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43.事後処理⑧〜王子の出立

 フリッツ率いる『秘密特使』団一行の出立の日。


『秘密特使』一団の成果は輝かしいものだった。


 救出された子供たち20人。捕縛された犯人9人。

 王子が直接捕縛した犯人2人から引き出した、

 大量の詳細情報。


 犯人2名が、王子に対して、自分の知る限りの情報を白状し始めた。

 おそらくは先に捕縛された7人も、自分が僅かでも酌量を受けられるようこれに追随するはず。

 今後はこの情報を基に、多数の未解決事件の捜査が

開始され、加担した犯罪者が軒並み捕縛されること

だろう。





「今回は本当に君たちに助けられた。

 感謝の念に堪えない。ありがとう」

「いえ、お役に立てて光栄です。

 殿下、我々は今後とも貴国の良き友人であり続ける

ことをお誓い致します」

 

 フリッツとエリシアが握手をする。


 少しの間の談笑の後、フリッツが馬車に乗り込む。


 乗り込む際に、チラリと、後ろを振り向いた。

 

 エリシアに視線が向き、微笑んだ後、

 一瞬だけアルベルトに視線が向かい、また馬車の中に戻された。



 


**********************




「お疲れさまでした」


 執務室のソファに座るエリシアに、そっと茶を置き、その向かいにアルベルトが座る。


 茶をすすりながら、上目遣いでアルベルトを見る。


「何か…?」


 視線を全く気にしていないが、

 儀礼的に尋ねてやろう、

 そんな感じ満載の反応を示すアルベルト。



「お前…、フリッツ殿下から…何か…言われなかったか…?」


 モジモジしながらエリシアが問う。


「そうですね、過分なお言葉をいくつも頂戴しまして、恐縮至極です」

「……ウソつけ…」


 茶に一口し、アルベルトがさらりと核心を語る。


「私をカーチスにぜひとも迎えたい…と…」


 どくんっ!


 エリシアの心臓が跳ねた。


 アルベルトを凝視する。

 仔犬がすがるような眼差し。



 ややあって、アルベルトがくすっと笑いを浮かべた。


「……というお話は、全くお聞きしませんでした」


「……はぁ?…」


「正確に言うと、殿下がその話に入ろうとしたところで、私が別な話を始め、一方的に進めて自分の気持ちを表明しました。

 殿下は、入口を塞がれ、別なルートで出口まで連れて行かれ、私の答えを聞かされたわけです。

 つまり、殿下は私の招聘を口にしていないし、私も

殿下の誘いを断っていない。

 そもそも誘われていませんからね。

 殿下は体面を傷つけられず、私も不遜無礼な事を申し上げずに、事を終わらせたというわけです」



 唖然とするエリシア。


  話を聞く前に…

  別な話をして…?

  断った…?

  …なんでそうなる

  どうやってそんな事ができた…?



 疑問符をいっぱいにしたエリシア。

 それを眺め、更に柔和な笑顔をして、アルベルトが語りを続ける。


「あのお方は、玉座に興味はない。

 国務に敢えて距離を取るその姿を、周囲には

『放蕩者』と見る向きもある。

 王子が意図的にそう振る舞えば、側近も期待はしない。大過なく無難な助言をする人物ばかりなのでしょう。

 一方で、第4王子という立場は、王位継承権で微妙な位置にあります。

 何事もなければ、そのまま王族のひとりとして、平穏な一生を過ごせる。

 しかし、何らかの原因で、これが繰り上がった場合、フリッツ殿下は否応なしに、継承権争いに巻き込まれる位置に立つ。

 上位2名の勢力が、己が陣営に取り込もうとし、

成らぬ場合は排除を試みるでしょう。

 だから、王子は今回の事件を利用し、臣民の人気と

いう絶大な力を是が非でも手に入れたかった。

 そして、見事に目的を遥かに超える成果を手にし、

国元に『犯罪者狩りの英雄』として凱旋するわけです。

 これで王子の立場は決定的に強固となります。

 今後他の勢力は、王子を従順な味方として取り込むのではなく、敬意を払うべき協力者として近づかねばならなくなった。

 

 目的は達成した。

 立場は盤石。

 これで、煩わしい政争に距離を置ける。

 

 そうお考えになって……ふと不安になった」


「……不安…?」


「自分の周囲の側近たちの資質です。

 『放蕩者』の側付き。なかには優秀な御仁も

いるかもしれませんが、多くは、さほどの野心も

欲もない、謂わば小者に写った。

 もし、脇の甘さにつけ込まれるような事が起これば……。そんな危惧を抱かれたのでしょう。

 そこで、恐れ多くも私に白羽の矢を立て……よう

とした」


 エリシアがようやく疑問が晴れたのか、ここで

フッと笑った。

「立てようとして…、立たなかった」


「あの方は聡明です。有能な人材の確保も、側近の

育成も、さほど難しい事ではないでしょう。

 他領から人を引き抜くような弱みを、わざわざ見せる必要もありません」


 エリシアが、この言葉にホッとし、すぐにハッ

と慌てて顔を赤らめた。

 少しバツが悪いような表情でアルベルトに問うた。


「…お前は…、ホントに…行かなくて…よかったのか?」



 それにアルベルトが静かに応じる。


「行きませんよ。私はここが好きですから」

 

「…ありがとう…」


「…いいえ…」



 沈黙がエリシアの居心地を悪くする。

 何か話さなきゃ…、と思うが、口から言葉が

何も出てこない。

 向かい合ったまま、ただ黙々と茶を啜る。

 飲み干した後も、しばらくティーカップから

口を離せない。

 

 アルベルトの顔に苦笑が混じる。

「おかわりですね…」


 あわあわするエリシアのティーカップを奪い、

新しい1杯を淹れ、エリシアの前に置く。


「まだしばらくは、私の淹れる茶を飲んでいただきます」


「…うん…」


 少しはにかみながら、エリシアがティーカップを口に運んだ。



 

 

お読みいただきありがとうございました。


事後処理編はこれで終了です。

サイドストーリー1本と別視点1本を経て

次の章に移ります。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら☆をお気持ち分いただけますと

大変嬉しいです。

ブックマークも今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回タイトル予告「お礼行脚」

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