44.事後処理⑨〜お礼行脚
サイドストーリーと別視点モノの2本立てを
お届けします。
【アルベルト視点】
「みんなにお礼が言いたい」
リンがそう言ったのは、『秘密特使』団出立の翌日。
事後処理が一段落する頃合いを待っていたようだ。
リンには、メリッサを探し出すために、協力してくれた人たちがいた事を伝えていた。
確かに、今回いろいろ世話をかけた人に、リンを紹介しておくのもいいのかもしれない。
「…ふむ、まぁ、顔見せにはいい機会かな。
よし、じゃあ明日行こうか」
「うん!」
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【運送業組合】
「ーーーなんじゃあ、その原石は?!」
「…げ、原石…?」
組合長ベンが、立ち上がり、リンを凝視する。
「…こ、これはまた…どえらいモンを…、…ん?」
「な、何ですか、いきなり…」
ベンの奇妙な反応に少々焦って、リンを背中で庇うようにしてベンを遮った。
なんだよ、このエロジジイ
リンが驚いてるじゃないか。
「……あ、ああ、スマンな、嬢ちゃん。
少し驚かせたかな。勘弁してくれ」
ソファに場を移し、ベンが恥ずかし気に頭を下げた。
「いやぁ、嬢ちゃんがあまりに綺麗な“気”を纏って
おったんでなあ、こりゃあどえらいエエ女の原石
連れてきおったと思ったんじゃ。
しかし、よくよく見てたら、なんか、原石じゃのうて、磨き上げられた完成品に見えてしまってのぉ。
ハハハ、ワシも歳かの、面目ない」
「…!!!」
ゾクッと戦慄が走った。
……このエロジジイ、女好きが昂じて、リンの
真実の姿を見抜きやがった!
コイツ…!、全く別な方面でヤバイ…!
私は一気に警戒態勢を高めた。
ヤツの一挙手一投足に意識を集中させる…
少しでもアヤシイ動きを見せたら……
サイアク…亡き者にせざるを得ないか…
くらいの気概で立ち向かわねば!
当のリンは……、
ああ、ベンの膝に乗ってるんだ。
ヒゲを掴んだり、引っ張ったりして
きゃっきゃしてるね……
うん、楽しそうだね、よかったね…。
…ベン…、アンタも、これまで見たことのない
好々爺然とした笑顔してるぞ…。
……あぁ、なんか、私だけ損した気分だ…
……わりと長居したな。
まだ行くとこもあるし…
「…さあ、リン、そろそろお暇しようか」
立ち上がってリンに声を掛けると、リンがベンにペコリと頭を下げた。
お礼を言っているようだ。
ベンがリンの頭を撫でながら、何か言ってる。
この光景だけ見たら、まるっきり人畜無害なジイさんなんだがなぁ。
何を話しているのやら…。
だが、ある意味油断できないな、このジジイは。
ベンの女を見る目の凄味というか、
バカの一念というか、
ある特殊な方面の達観振りというか、
危険はないが、別な意味で警戒すべき
恐ろしいヤツだと、変な認識をして
その場を辞去した。
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【シドの酒場】
「きゃあーー!かわいい〜〜!!」
エヴァがリンを抱き上げ、絶叫してる。
「なになに!この子がリンちゃん?
補佐さんの遠縁なの?全然似てない〜!」
エヴァに頬ずりされて、リンも喜び、ケタケタ笑い声を上げている。
幼女は尊いモンなんだな…
ジジイとオバさんにとって…
けっして口には出せない独り言を脳内処理する。
「おねえさん、いい匂い…」
「おねえさん!?、ちょっと、聞いた!?
おねえさんだってよ!もう、嬉しがらせてくれるねぇ!」
リンが…なんか人の機微をうまく操ってる気が……
なかなかやる…というか、まあ無意識なんだろうが…、とにかく、気に入ってもらえたようでよかった。
シドが奥から飲み物と菓子を持ってきた。
「悪いね、開店前におじゃまして」
シドに礼を言ったが、コクリと頷くだけで、
いつも通り何も喋らない。
こいつも、相変わらずだな…
「ホラ、おじちゃんに挨拶してきな」
リンがエヴァに送り出される格好で、シドに
近づく。
ゴツいヒゲ面の大男を、リンが見上げるように
立ちすくんでいる。
おい、リンにはあんまり刺激が強すぎたか…?
シドがテーブルのミルクを、そっと差し出した。
リンは、パァっと顔を輝かせ、
「ありがとう」
と言って、ミルクを飲み始める。
…ホッした。泣き出すかと心配したぞ。
「うん、そう、わたし、リンっていうの」
「………」
「うん。今、エリシアお姉ちゃんのおウチに住んでるの。ホサも一緒に」
「………」
「そうなんだ、みんなやさしいよ」
……ん…、なんだ?
…なんか、会話が…成立してるような…
いや…、リンが一方的に話してるようにしか
見えないが…
「へぇ、珍しい、ウチのダンナがあんなに饒舌になるなんて」
え?、饒舌…?
何も聞こえないんだけど……
リンが笑ってる。
「はは、補佐さん、ウチのダンナが笑ってるよ。
コリャ、明日は雪降るんじゃないかねぇ」
シド…、君の顔の筋肉…、動いてないよね…?
「じゃあね〜、また来ておくれよ〜」
「…………」
ふたりに見送られて店を出た。
まだ謎を抱えたままだ…、やはり気になる…。
「…リン…、あのおじちゃんと…お話してた…よね」
「うん、いっぱいお話した」
「…なに、お話して…たの…?」
「う〜ん…、いろんなこと!」
やっぱり、謎が深まるだけだった……
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【ゴッヅのパン屋】
かららん…
「おう、いらっしゃ…。お、リンちゃん!」
「え!リ、リンちゃん、まぁ、よく来たねえ」
ゴッヅ夫妻が駆け寄ってきて、リンを囲む。
「あん時はありがとな。メリッサも無事に補佐さんが助け出してくれたよ」
「そうだよ、アタシら一家の恩人さんだ。
ホントに感謝してんだよ」
「……おじちゃん、おばちゃん…、あの時…」
「おう、あん時はリンちゃん、俺たちと一緒にいてくれたんだよな。
わりぃなぁ、俺ら、ほとんど覚えてねぇんだよ。
補佐さんがメリッサ助け出してくれたって知らせが来てな。
俺らもう、うれしくってよぉ、なんだかわけわかんなくなっちまってなあ」
「そうなんだよ、ゴメンね。でも、領主様からは、リンちゃんが一緒懸命にアタシら励ましてくれてたって聞いてるよ。途中で疲れて眠っちまったとも言ってた。
子供の夜ふかしはダメだよね。ホントはアタシらが気をつけてやんなきゃなんなかったのにさぁ、ゴメンよ」
ふたりともしらばっくれている。
…ウソのヘタな夫婦だ。
リンが、戸惑うような、嬉しいような、微妙な表情で、ふたりを見回し、ペコリと礼をした。
「…メリッサちゃんは…?」
声とほぼ同時に、奥からメリッサが現れた。
「リンちゃん〜!!」
「…メリッサちゃん…!」
ふたりが駆け寄って、ぶつかり合うように抱き合って、そして…泣き出した。
ようやく…、ようやく、自分の目で、相手の無事を確認できた…、そんな安堵の涙だった……。
かららん…
帰る時、またあの音がした。
これまで通りに、そして明日も明後日も、
あの音が、私たちを迎え、送り出してくれるのだろう。
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「お世話になった人と会ってみて、どうだった?」
リンに聞いてみた。
笑顔で答えるリン。
「みんないい人。おじいちゃんはちょっと変だけどやさしいし、おねえさんはいい匂いしてたし、おじちゃんはいろいろお話してくれたし…」
ここで言葉が切れた。
「……リン…?」
「…メリッサちゃんのおじちゃんとおばちゃんも、これまでと変わんなかった…。
知らんぷりしてくれてた…。
うれしかった…」
「……そうか…」
「メリッサちゃんも、前と同じだった……。
わたしは…これからも…リンのままでいられるんだ……」
「そうだよ…、これまで通り、何も変わらず、君はリンのままで、また私たちと一緒に暮らしていくんだ」
リンがしがみついてきた。
泣いているのがわかる。
「……ホサ……、ありがとう…」
小さな呟きに、小さく頷く。
「……こちらこそ…ありがとう…」
お読みいただきありがとうございました。
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いただけましたら大変嬉しいです。
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末永くお付き合い下さいませ。
次回はこの話の別視点モノです。
タイトル予告「【別視点】お礼行脚」




