48.野盗狩り③〜母の決意
【アルベルト視点】
保護した姉弟。
姉がアリス、弟はケイン。
ベンの言う通り、ふたりはマギーの孫だった。
事の経緯を理解できぬままエヴァに連れられ、院長室に来たマギーは、孫と数年ぶりの邂逅を果たし、3人は涙に暮れていた。
今日のところはゆっくり休んでもらい、明日詳しい話を聞かせてもらおう。
協力してくれたエヴァと院長に礼を述べ、リンとともに帰路に着く。
帰り道、リンがポツリと言った。
「ホサ…、おばあちゃん、なんか変だった……。うれしくて泣いてた…ようにも見えたけど……、なんか…違う感じした…」
それはそうだろう。
孫ふたりだけ、満身創痍でここに辿り着いたなんて異常事態だ。
何があったのか、娘さんはどうしたのか、
おそらく気が気ではあるまい。
「アリスたちのお母さんが一緒じゃなかったからね。心配で仕方ないんだろう。お孫さんだけでここまで来るなんて、普通はあり得ない事だからね」
リンが考え込むように歩を止めた。
「……ホサ……、アリスちゃんたちのお母さん、どうしてこれなかったのかな……」
「わからない。明日、アリスたちに聞いてみよう」
リンが顔を顰め、私の袖を掴む。
「みんな一緒がいいのに……。おばあちゃんも…、アリスちゃんも、ケインくんも…かわいそう……」
「……そうだね…。みんな一緒がいい。
そのために、なにをしてあげられるか、明日聞いてみるから」
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翌日ふたりから聞いた話は、こんな内容だった。
父親が亡くなってから、母親のエマ(という名前らしい)は女手ひとつで子供たちを育てつつ、幾度かテーゼへの帰郷を申請していた。
しかし、当地を管轄する代官所からは一向に回答をもらえず、半ば放置され続けていた。
エマも日々の暮らしに精一杯だったため、いつしか帰郷の希望も薄れ、子供たちとの日常を優先していた。
そんなある日、エマの村に複数の男たちが現れる。
その数、11人。
男たちは、村の警護と称して暴力を背景に村に居座るようになる。
いつもは3〜4人が入れ替わり立ち替わり、村人の監視のため村に寝泊まりし、他の男たちは近くの山中にいるらしい。
当初は、警備料代わりだと、食料を半ば強引に搾取されていたが、そのうち近隣の街道で野盗の出現が多発するようになった。
村人は、男たちの仕業である事、自分たちの村が野盗の根城にされた事に気づくが、暴力と威圧に抗えず、ただ言いなりになるしかなかった。
そんな折、村の周辺で流行り病が発生する。
村人も多数感染し、複数の死者も出たため、男たちは感染を怖れ、山中に身を隠した。
エマはこれを好機と捉えた。
見張りがいない、今のうちにーー
エマは、アリスとケインが感染したと村人に吹聴して予防線を張った後、夜の闇に乗じてふたりを山中に走らせた。
お前たちは病で死んだ事にする、
とにかくここから離れて、祖母のいるテーゼを目指せと言いながらーーーー
ふたりの話はここで終わった。
後は私の想像だが……
おそらくエマはこう考えたのだろう。
テーゼを目指して走って。
おばあちゃんのもとに辿り着いて。
戻って来なくてもいい。
あなたたちさえ無事なら。
そして、子供たちは病死したと、死体はもう焼いたと、村人たちに伝えたのだろう。
流行り病の死者は焼いて処理される。
感染の抑止のために必要な処置だ。
焼いてしまったと言えば、死体の確認をされる事なく、子供たちを逃した事を隠蔽できる。
悲しい選択だが……、彼女にできる精一杯の決断だったに違いない。
マギーも、アリスも、ケインも、泣いていた。
娘の、母親の、悲痛な決意を知り…、それを知ってなお何もできない我が身を嘆く。
そしてそれは…、私も同じだった。
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「……打つ手なし…か…」
エリシアが顔を顰め、机の上で両手を組んだ。
「……はい。テーゼがエマの引渡しを求めるのは、外交上困難です。
シュルツから、国策を放棄するような譲歩を引き出す術が、我々にはありません。
また、そのような折衝は、逆に子供たちの生存を勘繰られる恐れがあり、逆効果です。
もし、シュルツの領主なり、代官なりに、子供たちの生存がバレて、身柄の引渡しを要求された場合、子供たちには市民権がないため、抗う事ができないでしょう」
どうする事もできない。
エマは完全に他国の人間だ。
しかも他国への移住を禁じている国となれば、法なり条約なりに裏打ちされた正当性が必要になる。
八方塞がりだ。
エリシアがため息をつき、諦めの表情を浮かべる。
「……子供たちだけでも、無事に保護できた事を喜ぶべき…か…」
「はい…、そう思います。
当初は追手が差し向けられる懸念もありましたが、ふたりが死んだように偽装されているのであれば、最早それはないでしょう。
ふたりはマギーと静かに暮らす事が可能です」
「……やむを得ん。諦めるしかない…な…」
「はい……」
今の状況が、マギーたちが取り得る最上の結果。
そう考えるしかなかった。
しかし、事態は予想外の方向に動く事になる。
エマの村を管轄する代官からの追及だった。
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