57.野盗狩り⑫〜エマとシド&エヴァ、アルベルトとシド&エヴァ
【エマ視点】
子供たちを逃がしてから…幾日経ったろう…。
あの時は…必死だった。
野盗の連中が好き勝手に振る舞い、逆らえば容赦なく何人も殺された。
そんな村に、子供たちをおいておくわけにはいかない。
だけど、連中もあたしたちを四六時中見張ってる。
ここを根城にしてる事を秘密にするために。
逃げようとして殺された一家もいた。
ダメだ…
逃げられない…
このまま、おとなしく
怯えながら暮らすししかないのか…
半ば諦めてた時、村を流行り病が襲った。
かなりの人が病に罹り、野盗は病を恐れ山に籠った。
今だ、今しかない。
あたしは、村中に子供たちが病に罹ったと触れ回った。
子供たちを家から出さず、自分も看病する振りをみんなに見せつけた。
そして、あの夜…、闇に乗じて子供たちをテーゼに向かわせた。
何とかここを離れて…
誰かに助けを求めて…
テーゼのばあちゃんのところに辿り着いて…
子供たちは病で死んだ…
死体はすぐに焼いた…
それでいい…
子供たちが無事でいてくれさえすれば…
もう…会えなくてもいい…
病が去って、野盗どもが戻ってきた。
村の人も何人も病で死んだため、子供たちの事を詮索される事はなかった。
また奴らの目に怯えながらの暮らしが始まった。
**********************
村に旅の3人組がやって来た。
男2人と女1人。
男は1人が年配で、もう1人はあたしより年上に
見える。
2人とも筋骨隆々で体格がよくて……揃って顔
が怖い。
女は自分と同じくらいか少し年上…か。
仕草のいたるところに色気というか…妖しさと
いうか…、なんとも言い表せない雰囲気を漂わせている。
とにかく、危ない感じの迫力がある人たち。
村にひと晩泊めて欲しいという。
見張りの野盗が仲間を呼びに行った。
見張りの野盗どもの考えはわかっている。
寝込みを襲って殺して金を奪うつもりだ。
どうにも我慢できず、旅人のところに駆け寄った。
「ダメだ!こんなトコに泊まっちゃ!
早く逃げな!殺されちまう!」
必死に訴えたが、3人はなぜかキョトンとした顔
をしていた。
理解できなかったのだろうか?
……いや、違う。
彼らは…理解している。
野盗の事を…もう…知っている…のか?
女が囁いた。
優しい声。
「…へぇ…ありがとよ。あんたの話聞いて…なんか
コッチも救われた気がするよ」
何を言ってるのか、意味はわからなかった。
すぐその場を離れたが、その優しい声がどうにも耳に残った。
**********************
翌日、3人組は……ピンピンしていた。
正直、驚いた。
襲われなかったのか。
…いや、野盗どもが獲物を見逃すはずはない。
返り討ちにした…?
それはあり得る事だが、それならすぐに身を隠すはずだ。
残りの野盗どもがほっておくわけがない。
見張りは…、昨日の男たちは…いない。
別の男たちだ。
…え…?挨拶してる…?
何もなかった…のか…?
何がどうなったかわからず、頭の中がゴチャゴチャになってるところで、女が声を掛けてきた。
「おはようございます。昨日泊めてもらった旅のモンだけど、村長さんのとこ、案内してもらえません?
あと一泊させてもらおうと思って」
いかにも初対面という声掛けだ。
あたしの忠告を隠してくれてるんだろうか。
「…はい…、じゃあ、こちらへ…」
女と連れ立って歩き始めた。
見張りの男は…、こっちを全く気にしていない…。
旅人を見張る必要がない…、そうとしか思えない……
…という事は…、コイツらも…仲間…?
いや、それだとあたしを庇う理由がない…
頭の中で、纏まらない考えだけがぐるぐる巡る。
あれこれ考えるあたしを察したのか、女があの優しい声で、また話しかけてきた。
「ゴメンね、混乱させちゃってさぁ。
アンタは気にしないで、いつも通り普通に過ごしておくれ」
「あ、あんたたち…いったい…?」
「ただの旅人だよ」
またあの優しい声。
ただ、有無を言わせぬ…そんな感じがした。
「ちいとばかり、曰く付きのね」
**********************
ーーーーエリシア執務室ーーーー
執務を一段落させ、エリシアとアルベルトがソファで茶を傾けている。
「いよいよ明日か、決行の日は。
うまく運んでくれればいいが…」
「うまくいきますよ」
アルベルトが二組のティーカップに新しい茶を注ぐ。
「シドとエヴァ……、彼らに悪党の演技を演らせたら、誰一人疑う者はいません。それぐらい彼らの纏う気配はホンモノです。
シドの外見と寡黙さは、内に秘めた凄まじい暴力の
香りを醸し出し、エヴァはあの妖艶な笑みで、ヒトの
心を容易く惑わす。
シドという暴力装置を従えたエヴァの弁舌には、たいていの悪党は手玉に取られるでしょう」
「…確かに、誘拐団のリーダーを絡め取った時は、お前が書いた筋書きがあったとはいえ、あれほど見事にハメられるものかと、感心したが」
「エヴァはヒトの心の動きに極めて敏感です。
その動きに応じて、更に背中を押すか、腕を掴んで
引き戻すか、ほんの少しの力か、全力が必要か、
それを過不足なく見極め、自分の望む方向へ誘う事ができます。
言葉と、視線と、笑みで…、さながらローレライの歌のようにね」
「……ローレライ…か…。彼の伝説の妖精の歌は、聴いた者たちを破滅に追いやったが…」
「彼女の言葉は悪党にとってそれほど魅惑的なんです。
欲望を、認識させ、増幅させ、実現を確信させる。
歌を聴いた者の目には、彼女は慈愛に満ちた聖女に
見える事でしょう」
エリシアがテーブルに肘をつき、両手で顎を支え、
ジトッとした眼差しを向けた。
「……なにか…?」
「…お前たち…似てないか…?」
イジワルい視線をいつもの鉄面皮で弾くかと思われたが、さにあらず、僅かにはにかむような笑みを浮かべるアルベルト。
エリシアの視線に意外感が加わる。
「似てはいますが、領域が違いますよ。
私は表側の世界、彼女は裏側の世界。
そうですねぇ、きっと、お互いを"逆さ鏡"のように
感じているんじゃないでしょうか」
アルベルトが立ち上がり、窓際に立った。
陽光がアルベルトの背後から差し込み、エリシアの
視線は彼の表情を捉えきれない。
「シドもエヴァも本質は善性です。ただ、善悪の
境界線に立ち、そこを越えるのを厭わず、越えて
なおあちら側に染まらず、自分の本質を保ち続ける事ができる、稀有な人間たちなんです。
そういう面を幾度となく見せてくれている。
だから私は彼らを信頼しているし、友人として
敬愛しています」
アルベルトは照れくささを隠すように、言い終わると同時に窓の外に顔を向けた。
エリシアは彼の友人への想いをなぜかうれしく感じつつ、その背を眺めていた。
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次回タイトル予告「釣り場の魚」




