前後を塞いて襲うとなると、こちらは数の優位を生かせず、相手は自分たちの前方にのみ集中すればよくなる。

 あとは馬車で突っ切られるのもマズい。そうなったらお手上げじゃ」


 ゼクスが簡単な地図を前に腕組みし、自説を説明する。


「しかし、そうなるとどこも同じだぜ」


 頭目の反論ももっとも、とゼクスが頷き、顔を顰め唸る。


「そうじゃのう…。どうすべきか……」


 皆が思案しているところに、エヴァが恐る恐るといった感じで口を挟んだ。


「……いっその事、村でやるってのは…どうだい?」


「村…じゃと…?」


 ゼクスの問いに野盗も同意を示し、エヴァに注目が集まる。


 エヴァが皆の目に少し恐縮しながら、地図の村を指し示した。


「……外での荒事はシロウトだから、変な考えかもしれないけどさ…。

 村に誘い込めば、みんなで囲むのは訳ないんじゃないかねぇ。 

 例えば、村の入り口の少し先に荷車でも転がしといて道塞いで、『退けてる間、お詫びに茶でもどうぞ』とか言ってさ。

 そうすりゃ、馬車からみんな離れるから、馬車で逃げられる事もないよ。

 一気に囲んでやれるんじゃないかね」


 野盗から、おお〜っと感嘆の声が上がる。

 頭目もウンウンと頷いて、エヴァの意見を首肯した。


「……カシラ、いかがですかのぉ?」


 シドがゼクスにイジワルな笑みを向けられる。


 しかしシドはいつもの険しい表情のまま。


 微動だにしない。


 そのまま…沈黙が流れる…

 漂う緊張感…


 そして…

 コクッと…

 ただただ…無言で頷いた。


 なぜか湧き上がる野盗たちの歓声。


 無法者たちには、コレが悪党の風格と受け止められたのか。


 これにさえ一切動じない…ように見えるシドの目が、ゼクスを恨めしそうに見つめていた事は、エヴァしか知らなかった。




**********************




 【エマ視点】


 なんか野盗の連中の雰囲気が変だ。

 神経質というか、警戒しているというか…

 とにかく目をギラつかせて、ピリピリしてる。


 こういう時は、連中を刺激しちゃいけない。

 何をされるかわかったモンじゃない。


 なるべく目立たないように、そっと家に帰ろうとした時だった。


「ねえ、悪いんだけどさ、服貸してくんない?」


 またあの旅の女が話しかけてきた。


 女をまじまじと見る。

 着ている服は確かに薄汚れているけど、あたしが着ている服よりは格段に質がいいはずだ。

 なんであたしの服なんか……。


「ホラ、このカッコじゃ、村人には見えないでしょ。

背格好も同じくらいだし、いいだろ」


 そう言ってグイグイ私の背を押す。


 …え?…村人に見えない…ってどういう事?

 …村人に化けて、なんかやる気……?


 戸惑うあたしに野盗の1人がイライラ混じりの声で怒鳴りつけてきた。


「おい、早くしろよ、やる事はまだあんだからよ!」


 男の口調は刺々しく、苛立っているのがすぐわかったが、女はそれを平然と受け流した。


「わかってるよ、それよりアンタ、覗くんじゃないよ」


 女に流し目を投げ掛けられ、男はソッポを向いた。

「ケッ、誰がそんな怖え事すっかよ」

と言ったのが、かすかに聞こえた。


「ホラホラ、アンタのウチに連れてって」


 あたしは女に背中を押されて、そのまま家に戻った。




**********************




「……ねえ…、一体何をしようっていうの…?」


 あたしの服に着替えている途中の女に、思いきって

聞いてみた。


 どうせロクな事じゃないだろう。

 聞いたところで何もできやしない。

 だけど…、このモヤモヤした感じ……

 目の前で悪事が働かれるのに、自分は何も知らないと、無関係だと、そう振る舞うのはただの責任逃れのような気がして、我慢できなかった。


 何が起きるのかを知るべきだ。

 これから起きる出来事を知って、その責任の一端が

自分の無力さにあるという事を自覚すべきだ。


 睨みつけるあたしに女が苦笑した。

「……アンタさ…」


 睨んだ目に女の視線を合わせられる。

 見透かすような深い眼差し…

 底が知れない…

 吸い込まれそうだ…


「無力だから自分にも責任があるなんて、考える必要ないからね」


 身体がビクッと震えた。


 ……なんで…考えてた事がわかった…?

 ……口にしたのは……

 あの一言だけだ……

 それだけでわかったというのか……


「アンタはアタシらに忠告してくれたろ。なんとか

アタシら助けようとしてさ。

 自分にできる事を必死でやったんだ。それで

いいんじゃないか」


 あの優しい声が、あたしに囁いた。

 底の知れない深さの瞳が、慈しみの色を湛え、あたしを見つめる。

 女が両手をあたしの頬に添えた。

 

「これからいろんな事が起きる。大混乱になる。  

 いいかい、アンタはアタシから絶対に離れない

ようにするんだよ。何が起きてもだ。

 なあに、終わりまでそんなに時間はかからないさ。

 全部終わったらアンタはーーーー」



 女が言葉を切る。


 すうっとあたしの耳元に唇を寄せて、またあの優しい声が小さく呟いた。




「マギーたちのとこにいるよ」





 あたしは息を呑んだ。


 ……母さん……

 

 ……なぜ母さんの名を…?  


 ……まさか…テーゼから……?



 女はフフンと鼻で笑い、あたしの肩を叩いた。


「ほれ、じゃあ、まずは荷車持っといで。

 そうだね、2台用意しな。

 それに材木と薪、とにかく嵩張るヤツを集めて、荷車に積み込んでおくれな」


 女に押し出されるように家を出た。


 まだ頭がぼーっとしてる。

 考えが纏まらない。



 ……だけど…

 ……あの女の言う通りにすれば……

 ……母さんに会える…


 そんな確信があった。

 


 女に言われた通り、近所から荷車を持ち出し、村の広場に2台並べた。


 野盗が、近くの村の人たちに、材木や薪を集めるよう命令する。


 荷車に薪と材木が山積みにされた。

 

 これをどこに運ぶのかと思っていると、

「えっと〜、アンタと、アンタと、ああ、ソッチの、ホラ、アンタらも」

 と、女が村の人を集める。

 あたしもさりげなく呼ばれた。


「悪いけどさ、コレを村の外のあの辺りまで運んでおくれ」


 女が指さしたのは、村の入り口の少し先。

 言われるがままに、荷車を運ぶ。

 何をするつもりなのか、見当もつかない。


「は〜い、じゃあそれをぶち撒けて〜」


 え?ぶち撒けて…って…?…え?


「荷車ひっくり返して、積んであるモンばら撒いて欲しいんだ」


 みんな、連中が何をしたいのかわからないって顔をしてる。

 でも、逆らったら何されるかわかったモンじゃない。

 渋々、荷車を倒して、薪や材木を道に転がした。

 結いた薪が解け、バラバラと道に散らばり、大小さまざまな材木がその上に積み上がった。

 人なら辛うじて通れるが、馬車なんかはとても往来できる状態じゃない。

 コレをまた積み直すのはかなり労力が要る。


 女がパンパンと手を打った。


「は〜い、ご苦労さん。アンタらはまだここにいてね〜。少し座って休んでていいよ〜」

 

 妙に明るい女の声に促され、みんな材木や薪の

束に腰を掛けたが、不安は一向に消えない。

 次に何をやらされる?今度は何が起こる?

 そんな顔をしている。


 あたしも同じだ。


 腰に手をやり、ニコニコしながら周りを見ている女に、思いきって尋ねてみた。


「……ねぇ…、コレって…何なの…?」


 女があたしに振り返った。


「ああ、コレはねーーー」


 笑顔は変わらない。

 声も明るいままだ。


 だが、一瞬だけ、眼差しが凍った。

 ゾクッと、背中に寒気が走った。

 

 ほんの一瞬だけ。

 周りの誰も気づかない刹那の変貌。


 あの優しい声と慈愛の眼差しとは、真逆の冷徹さ。


 いったいこの女の瞳は、どちらが本当なのか。

 


 戸惑うあたしを一向に気にせず、さっきのニコニコ顔のまま、声を少し落として、女が囁いた。


 

「"狩り"の準備だよ」

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 





 






 

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