50.野盗狩り⑤〜代官来訪
本日2話目です
シュルツの代官来訪。
応接室に、代官を迎えるエリシア、アルベルト、ゼクスがいた。
「お初に御目にかかる。シュルツ国カルバンシュタイン子爵領ヤムル地方代官を務めるドースと申す」
「ようこそいらっしゃいました、ドース殿。領主兼執政官のエリシアです。お疲れになられたでしょう、どうぞお掛け下さい」
表面上の挨拶と歓待の言葉。
ただ、ドースの言葉の端々に、自分の立場を強く見せようとする嫌いがあるような印象があった。
ふむ…、コレは“ダイコン“の方か…?
アルベルトがドースの値踏みを始める。
いくつか実のない話が交わされ、本題に入った。
「先触れの手紙にてお伝えした通り、私の統括するある村から、子供2人が『国棄て』を犯し、貴都市に入り込んだ疑いがある。
その捜索のため、貴都市の許可ならびに協力を頂きたい」
エリシアが慇懃に応じる。
「もちろん、許可は致しますし、協力もやぶさかではありません。
ただ、ドース殿はどのような確証のもと、その子供たちが我がテーゼに逃げ込んだとおっしゃるのでしょうか。そこをお教え願いたい」
「貴都市に明かす必要はない!機密事項だ!」
ドースが顔を真っ赤にして声を荒げた。
やはり”ダイコン”か…
ダメな方だな…
アルベルトがエリシアをチラ見する。
エリシアもそう思っている様子だった。
ドースの怒気を平然と流し、茶を啜りながら、エリシアが続ける。
「いや、困りましたな。『疑いがある』程度のお話で、我が都市の市民を調査すると。
ドース殿がどのように調査するおつもりか、市民の生活にどのような支障が生じるか、私としましては懸念せざるを得ません。
市中を回り、市民に尋ね歩く程度であればいいが、家屋内の捜索や、拘束しての尋問などは、とても容認できません」
「…な…!な……!」
「そのような無制限且つ強引な捜索は、明確に拒否させていただきます。ご理解願います」
ドースが立ち上がり、罵声をあげた。
「こ、この程度の小都市の領主風情が、何を偉そうに!私は大国シュルツのーーー」
「ーーーカルバンシュタイン子爵の配下の、ヤムル地方代官…殿でしたね」
被せるようなエリシアの言葉に、ドースがエリシアを睨む。
が、エリシアは一向に動じる素振りを見せず、
ティーカップを静かに置き、平然とした視線で弾き返した。
「我がテーゼは小なりといえど、貴国をはじめとする各国から独立主権を認められております。
つまりあなたの言う“この程度の小都市の領主風情“は、貴国の国王陛下から、当都市の君主とお認めいただいているのです。
いつでも話を聞いていただける程度には…ね…」
この宣言に、ドースは顔色を失った。
15〜6の小娘…
未熟な経験不足のお飾り領主…、
恫喝のひとつもすれば、すぐに怖気づくだろう
そう高を括り、侮っていたが…
……違う…
…見誤った…
……単なるお飾りでは…ない…
…かと言って…
…虎の威を借る狐でも…ない…
……これは…君主の眼…
…君主たる自負と自信…
…陛下とのご関係を…
当然のものとできるほどの…
「……い、いや……」
エリシアが更に畳み掛ける。
「……それで、貴方は…、国王陛下の臣下、のカルバンシュタイン子爵殿の…そのまた配下、のヤムル地方代官…殿…でしたか。
ふむ、ヤムル地方…、さぞ隆盛を誇る地なのでしょうな」
わざと、臣下、配下、を強調し、立場の違いを明示する。
「……いえ…、そん…な…」
狼狽気味のドースに向けたエリシアの視線が
突如厳しく変わった。
冷淡さを含む静かな言葉が、ドースの目と耳に
深々と突き刺さる。
「…独立都市テーゼの領主を、罵倒できるほどの…」
カタカタと震え、泣きそうなドース。
ちっぽけな権力を鏡にして自分を大きく見せようとする、典型的な小役人では…ヒロインの圧勝でエンディングだ。
アルベルトもゼクスも、予想通り過ぎて拍子抜けした、というような表情で、お互い目配せをした。
「し、失礼致しました!領主閣下!
ご無礼の段、平にご容赦下さいますよう!」
平身低頭で赦しを乞うドースに、エリシアが片手を上げ、柔らかく応じる。
「いや、こちらこそ言い過ぎたかもしれない。
実は私も、あのような物言いは好きではないのですよ。貴国と違い、テーゼには身分制度がなく、そうした意味では私も平民ですから。
お互い様…、という事で矛を収めましょう」
「あ、ありがとうございます〜!」
頭を下げ続けるドースに、エリシアが慈しむような笑みを浮かべている。
こういう時のエリシアは至極腹黒い、とアルベルトとゼクスが苦笑する。
「それで、お話の続きですが、ドース殿がテーゼへの逃亡を疑った理由を改めてお教えいただけないでしょうか」
「は、はい、お答え致します。
まず1つ、『国棄て』を疑われている子供の母親は貴都市出身でして。まだ祖母が貴都市で生活していると聞いております。
子供2人が目指すとしたら、やはり血縁しかないと考えた次第です」
うん?、正鵠を射ている。
エリシア、アルベルト、ゼクス、3人全員がドースの的中に意外感を持つ。
「もう1つは、ちょうど子供の行方がわからなくなった頃、貴都市の運送業組合が、村の近隣を往来していたとの情報がございまして。
もしかしたら、この商隊に拾われたか、紛れ込んだ可能性があると。
…ただ、実はコレは公の取引ではなく、表に出すのは少々憚る類いのよう…でして…」
驚いた。これも正解だ。
器の小さい小役人だが、この辺の嗅覚はそれなりに優れているようだ。
「表に出すのは少々憚る類いの取引……、つまり…、
貴国も、運送業組合も…という事ですね」
「…はい、その通りです。
この2つの理由で、貴都市での調査を希望するものであります」
エリシアが一応納得したように頷き、ドースに
向き直る。
「ドース殿の根拠は理解しました。
それでは調査対象を、子供たちの祖母とする事を承認しましょう。
但し、本人ならびに他の市民への手荒なマネは
厳に慎んでいただきます。
運送業組合は…、これは除外した方が貴国の方でも都合が良いのでは…と思いますが」
「はい、承知致しました。
調査対象は祖母のみ。他の市民には関わらず、運送業組合も除外する、という事で」
エリシアがニッコリと笑い、ドースもようやくひと息ついたように追従した。
「話がまとまったところで、ひとつお尋ねしたい。
これは単純に疑問なのですが、なぜ子供2人の行方をそこまで熱心にお調べになるのですか?
いや、貴国の国策は理解してはおりますが、代官殿
御自らというのは些か過剰ではと感じまして」
このツッコミに、またドースは顔色を青くした。
冷や汗を拭いながら、キョロキョロと視線を泳がせ、エリシアの慈しむような笑みを浴び、逆に顔を赤らめ、とにかく反応が忙しい。
「……お恥ずかしい限りですが、領主閣下にはお話致しましょう。どうかご内密に願います。
母親は、子供は流行り病で死んだ、死体は焼いて棄てた、と申しておりますが、私には俄に信用できませんでした。
肉親の情として、流行り病だとしても、我が子の亡骸を即焼き捨てる事が果たしてできるものか。そう考えた次第です」
「…母親に疑いを持ったと…。
それで…、その母親を牢に入れたり…、白状するよう責めた…とか…?」
エリシアの視線が剣呑さを含む。
「め、滅相もございません。疑いあり、というだけで母親を捕らえるなど出来ようもなく…。
ただ、疑念は疑念として晴らすべきと……。
………いや、正直にお話致しましょう……。
実はこの子供の捜索はさほど重要ではなく…、それよりも頭を悩ましている問題がありまして…。
これ以上の失点は私の進退にも関わるため、情けない話ですが、なんとかしようと足掻いておるのです」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに語るドースは、もうすっかり毒気を抜かれている。
推理が不思議なほど的中しているところを見ると、実はさほど無能ではないのかもしれない。
あの最初の偉そうな態度も、抑圧された防衛本能が為した心のヨロイ…、そう考えれば許せる範疇ともいえる。
「何なのですか、その別の問題とは?」
エリシアの問いに、ドースがため息を吐き、観念したように吐露した。
「……野盗です。野盗が私の管轄地を荒らし回っておりまして…。ただ、予算も人手もないなかでは、手の打ちようもなく……」
なるほど、そういう事か。
野盗被害でクビが回らず、追い詰められているところに『国棄て』疑惑が追い討ち。
弱り目に祟り目といったところか。
ふむ、これは最上の筋書き。
一挙両得といける好機だ。
アルベルトが恭しくエリシアに一礼し、ふたりに進言する。
「領主様、代官殿、お話中誠に失礼致します。
その件につきまして、是非とも提案させていただきたい私案がございます」
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次回タイトル予告「懐柔」




