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48.野盗狩り③〜母の決意

 【アルベルト視点】


 保護した姉弟。

 姉がアリス、弟はケイン。

 ベンの言う通り、ふたりはマギーの孫だった。


 事の経緯を理解できぬままエヴァに連れられ、院長室に来たマギーは、孫と数年ぶりの邂逅を果たし、3人は涙に暮れていた。


 今日のところはゆっくり休んでもらい、明日詳しい話を聞かせてもらおう。


 協力してくれたエヴァと院長に礼を述べ、リンとともに帰路に着く。



 帰り道、リンがポツリと言った。


「ホサ…、おばあちゃん、なんか変だった……。うれしくて泣いてた…ようにも見えたけど……、なんか…違う感じした…」


 それはそうだろう。

 孫ふたりだけ、満身創痍でここに辿り着いたなんて異常事態だ。

 何があったのか、娘さんはどうしたのか、

 おそらく気が気ではあるまい。


「アリスたちのお母さんが一緒じゃなかったからね。心配で仕方ないんだろう。お孫さんだけでここまで来るなんて、普通はあり得ない事だからね」


 リンが考え込むように歩を止めた。


「……ホサ……、アリスちゃんたちのお母さん、どうしてこれなかったのかな……」


「わからない。明日、アリスたちに聞いてみよう」

 

 リンが顔を顰め、私の袖を掴む。

「みんな一緒がいいのに……。おばあちゃんも…、アリスちゃんも、ケインくんも…かわいそう……」


「……そうだね…。みんな一緒がいい。

 そのために、なにをしてあげられるか、明日聞いてみるから」





**********************





 翌日ふたりから聞いた話は、こんな内容だった。


 

 

 父親が亡くなってから、母親のエマ(という名前らしい)は女手ひとつで子供たちを育てつつ、幾度かテーゼへの帰郷を申請していた。


 しかし、当地を管轄する代官所からは一向に回答をもらえず、半ば放置され続けていた。

 エマも日々の暮らしに精一杯だったため、いつしか帰郷の希望も薄れ、子供たちとの日常を優先していた。


 そんなある日、エマの村に複数の男たちが現れる。

 その数、11人。


 男たちは、村の警護と称して暴力を背景に村に居座るようになる。

 いつもは3〜4人が入れ替わり立ち替わり、村人の監視のため村に寝泊まりし、他の男たちは近くの山中にいるらしい。


 当初は、警備料代わりだと、食料を半ば強引に搾取されていたが、そのうち近隣の街道で野盗の出現が多発するようになった。

 村人は、男たちの仕業である事、自分たちの村が野盗の根城にされた事に気づくが、暴力と威圧に抗えず、ただ言いなりになるしかなかった。


 そんな折、村の周辺で流行り病が発生する。

 村人も多数感染し、複数の死者も出たため、男たちは感染を怖れ、山中に身を隠した。


 エマはこれを好機と捉えた。

 見張りがいない、今のうちにーー


 エマは、アリスとケインが感染したと村人に吹聴して予防線を張った後、夜の闇に乗じてふたりを山中に走らせた。

 お前たちは病で死んだ事にする、

 とにかくここから離れて、祖母のいるテーゼを目指せと言いながらーーーー



 ふたりの話はここで終わった。


 後は私の想像だが……


 おそらくエマはこう考えたのだろう。



  テーゼを目指して走って。

  おばあちゃんのもとに辿り着いて。

  戻って来なくてもいい。

  あなたたちさえ無事なら。


 

 そして、子供たちは病死したと、死体はもう焼いたと、村人たちに伝えたのだろう。


 流行り病の死者は焼いて処理される。

 感染の抑止のために必要な処置だ。

 焼いてしまったと言えば、死体の確認をされる事なく、子供たちを逃した事を隠蔽できる。


 悲しい選択だが……、彼女にできる精一杯の決断だったに違いない。




 マギーも、アリスも、ケインも、泣いていた。


 娘の、母親の、悲痛な決意を知り…、それを知ってなお何もできない我が身を嘆く。



 そしてそれは…、私も同じだった。


 


**********************




「……打つ手なし…か…」


 エリシアが顔を顰め、机の上で両手を組んだ。


「……はい。テーゼがエマの引渡しを求めるのは、外交上困難です。

 シュルツから、国策を放棄するような譲歩を引き出す術が、我々にはありません。

 また、そのような折衝は、逆に子供たちの生存を勘繰られる恐れがあり、逆効果です。

 もし、シュルツの領主なり、代官なりに、子供たちの生存がバレて、身柄の引渡しを要求された場合、子供たちには市民権がないため、抗う事ができないでしょう」


 どうする事もできない。

 エマは完全に他国の人間だ。

 しかも他国への移住を禁じている国となれば、法なり条約なりに裏打ちされた正当性が必要になる。

 八方塞がりだ。


 エリシアがため息をつき、諦めの表情を浮かべる。


「……子供たちだけでも、無事に保護できた事を喜ぶべき…か…」


「はい…、そう思います。

 当初は追手が差し向けられる懸念もありましたが、ふたりが死んだように偽装されているのであれば、最早それはないでしょう。

 ふたりはマギーと静かに暮らす事が可能です」


「……やむを得ん。諦めるしかない…な…」


「はい……」


 今の状況が、マギーたちが取り得る最上の結果。

 そう考えるしかなかった。




 しかし、事態は予想外の方向に動く事になる。




 エマの村を管轄する代官からの追及だった。





 



 


 

 



 

お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになりますので、よろしければお気持ちの分だけ☆をいただけますでしょうか。


できましたら、ブックマークもしていただけると嬉しいです。

末永くお付き合い下さいませ。


次回タイトル予告「事前準備」

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