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53.野盗狩り⑧〜手配書

 本日5話目

「コラ、青二才!お前、何をしてくれとんじゃ!

 お嬢もお嬢じゃ、こんなモンばら撒かれたら

わしゃ、逆に狩られる側になってしまうわい!」


「まぁまぁ、騎士団長落ち着いて下さい、クククッ」

「あはははははははははははははは」


 アルベルトが詰め寄るゼクスを押し止め、その背に

庇われたエリシアが大笑いしている。


「だいたい、誰がこんな人相書きを書きよった!

 まさか、騎士団ウチの絵師じゃなかろうな!」

「いやぁ、騎士団おたくの絵師ですが」

「……あ奴らめ……」


 アルベルトの後ろから、ひょこっとエリシアが顔を

出して、ゼクスをなだめる。


「ハッハッハ、そう言ってやるな、ゼクス。

 私が頼んだんだ。彼等もリンと遊ぶゼクスを見て

『コレは絶対に残しましょう!』と言ってくれてな。

 大丈夫だ、ばら撒いたりせん。今のところ、2枚しか作っていない」


「…ん…?、…2枚…?」


「ああ、そうだ。1枚がコレ、もう1枚はフリッツ王子が持っている。さすがに王子にサインを求む書面だ。王子にも見本を差し上げねばと思ってな」


 作られた枚数が思ったより遥かに少なかったのか、

ゼクスが落ち着きを取り戻してきた。

 まじまじと手配書を見つめる。


「しかしのう、なんでわしだけ、こんな締まらん顔に

しおったんじゃ、騎士団ウチの絵師どもは。

 見てみぃ、コッチのふたりを。

 なんかチョットイイ感じに仕上がっとろうが」

 

 手配書の人相書きを指さしながら、苦言じみた世迷い言を言うゼクス。


 指の先にあるのは、シドとエヴァの人相書きだった。


「何ですか、そのチョットイイ感じっていうのは」

「ほれ、青二才!よう見てみぃ!」


 ゼクスがアルベルトの目の前に手配書をかざす。


「シドの奴は、あの強面が更に割り増しにされて、なんか言いようのない凄味を感じよる。

 エヴァの奴も、人を食ったような太々しさに、底意地悪そうな雰囲気が上塗りされて、ちょっと近寄りがたいキケンな女って感じじゃ。

 それに比べてわしゃぁ、腑抜けたどっかのご隠居さんにしか見えんじゃろ!」


騎士団おたくの絵師さん、シドとエヴァも気合入れて書いてましたからねぇ。

 なんせ、大国カーチスの、今をときめく英雄たる

第4王子のサイン・公印入り手配書になるんですから、彼らも張りきりますよ。

 まあ、これくらい作り込めば、野盗どもも疑いはしないでしょう」


「…確かに小道具としては破格の品じゃが…。

 …まぁいいわい。実質1枚きりじゃ。コレが済んだら、わしがこの手で処分するからの。わかったか!」


「おい、アルベルト。いいのか?勝手にフリッツ殿下の公印が押してある書面を処分して?

 一応、許可はいただいた方がよくないか?」


 エリシアが少し心配気にアルベルトに問う。


「ああ、別にいいと思いますよ。

 押してある公印は、確かに公印ではありますが

実はアレ、カーチス王族が重要文書の廃棄を指示する時に押す、廃棄承認判なんです」


「はぁ?廃棄…承認判…?」


「ええ、彼の国では重要文書を廃棄する時に、王族の

サインとあの公印を押すんです。

 誰が廃棄を承認したか明確にするためにね。

 つまり、コレはフリッツ殿下がサインし、承認した、正式な廃棄文書、つまりゴミなんですよ」


 エリシアとゼクスが手配書とアルベルトの顔を交互に見て、呆れた表情を浮かべる。


「……お前…、何でそんな事知ってるんだ?」

「…相変わらず底が知れんのう、コヤツは…」


「カーチスでは、支配層が自分の意向で公式文書を発布する時にはサインを、下からあがってきた文書を承認する時には公印を使うんです。

 仕事柄、彼の国の公式文書を目にする機会も多くて、見ているうちに違いがわかりました。

 廃棄承認判は中級官吏だった頃に1度見た事があります。

 条約締結の最終調整で、カーチスの王族の方がある事項に難色を示され、特使が儀礼のつもりだったのか、廃棄承認判を押された条約案を手に、説明に来たことがありました。

 なるほど、カーチスではそういう処理方法があるのか、と覚えましたね。

 今回は公印だけじゃなく、王子のサインも求めたでしょう。

 普通はどちらかでいいのですが、そこを敢えてサインと公印が欲しいと伝えた事で、フリッツ殿下は察して下さった訳です。

 ああ、コレは廃棄承認印を使えということだな、と。

 公式な廃棄文書ですから効力は全くない。

 故に、仮に流出しても王子が傷つく事はありません。

 であれば、押す方も気が楽でしょ」


 王子のサインを求めた理由を、しれっとタネ明かしするアルベルトだった。





**********************






 【アルベルト視点】


  ーーーーシドの酒場ーーーーー



「あははははははははははははははは!!」

「………………………………」



 今回の作戦への協力依頼と内容を説明するために、

シドとエヴァの酒場を訪れたが………


 手配書を見せたらエヴァが大ウケしている。

 

 心なしか、シドも目尻に僅かなシワ?が出てるような、そうでないような……。


 やっぱり出来がイイから反響があるな。

 ゼクスに処分されるのが惜しくなってしまう。



「ねぇねぇ、補佐さん、この手配書、事が済んだらさ、

私らにくんない?ねぇいいでしょ」


「…………………」


「ホラ、ダンナも欲しいって言ってるしさぁ、

ねぇ頼むよ。コレ店に貼ったらサイコーにウケると思うんだ」


 ……エヴァ、あんたのダンナ、ひと言も喋ってないぞ…


 まぁ、それはいつもの事だからいいとして。

 うん、確かにこの店に貼るっていうのはいいアイデアだ。ウケるのは間違いなしだし、何より洒落ている。


「それなら騎士団長がジャマだろ。

 ふたりだけの手配書に作り直してもらおうか?

 それなら騎士団長も文句ないはずだ」


「え〜!ホント?!うれしい〜!ぜひとも頼むよ。

 ふたり並んだ肖像画なんて、どこぞのお貴族様みたいじゃないか!」


「………………!!」


 シドがいきなり私の手を取り、強引に握手…らしき事をしてきた。

 おいおい、そんなに人の手を力任せに振り回すんじゃない。肩が外れるだろ。


「でもいいのか?確かに出来がいいのは認めるが、

ふたりとも相当盛られて描かれてるだろ。

 絵師もかなり悪ノリしてたからな」


 エヴァがブンブンかぶりを振る。


「何言ってるんだい。そんな事ないよ。

 ダンナの凛々しさっていうか…、漢っぽさっていうか…、しっかり描ききってるよ。

 やっぱり描ける人には描けるモンなんだねぇ」

 

「………………………」


「……やだよ、もう、アンタは…。

 アタシなんかに、その絵に描かれてるようなデキる女の凄味なんてあるわけないじゃないか。

 …やだ…、なんか照れてきちゃった…」



 …毎度の事なんだが…、君たち不思議な夫婦だよね…



「それじゃ、今回の件に協力してくれるという事でいいのかな?

 数日は店を休んでもらう必要があるから、その分の

補償はさせてもらうが」


「そんなの気にしなくっていいって。

 マギーばあさんと孫たちが、母ちゃん待ってるんだろ。喜んでやらせてもらうよ、ねぇアンタ」


「………………」


 シドも、喋ってないけど頷いてはくれた。

 

「ありがとう、よろしく頼むよ。それじゃ」



 ここに来ると……

 夫婦の在り方は人それぞれ…というか…、

 夫婦ってコトバがなくても会話ができるというか…

 ……とにかくナゾが深まる……




**********************




  ーーーー運送業組合ーーーー



「そうか、そうか。あの子らの母親を連れ帰ってくれるんか。ありがたい、ぜひとも頼む」


 ベンが心底うれしそうな顔で、私に向かっている。

 いつ振りだろうか…、いつもはしかめっ面ばかりだからな。


「はい、向こうの代官も了解済みです。

 条件付きではありますけどね」


「……野盗狩り…か…。

 お前さんの事じゃから、その辺りの仕掛けは万全

なんじゃろう」


「…いいえ…、まだ万全ではありません。

 獲物を釣る針は用意しました。

 釣り場に誘い込む役も見つけました。

 あとは、エサを準備できれば完了です」


 ベンの顔つきが鋭くなった。

 老練な商売人のソレだ。


「…それか、ワシを訪ねてきた理由わけは」


 こういう顔の時のベンに駆け引きは要らない。

 素直に懐に飛び込むのが上策。

 

「はい。針は騎士団、誘導役はシドとエヴァ、

 小道具として、カーチス第4王子サイン・公印付き

手配書を用意しました。

 あとはエサを残すのみ。

 ついては、組合直轄の運送部隊を連中を釣るエサにしたいと考えています」


 ベンが腕組みをして目を閉じる。


 メリットとデメリットの対比、リスクの測定、

この小柄な老人は、頭の中でそれらの計算を超高速で

行なっているのだろう。




 静寂が重い…… 


 だが……、ここは沈黙は金…

 こちらからは…動かないのが吉…





 ベンが…ようやく口を開いた。


「……仮にじゃ……」


「…はい……」

 重々しい声に、思わず身を乗り出してしまった。

 



「……仮にあの子らの母親……エマじゃったか……」


「……はい……」





「…そのエマが20歳の頃にアリスを産んだとすると……」


「……はい?……」





「…今はおそらく31〜32……ってトコか……、

 う〜む…、まだおなごとしての年季は浅いのウッーー」

 ゴンッ!

 またゲンコツ落としてしまった。


 なんだ、このエロジジイ!

 理不尽な暴力受けたって目をするな!


「……全く…お前さんは冗談も通じんなぁ。

 わかっとるよ、もちろん商隊キャラバンは出してやるわい。

 どうせ積み荷もなんもない空車でいいんじゃろ。

 馭者も商隊員も騎士団がやるから人手も要らん。

 組合は荷馬車だけ提供すればいい。そうじゃろ」


 

 ……このエロジジイの怖いところはコレだ…

 ふざけたヨタで煙に巻きながら、事の核心は

 外さない……


「おっしゃる通りです。いかがでしょうか」

 

 ベンが、いつになく温和な顔で私を見て頷いた。


「拒否する道理があるまい。

 ワシら運送業者にとって、野盗なんて連中は

誰と組んででも駆除すべき害虫じゃ。

 おまけに今回は、アリスとケインの件も絡んでおる。もともと組合ウチが発端じゃしな」


「ありがとうございます。ご協力感謝します」




 私の感謝にベンは首を横に振り、頭を下げ、私の手を取った。


「ふん、感謝なんてするんじゃないわ。

 逆じゃ、逆。ワシこそお前さんに感謝せねばならん。このところ、お前さんの知恵に助けられっぱなしじゃ。

 なあ、アルベルト、ホントに世話をかけるが、あの子らの母親、無事に連れてきてやってくれ。頼んだぞ」


 ……なんとも憎めないヒトだ…


 ベンの手に、自分の手を重ねる。



「もちろんです。マギーにも、アリスにも、ケインにも、あなたにも、リンにも、絶対に後悔なんてさせませんよ」

 

 


 

 

お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回タイトル予告「出立前」

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