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52.野盗狩り⑦〜親書

 



  ーーーーフリッツの執務室ーーーー




「なに?、テーゼからの使者が来ている?」


 文官からもたらされた、突然の使者来訪の報に、フリッツが思わず聞き返した。


「ハッ、テーゼ領主様の親書を携え、早馬で先ほど。

 火急の用ゆえ、ぜひとも殿下に御目通り願いたいと…」


 フリッツはやや困惑気味に、テーブルを指で叩き、

思考を整理する。



  火急の用…?

  全く心当たりがない。

  テーゼで何があったのか…?

  …慶事…ではあるまい…。

  とはいえ、凶事であれば、エリシアはともかく

  アルベルトならば使者に任せず、然るべき人物

  を寄越すだろう。



 フリッツは、心配3・興味7といった心持ちで、柔和な笑顔を取り次ぎの文官に向けた。


「わかった、会うよ。テーゼには、先般来いろいろと

協力をいただいている。

 使者殿を丁重にお通ししてくれ」





**********************





 執務室の中ーー、なぜかフリッツの大笑いが響いていた。


「あ〜っはっはっはっはっは〜!

 …こ、これ…、はははは…こ、はっはっは!」


「…で…殿下…?」


 身悶えしながら笑い続けるフリッツに、従者が

訝しげに声を掛ける。


「…ひ、ひ…だって…、こ…れって…ハハハハハハ!」


 案内した文官と使者も顔を見合わせ、何が起きているのかさっぱりわからない。


「ハハハ…ハ…ハ…、お、お腹…お腹いたい…ハハハハハハ…く、苦し…苦し…い…クククク…」


 従者が使者に、詰問気味に尋ねた。


「…使者殿…、これは一体どういう事か?」


 問われた使者も、首を横に振るばかり。


「いや…、私にも皆目……」


 確かに、使者から渡された親書には、キチンと蝋封が為され、テーゼ領主のサインもあり、従者が検分しても何ら問題は見つからなかった。

 

 封筒から取り出されたのは3枚の書面。

 しかし、1枚目を一読し、更に2枚目に目をした瞬間、フリッツが突然大笑いを始め、一向に収まらず今の有り様となったのだ。


 何が書いてあったのか?

 さっぱり見当がつかない。

 

 一同が唖然としてフリッツを見つめる中、ようやく笑いが収まってきたらしく、目尻を拭いながらフリッツが皆に声を掛けた。


「いやぁ、まいった、まいった。みんなすまなかったね。

 使者殿、誠に失礼した。親書の内容があまりに意外な……ブフッ、ふはははは…、ダメだ…コレはダメだよ…お、お腹…いたい…、くぅ……」


 また悶絶し始めたフリッツが、笑い声を漏らしながら、机の引出しから印章と封筒と蝋封を取り出し、親書の3枚目と、自分の傍らの別の紙に、なにやらペンを走らせ、印章を押した。 

 次に、それらを封筒の中に入れ、丁寧に封じる。


「クククク…、重ね重ね失礼した。使者殿。

 …これをエリシア殿に…ぷふ、お渡し願いたい…ぐふ…」


 封書を従者に差し出し、唖然としている使者に封書を手渡すよう促して、未だ笑いが止まらないままフリッツがボソッと呟いた。



「…ふふふ…またあのヒトの悪企み…かな…」


 



**********************





  ーーーーエリシア執務室ーーーー





「ご苦労様、ありがとう、助かったよ」


 エリシアが、戻って来た使者を労い、フリッツからの封書を受け取る。


 アルベルトは想定通りという顔で、平然とした態度。

 その逆に、ゼクスは興味津々の表情で、エリシアの手の封書を覗き込んでいる。


「これで『小道具』が手に入ったというわけですかな?」


「そうだ」とエリシアが答え、ワクワクしながら丁寧に封書を開封し、フリッツからの親書と『小道具』に目を通す。


「ふふっ、さすがフリッツ殿下。よくおわかりになっていらっしゃる」


 ニコニコ顔で書面を眺めるエリシアに焦れたか、ゼクスが居ても立ってもいられず詰め寄ってきた。


「お嬢、わしはこの青二才から詳細を教えてもらっておらんのですぞ。

 さすがに、なんかの書類にフリッツ殿下のサインと公印を賜る、というのは理解しとりますが一体どんな書類だったんですか」


「ふふん、所詮は他人事…なのだろう、違うか?

ゼクス」


 エリシアの冷やかしにゼクスが頭を掻いて詫びを入れた。


「いやぁ、それゃ殺生っちゅうモンですわい。

 堪忍してくだされや」


 エリシアがアルベルトをチラ見する。

 アルベルトが無言で軽く頷いたのを確認し、エリシアがイジワルな笑みを浮かべながら、フリッツからの書面の1枚をひらひらとゼクスの前に示した。


 それを凝視するゼクス。


 そしてーーーー



「…むむ…、…な…、なんじゃあ!こりゃあああ!!」





**********************

 




ーーーーフリッツ執務室ーーーー



「殿下、過日のテーゼからの親書ですが…、恐れながら、さすがに親書といえど、あれほど殿下が…その……お笑いになられるとは…、一体どのような内容だったのか、正直気になって仕方がございません。

 親書の内容を知りたいなどと、不敬である事は

重々承知しておりますが、せめてその一端のみでも、

お教えいただけませんでしょうか」

 

 従者は、数日前のテーゼの親書が引き起こした、

フリッツ殿下ゲラ事件を未だ消化しきれていないようで、どうにも収まりが悪かった。 


 他の君主からの親書の内容など、本来なら決して

知ろうとしてはならない。

 当然、その事は承知している。

 しかし、あれほど王子を笑かした内容ならば、

他国との重要機密などではなく、もっとお気軽な

モノだろう。

 であれば、さわりだけでも教えてもらえないもの

だろうか…

 

 そう思い、今日、意を決してフリッツに懇請したのだった。


 フリッツは、最初こそ意外だという顔で従者を見つめたが、頭を深々と下げる姿に、クスッと笑いを漏らし、

「ハハハ、やっぱり気になるよね。そうだろうとも。

 うん、いいよ、教えてあげるよ」

と快諾した。


「あ、ありがとうございます、殿下」

 フリッツの寛容な言に感謝する従者。


 引き出しをガサゴソ探りながら、フリッツが従者に

問い掛ける。


「ホラ、テーゼで君も会った、あの騎士団長、覚えてる?」


「も、もちろんです。あの席で騎士団長殿が放った殺気は尋常ならざるもの。私も思わず手を剣に掛けてしまうほどで。

 その後の誘拐団捕縛の際に見せた、それ以上の殺気と圧倒的なお力は、まさに鬼気迫るというべき、恐ろしいものでした。

 いやぁ、さすが"武神”との誉れ高き御仁であると、

感服致しました次第です」


 従者の回想をうんうんと笑顔で受け止めながら、

フリッツが1枚の書面を机の上に広げ、無言で見るように促した。


 従者は恐縮しながら、書面に目をやる。

「……失礼いたしま……ぶふっ…!」


 思わず吹き出す従者を確認し、書面に視線を落として、またフリッツが大笑いを始めた。


「あ〜っはっはっは!や、やっぱりそうなるよね、はっはっはっはっ!」


 従者も口を押さえ、ぷるぷる震えながら、懸命に笑いをこらえようとする、が、うまくいかない。

「ぷっぷぷ…、こ、コレは然り…、んぐぅ…、

クックックッ…、いや…失礼なが…ブフッ…」



 笑い合うふたりの前にあるのはーーー



 3人の男女の人相書き入り手配書ーーー




 そしてそのうちのひとりはーーー





 リンと戯れ、デレッデレに顔を溶かしている時の表情を、実に細やかに描写された"武神"だった。




   〜エリシアからの親書 要旨〜

 〃この度、とある事情でシュルツ国内を

  荒らしている野盗一味を秘密裏に討伐

  する事になりました。

  つきましては、フリッツ殿下のお力添えを

  いただきたく、本書簡をお届けするもので

  あります。

  同封致しました手配書は、野盗一味を欺く

  小道具として使用する所存です。

  人相書きの3人は、現在殿下が遂行なさって

  いる犯罪者狩りから逃れた悪党、という設定 

  に致します。

  彼らが殿下直々の手配書を携えれば、一味の  

  警戒心も薄れ、接触や籠絡が容易になりま

  しょう。 

  手配書の印は、それなりに公印らしく見栄え 

  がするものであればどのような印でも

  構いません。

  必要なのは1枚だけ。

  他目的に流用する事はございません。

  同封致しましたもう1枚は見本として、

  殿下のお手元にお取り置き下さい。

  かくも不躾な嘆願ではございますが、何卒

  寛大なご采配をいただけますよう、伏して

  お願い申し上げます。


  親愛なるフリッツ殿下へ


       貴方様の後輩 エリシアより〃



   〜フリッツからの親書 要旨〜

 〃また君たちは面白い事を始めようとしている

  ようだね。

  希望通り、私のサインと公印入りの手配書を

  お返しするので受け取ってもらいたい。

  しかし、”武神”殿の人相書きは傑作だった。  

  久し振りに大笑いさせてもらったよ。

  こちらにいただいた控えは、大事にしまって

  おこう。

  たまにそれを眺めれば、いい気分転換になる 

  と思う。

  今回の策を考えたのは、やはりアルベルト殿

  だろうか。

  得難い人材だ。大切にしてくれ。

  全てが終わったら、ぜひとも事の一部始終を

  聞かせて欲しい。

  楽しみにしている。



  親愛なる後輩殿へ


   フリッツ・ベルナール・フォン・カーチス

 



 

 

 

 

 


 





 


お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回タイトル予告「手配書」

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