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55.野盗狩り⑩〜野盗の村

 その一行が村を訪れたのは、とある日の夕刻近くだった。


「お〜い、ちょいとゴメンよ〜」

「アァ?」


 村の入り口で見張りをしていた野盗の1人が、声を掛けられ振り向きーーー愕然とした。


 そこに佇んでいたのは……

 強烈な暴力の気配だった。


 

 大熊を思わせる巨体で、ヒゲ面に鋭き眼光を

宿した大男。

 シワだらけの顔には不釣り合いな、筋骨隆々

たる体躯の年寄り。

 妖艶な笑みを浮かべながら、人の心を闇に惑わす

雰囲気を纏った女。


 な、なんだコイツら……。

 どう見ても…カタギにゃ見えねえ…。


 ……いや、ナニモンかわかんねえうちに、

ここでいきなりモメるわけにもいかねえ…。


 見張りの男は、3人の気配に圧されつつも、平静さを装い、返事を返した。


「お、おう、何の用だい、アンタら…」


 女がイヤに媚びた仕草で男に近づく。


「いやぁ〜、ゴメンよ、突然。

 アタシら、カーチスから旅しててさ。

 ここの領都に行くつもりなんだけど……、

 ホラ、この辺りは街がなくて、カネはあるのにずっと野宿続きでね、ウチのジイちゃんがダダこねてんだよ。たまには屋根のあるとこで寝させろってさぁ。

 そんで困ってたところで、この村が見えてね。

 ひと晩、ここで宿取らせてもらえないかと思った

次第さ」


「…宿を…?」


「ああ、宿屋はないだろうけど、空き家はないかねぇ。

貸してくれるんなら、当然お礼はするからさ」


 エヴァがチラリと金の詰まった巾着を見せる。



 …コイツら、相当持ってやがる…


 男の目に邪な色が浮かんだ。


「……ああ…、事情はわかった。少しここで待ってろ」

 

 男は相談するため、仲間の元に走った。


「わかったよ〜、よろしく頼むね〜」


 エヴァが手を振って男を送り、次いでゼクスとシドにニヤリと笑った。

 シドは表情を変えず、ゼクスはふんっと横を向いて

ボソッと呟いた。

「…誰がダダこねとるっちゅうんじゃ…」



 男の姿が見えなくなった頃合いで、ひとりの女が駆け寄ってきた。

 周りを警戒するように見渡しながら、小声で囁く。


「…あ、あんたら…、こんなトコに泊まっちゃダメだ。早く逃げな。殺されるよ」


 エヴァたちがキョトンとした顔をして、次に興味深げに女を見つめた。


「……アンタ、いいのかい?そんな事あたしらにチクったら、タダじゃ済まないんじゃないの?」


 女はかぶりを振る。

「あたしに助ける力はない…。だから人が巻き込まれる前に…何とかしてやんなきゃ…」


 ゼクスが、ほお、と感心したような声を漏らす。


 エヴァが女に優しく答えた。

「…へぇ…、ありがとよ。なんかアンタの話聞いて…コッチも救われた気がするよ。

 ホラ、もう行きな、連中に見つかっちゃマズい。

 あ、アンタ、名前は?」


 女は躊躇しながら

「……エマ……」

と答え、走って行った。


 3人は顔を見合わせ、お互いに頷き合った。


 





**********************




 戻って来た男と仲間が、物陰から一行を観察する。


「おいおい、いい獲物じゃねえかよ。どう見ても役人

じゃねえし」

「ああ、野郎2人はちいっとヤバ気だが、寝込み襲えばなんて事ぁねえやな」

「よっしゃ、じゃあよ、オマエはカシラに知らせてこい。

オマエは村長連れて来いや。村長立てて空き家案内させりゃ、奴らも安心するだろうからな」



 少しして、村長が連れて来られた。

 諦めの表情から、既に脅しを掛けられているのがわかる。

 

「いいな、お前らにゃ面倒は掛けねえ。ただ、奴らを空き家に案内してくれりゃいい」


 男2人に迫られ、村長には否応もない。

 そのまま、3人の元に連れられて行った。


「おう、待たせたな、村長を連れてきたぜ。

 村長、困ってる旅の人だ。空き家ならひと晩くらい貸してやってもいいんじゃねえか」


 男たちのイヤな笑いに詰められるように、村長がオドオドしながら、小さな空き家に案内する。


 家は、少し広めの部屋に炊事場だけしかないが、

3人が寝泊まりするには十分だ。


「いやぁ、助かったよ。ジイちゃんもよかったね。久し振りの屋根付きの寝床だ。

 村長さん、ありがとね、これお礼だよ」


 エヴァが村長に、一泊の素泊まりにしては破格のカネを押し付ける。


「……いや…こんなにいただくわけには……」


「ああ、気にしないで。アタシらの感謝の気持ちさ。

ウチのダンナも不寝番しないで済むし、ジイちゃんの

ダダこねともコレでオサラバと思えば安いくらいさ」


 ハッハッハと高笑いするエヴァに、なにぃっと睨む

ゼクスを、シドが軽く突っつく。

 凶暴な気配は消えていないが、一応は仲の良い家族に見える3人。

 男たちは邪気に満ちた目で、村長は目を伏せたまま、空き家を後にした。




**********************




 ーーーー真夜中ーーーー


 

 いつもは、月明かりと、遠くで鳴くフクロウの声しかない夜。

 今夜は、足を忍ばせ、獲物に近づく4人の男たちの

気配があった。


 目標は旅の3人が泊まっている空き家。

 

 入り口に静かに張り付き、中を伺う。


 灯りは消えている。

 中の様子はよく見えない。

 だが、男のイビキが聞こえる。

 寝ているようだ。


 1人が戸に手を掛け、音を立てないよう注意深く開け、3人に入るよう促す。

 

 薄暗がりの中、人型に膨らんだ毛布が3組見えた。

 大きな塊2つと小さな塊が1つ。


 1つからあのダダこねジジイが顔を出し、イビキをかいている。


 男たちがニヤリと笑い、短剣に手を掛けた。


 3人がお互いに目で合図し、一斉に毛布に襲いかかった。


   ズサッ!

   ズサッ!

   ガシッ!


 2つの毛布には短剣が深々と突き刺さった…が…、

ダダこねジジイの毛布だけは違った。

 

 短剣を握る腕が、大きな手に阻まれている。


「…なんじゃい、なんじゃい…、こんな時分に…、

安眠妨害じゃろが。わしはのぉ、睡眠のジャマされるのが一等嫌いなんじゃ」


 ゼクスがムクッと立ち上がり、いつもの獰猛な笑みを浮かべながら、ギリギリと男の手首を絞り上げる。

 ミシミシと骨が軋み、短剣が落ちた。

 掴まれた手が血の気を失い、みるみる紫に変色していく。


「あ…ぐぐぐ…、…痛…え…、は…、離…せ…」


 男がもがくが、ゼクスは力を緩めない。


「こ、このジジイ!」


 1人が短剣を手にゼクスに迫った。


 襲いかかる男をギラリと睨み、瞬時に左腕が一閃した。

 ブンッ!と音を立て円を描いて放たれた左拳が男の左頬に食い込む。

 男は顔の左側が歪み、血と歯を何本か撒き散らしながらそのまま吹っ飛び、壁に叩きつけられた。


「アホタレが。安眠ばかりか、わしのお仕置きまでジャマするつもりか」


 ゼクスが壁の男を一瞥し、再び捕らえている男を睨みつけた

「…い…、痛え…は、離して…」

「ほう、痛かろうのぉ、離して欲しいんか、ああ、わかった、わかった」

 そう言うと、一気に手首を捻りあげた。

「ふんっ!」

 鈍い音が鳴り、手首があらん方向に向く。


「あがががががが!!」

 痛みに悶える男を、ポイッと放り捨てるように、立ちすくんでいる男たちに放る。


「…あ…ああ…あ…」


 圧倒的な暴虐に、残る2人は身動きができない。


「全ッ然寝たりんわい。年寄りにとって睡眠が日々の

健康にどれだけ大事なモンか、わかっておらんようじゃのぉ。

 コレでわしが健康を損なったら、オドレらどう

責任とるつもりじゃ!」


 首をコキコキさせながら、獰猛な笑みを更に深め、ゼクスが男たちを一喝した。


「…ひ、ひい!」


 凶暴な気配に弾かれるように、男たちが戸口に走った。


 月明かりが差し込む戸口を出た時、不意に月明かりが消えた。

 自分たちを影が包む。

 前を恐る恐る見上げた。

 月明かりを遮り、熊のような大きな体躯が、自分たちに両腕を振り下ろすのを認めた。





**********************




 

 野盗たちが、火を囲み、降って湧いたような今夜の

獲物を肴に酒を酌み交わしていた。


「久し振りにラクな仕事だ、ツイてるぜ」

「ああ、野郎2人と女1人、カネはたんまり。

 いい仕事だな」

「馬車やるのは儲けはイイが、荷をカネに換えんのが

面倒だからな」


 この辺りを荒らし回ったため、運送業者が警戒して、陸路を変えたり、護衛を増やしたりしており、

ここのところ、連中はロクに仕事ができていなかった。

 そんな時に旅人がノコノコ現れ、無警戒に自分たちの根城に泊まっている。

 コレはツイてる、今夜の獲物は手間も掛からない。

 連中の考えは皆同じだった。



 しかし、かなり時間が経ったのに、なかなか吉報が

届かない。


 野盗の頭目が気になったのか、少し苛立ち気に酒を

呷った。

「おう、なんか遅いんじゃねえか?アイツら…」

「…はあ、もう戻っていい頃合いですが…」



 野盗が少しざわつき始めたその時、


「ああ、いたよ。コッチだ、あそこにいる」

「ほう、ちゃんと案内してくれたか、感心感心」


 闇から女と男の声がした。


 野盗が一斉に立ち上がり、手に武器を取る。


「だ…誰だ!」


 焚き火が、予想外の侵入者を照らす。


 まず旅人を襲いに行った4人が姿を現した。

 1人は手首を押さえ、3人は血で顔を汚し、全員が腰に縄を繋がれている。

 その後ろから、3つの影が炎に照らされ実像を作った。

 綱を手にしたゼクス、シド、エヴァだった。


「な、なんだテメエら!」


 怒号を上げる野盗。

 その男をシドがギロリとひと睨みする。

 圧倒的な威圧感が男を襲った。


「…ひ…!」


「ほれ、もういいぞ、オマエら、ご苦労じゃったな」

 ゼクスとシドが、掴んでいた縄を離す。

 掴まっていた男たちは、這々の体で仲間のところに逃げた。


「あ、アイツら、ヤベェよ、強すぎる!」

「……ああ!とんでもねぇ…バケモンだ!」


 口々に泣き言を言う4人。


 その様子に野盗の頭目が苛立つ。

 わなわなと震え、手にしていた薪を真っ二つに

割り、4人に投げつけた。


「やかましい!黙れテメエら!!情けねえ、こんな連中にシメられやがって!」


 頭目が立ち上がる。

 ゼクス、シドと比べても見劣りしない体格から醸し出される凶暴な気配。

 傍らの大剣に手を掛け、ズシャ、ズシャ、と3人に近づいていく。


「ほう、お前さんが頭目か」

 ゼクスがフフンと鼻で笑い、シドに視線を投げた。

「では、こちらもカシラにお出張り願いましょうか」


 シドがゼクスを見返す。

 表情を変えないまま…だが…、僅かになんとなく

 "……え…?、オレ……?”という感じも漂う。


「あ、珍しい、ダンナがちょっと焦った」


 エヴァも少し驚いている。


 シドの前に、ずいっと野盗の頭目が進み出た。


「随分と好き勝手やってくれたな」


「………………」


「この稼業、舐められちゃ終わりなんだよ!」


「………………」


「ああ?!何とか言ったらどうなんだ!コラ!」


「………………」


 頭目がしきりに煽りを入れてくる。


 しかし、シドには全く反応がない。


 怒気を軽く受け流されていると感じ、苛立つ頭目。

 頭に青筋を立て、その苛立ちが頂点に達した。


「この野郎!舐めんな!!」


 凄まじい殺気とともに大剣を振り被る頭目。

 ザッ!

 瞬時にシドが腰を落とし、足を踏ん張る。

 めり込んだ右足で地面を蹴り、ガラ空きの頭目の腹

めがけて右の拳を叩き込んだ。


 ドゴォッ


 鈍い音とともに、腹部にめり込んだ拳。


「…グ…ゴゴゴ……」


 頭目が大剣を落とした。

 ガランという金属音とともに、腹を抑え崩れ落ち、

その場で悶絶する。


「か、カシラァ〜!」


 蹲るカシラの周りに集まり、皆が代わる代わる3人を伺っている。

 コイツら、ヤバすぎる…。

 俺たちをどうするつもりなんだ…?

 不安と焦り満載の、顔、顔、顔…


「あ〜あ、もう、そんな顔しなさんなって。

 別にアンタらどうこうしようってんじゃないんだよ」


 エヴァが妖しげな笑みを浮かべ、野盗たちの前に立ち、1枚の紙を差し出した。


「こ、こ、これは…?」


 野盗の視線が紙と3人を交差する。


 エヴァの笑みが一層深くなる。

 囁きが、野盗の耳に甘く響いた。



「ご覧の通り、カーチスの手配書…だよ。

 アタシら、凶状持ちさ」

 

 

 





 



 


 



 

 

 

お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回タイトル予告「誘惑」

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