63.野盗狩り⑱〜家族の再会・花屋の再開
翌日、マギーたち4人が領主邸を訪れた。
エリシアたちに今回の一件の礼をするためだ。
「よく来てくれた。会えてうれしいぞ、エマ」
応接室に通された4人のもとにエリシア・アルベルトが現れ、エマと握手を交わす。
「この度は私如きのために、皆々様には大変なご迷惑をお掛けしまして誠にーーーー」
アルベルトがエマの詫びを制すように片手を上げ、着座を勧めた。
恐縮しながら座る4人にアルベルトが続ける。
「テーゼは今回の件には関与しておりません。
故にお心遣いは必要ありません」
エリシアが無言で頷いているが、当のエマは困惑気味だ。
「でも…、手配書の3人と運送業組合の方々は…」
「手配書はカーチスの廃棄文書、ただのゴミですし、
運送業組合はヒトも荷も出してもいない。
シュルツでは、エマさんとアリス、ケインは流行り病で死亡した事になっているはずです。
つまり今回の件で登場した全てが、存在しない
"お化け"なんです」
エマにはアルベルトの言葉がうまく消化しきれていないようだった。
だが、マギーはエリシアとアルベルトの真意を理解した様子で、小さく震えながら手を合わせている。
その震えは感謝の気持ちの発露と、ふたりも受け止めた。
エリシアと視線を合わせ、アルベルトが重要な話を切り出した。
「皆さんのこれからの事ですが、ここにいるのは、マギーと一緒にテーゼでずっと花屋を営んできた母子エマとアリスとケイン。
そういう事にしていただけませんでしょうか。
亡くなったご主人には申しわけありませんが、今後はそういう形でテーゼで生活していただきたいのです。
ご家族にとっては酷なお願いでしょうが、いかがですか」
エマの顔に驚愕と逡巡の入り混じった感情が現れ、アリスもハッと家族を見渡し、ともにアルベルトの言葉を自分なりに整理しようとしているようだった。
確かに、夫との思い出の地を捨て、もとからテーゼ市民だった事にするというのは、家族にとって割り切れない想いがあるだろう。
ややの沈黙があり、マギーがその手をそっとエマの手に乗せた。
エマは、母とアリスとケインを少しの間見つめ、それからアルベルトに向き直った。
「わかりました。正直、あたしはシュルツに未練はありません。夫は村の集団墓地に眠っていますが、夫との思い出はここにありますから」
エマが自分の胸に手をやり、自分に言い聞かせるようにしっかりとした口調で答えた。
エマの気持ちは固まった。
しかし、子供たちはどうだろうか。
幼くして亡くした父の面影を大切にしたいがこそ、母の想いとは別の感情が残るのではないか。
エマがまた子供たちを見やる。
「あんたたち、よく考えてね。どう思う?」
アリスはまだ下を向いて自分なりに熟考してるのが見て取れた。ケインはあまり理解はできていないかもしれないが、重要な事だというのはわかっているようだった。
子供なりにいろいろ考えているのだろう。
しばらくの間、ふたりは下を向いていた。
アルベルトは思うーーーー
子供なりに、生まれ育った故郷を捨てるという決断には、やはり気持ちの整理の時間は必要か。
しかし必ずしもそういう事ではなかった。
「……あたし、村に戻りたくない…」
アリスがその重い口を開いた。
「……アリス…?」
「母ちゃん、いつも大変そうだった。一生懸命働いて、自分はガマンしてあたしたちにご飯食べさせて、いつも疲れた顔してた」
「……アリス……」
「母ちゃん、あたしここで暮らしたい。
昨日、みんなでいっぱい笑ってたでしょ。
村じゃそんな事なかったよ。
ばあちゃんもいるし、組合のおじいちゃんとか、街の人みんな優しかった。村と違ってお仕事いろいろあるみたいだから、あたしも働くよ。
だからみんなでここで暮らそう」
エマがアリスの手を取り、目を潤ませる。
「……ありがとう、アリス…。
ケイン……、あんたはどう?」
「ぼくもここがいい。母ちゃんも、ばあちゃんも、姉ちゃんもいるし。ここに来て楽しいこといっぱいあった。母ちゃんもいるし、みんなとここで暮らす。そうじゃなきゃヤダ」
慣れ親しんだ故郷は関係なかった。
子供たちには、家族が揃って笑顔で暮らせる場所こそが何よりも大切だったようだ。
「…そうかい…、そうかい…。
領主様、補佐さん、アリスもケインもこう言ってくれてます。
あたしたち親子は、母と一緒にテーゼの人間として暮らしていきたいと思います」
そう言って頭を下げる4人に、エリシアもホッとひと息し、アルベルトの肩をひとつ叩いた。
しばらくの歓談を経て、4人が応接室を出た時、リンが姿を見せた。
「あなたがリンちゃん?あたしがエマよ。
母さんやアリスたちから話を聞いてるわ。
いろいろとありがとうございました」
「リンちゃん、私からもお礼言わせて。
これから娘と孫たちの4人で暮らしていけるの。
これもあなたや領主様や補佐さんのおかげよ。
ありがとうね」
「おばあちゃん、よかったね。やっぱり…、やっぱり…みんな一緒が一番いいよね…」
「そう、みんな一緒が一番よ」
「……おばあちゃん…」
「……リンちゃん……」
リンとマギーがひしっと抱き合って、声を殺して泣き出し、それにつられるようにエマと子供たちも泣き始め、エリシアとアルベルトは暫しその場でにこやかに立ち往生していた。
数日後、マギーの花屋には、色とりどりの花々と、家族の笑顔があふれていた。
そして、エリシアの執務室とゼクスの騎士団長室にも、また花が飾られるようになった。
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第三章はこれで終了です。
次回からは第四章に入ります。
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次回タイトル予告「メリッサとガル」




