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56.野盗狩り⑪〜誘惑

「…アンタら…お尋ねモンだったのかよ…」


 野盗たちが手配書と3人を見比べる。


 手配書にはヤバい犯罪ヤマがビッチリと並んでおり、最後に仰々しい印とサイン……。

 ……こりゃ、第4王子…のじゃねえかよ。


 ヒゲ面の大男、妖しげな笑みの女は…手配書通り…、いや…、それ以上の剣呑さを纏っている。

 こりゃ、本物マジモンの凶状持ちだ。


 ……ただ…、ジジイは…、う〜ん…?

 ……わかんねえ…なんでこんな…ゆるゆるの締まらねえ人相書きなんだ…?


「……オドレら…、わしの輝くような至高の笑顔に

……なんぞご意見でも…あるんかの」


 ずいっとゼクスに迫られ、アワアワする野盗。


「い、いや…そんな事は……」


「ふん、カーチスの絵師に、わしの崇高さを描く

度量がなくて、嫌がらせしおったんじゃい」


 面白くなさ気に傍らの酒を呷るゼクス。


 クックッと笑いを漏らしながら、エヴァが野盗

たちに対峙した。


「まあ、そういうわけさ。アンタら、こういう稼業なら、カーチスの『英雄王子の大掃除』は聞いてるだろ」


「……ああ…、噂は聞いてる…。カーチスの第4王子が、とっ捕まえた奴らから情報引き出して、悪党を片っ端から牢に放り込んでるって」


「その通りさ。この前、テーゼで誘拐団がとっ捕まってね。ソイツらが白状ゲロして、後は芋づる式だ。今じゃあ

捕まった連中まで密告チクリ合戦だわ。

 アタシらもヤバくなって、カーチス離れるハメになっちまった。まあ、コッチも好きにやりまくってきたんで、根城ヤサ変えにはいい機会になったけどさ」


 頭目がまだ痛む腹を押さえながら、すっかり観念したようにエヴァに問うた。


「……つまり…、この辺を根城にするから…俺たちを…潰すか…、手下になれ…と」


 それを聞いて、エヴァが驚いたようにゼクスとシドを見て、大笑いを始めた。


「あっはっははは、いやいや、そんなんじゃないよ。

やだねえ、アタシら、本業は山賊じゃないよ。

 言ったろ、ジイちゃんは屋根のある寝床じゃないと

ダダこねるって。アタシらは山ン中で荒事するんじゃなくて、もっと街中で仕事をしてたんだ。

 手配書よくご覧な。盗みの類いは載ってないだろ」


 野盗たちが手配書を見直し、ハッとする。


 殺人、放火、詐欺、破壊行為……、ヤバ気な犯罪ヤマ

列記されてはいるが、確かに強奪や運送馬車襲撃など、野盗特有の犯罪ヤマは載っていない。


「この村に立ち寄ったのもただの偶然さ。

 アンタらと会った瞬間、『あ、ご同業だ』ってニオイでわかったけどね。

 だから、別に襲われなきゃ、そのまんま朝には村出てったんだよ。

 でも襲われたんじゃ、ジイちゃんもウチのダンナも……ねぇ。

 アンタも言ってたろ、この稼業は『舐められちゃ終わり』だってさ」


 頭目を始め野盗たちは、まだ緊張が解けない。

 

 自分たちを潰すつもりも、手下にするつもりもない。

 だが、オトシマエはつける。

 言ってることは理解できる。

 自分たちの流儀では当たり前の事だ。

 問題は、そのオトシマエだ…。

 1人は手首を折られ、3人が痛めつけられたが、それで済ますのか…、それとも…。


 猜疑心と警戒心でパンパンの野盗たちに、エヴァがひときわ魅惑的な微笑みを湛えた。


「ココで手打ちにするとしてだ…、ひとつ条件があるんだ。アンタたちにもイイ話だと思うけどさ」





**********************




 エヴァが野盗たちに伝えた条件は次の内容だった。


 〃明日、この村の前を、テーゼの運送業組合

  直轄の荷馬車が通る。

  荷の中身はわからないが、テーゼの組合直轄  

  の商隊キャラバンは、公にするのは些る憚る荷を

  内密に運んでいる。

  だから目立たないよういつも小規模で、

  護衛も数人だけ。

  発注者はだいたい貴族か商人だが、今回は

  商人らしい。

  ひょんな事からこの情報を手に入れたが、

  馬車を襲うのは容易いとしても、自分たちに

  は肝心の荷をサバく伝手がない。

  こりゃヤッても仕方ない仕事だ、と見逃す

  つもりだったが、アンタらが目の前に現れた  

  んなら話は別だ。

  アンタらなら荷をサバく伝手があるだろう。

  どうだい、手ぇ貸さないか〃 




 野盗たちにとっては思いもかけぬ”商談”だった。

 荷の中身はわからないが、大っぴらにできないブツってのは、逆に言えばそこまでして手に入れる価値があるって事だ。やり方次第で相当の実入りになる。

 発注者が商人ってのも好都合。

 貴族が絡んでたりすると、メンツの問題で追及

が厳しかったりもするが、商人ならうまく躱せそうだ。

 それに新顔の盗賊がお宝を闇市場でカネに換えるのは正直無理だ。信用が足らない。

 カネに換えようとするなら、どこかの同業者に相当

叩かれるのを承知で買い取ってもらうしかない。

 

「……俺たちの…分け前…は…?」


 野盗たちの目に、ギラつきが戻ってきた。

 頭目がまだ遠慮がちな口調だが、乗り気になっているのは一目瞭然だった。


「ふふん、荷がいくらになるかわかんないから、今のとこは保留にしといておくれ。

 でもまあ、相場にそれなりに色付けるくらいはするさ。もちろん、アンタらが"新顔"の方だけどね」


 野盗たちは正直ホッとしていた。

 これだけ圧倒的な力の差を見せつけられたら、どんな条件を出されても従うしかないと覚悟していた。

 それがどうだ。業界内では極々普通なやり取りの範疇に収まるというではないか。


 野盗たちの顔色が戻った。

 さっきまでの怯えはどこにもない。

 いつもの野卑で粗暴な気配を撒き散らし始めた。

 

「…いいだろう…、やらせてもらうぜ」


 新しい獲物を目の前にぶら下げられ、喜色を浮かべる野盗たちを、エヴァたち3人が滑るように眺める。


「話はまとまったね。じゃあ、アタシらまた村で

寝直してくるから、よろしく」

「オドレら、またわしの安眠をジャマしおったら、今度は覚悟してもらうぞい」

「………………」


 ひらひらと野盗に手を振り、村への道に戻る3人。


 エヴァが艶かしく微笑む。

 しかし眼差しだけは冷たい。


「……補佐さん…、魚は釣り場に誘い込んだよ」



 

 

 

 

 

 



 

お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回タイトル予告「エマとシド&エヴァ、アルベルトとシド&エヴァ」

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