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38.事後処理③〜フリッツの要望・アルベルトの要望

 フリッツ率いる『秘密特使』一行の出立の前日。


 フリッツは執務室にエリシアを訪ねた。

 表向きは出立の挨拶だが、フリッツのたっての希望でふたりだけの会談となった。


「明日、ご出立ですね」

「今回は貴都市テーゼに大いなるご助力をいただいた。心からお礼申し上げるーー

 と、外交語はここまでにして、今回は本当に助けられた。ありがとう」

「お役に立てて何よりです」


 フリッツがティーカップを傾ける。

 ふうっと小さく息を吐き、エリシアに顔を向けた。

 いつになく真剣な表情。


「正直言うと、今回の私の行動は、ある意味非常に大きな賭けだった。

 さほど成果もなく、最初に保護された子供たちと犯人を連れ帰るだけだったら、失点にこそならないが、ただのお使いだ。

 陛下をはじめ、経緯を知っている重鎮たちは、

口には出さずとも、呆れてこう思うだろう。

 ”あれだけ無理押しして、結果はこれか”と。

 だから、私はこの賭けに絶対に負けるわけには

いかなかった。

 君たちが国境の半封鎖で、潜伏中の誘拐団を閉じ込めた事は知っていた。

 君たちが連中を捕捉できる情報を掴んだら、

是が非でもそれを入手して、極秘に我々だけで

動く事も決定事項だったよ。

 しかし、君たちは予想の遥か上を行った。

 連中の思考を読み切り、絡め取り、誘い出し、

打ち取った。

 私はただその場に同行させてもらって、目の前に置かれたメインディッシュをいただいただけさ。美味しくね」


 ここまで話して、フリッツの表情がやっと柔らかさを取り戻す。

「今回の成果で、私は『英雄』として凱旋する。

 臣民から絶大な人気を得るだろう。

 それが今後の私の盾となる」


 エリシアがフッと笑む。

「……武器ではないのですね」

 フリッツも微笑みを返す。

「盾でいいんだ。武器にはしない。

 私は誰とも戦うつもりはないからね」


 和やかな雰囲気のまま、暫し時間が過ぎた。 

 フリッツが首を回し、身体をほぐす。

「そろそろ戻るね、従者たちが気を揉んでるだろうし。

 ……それでさ、エリシア…」

「何ですか?」



「アルベルト殿を私の下にくれないか」

 


 その言葉に、エリシアが一瞬硬直した。

 何を言われたか、脳内の吟味が全くできない。


 …え?、…どういう事?、…どういう意味?

 『私の下』?、…アルベルトを…くれって?


 全く言葉の意図を精査できないエリシアに、

姿勢を前のめりにしてフリッツが続ける。

「彼は素晴らしい。智略も、武勇も、言葉で言い表せないほどだ。あれほどの人物は他にいない。  

 是非、彼をカーチスに迎えたい」


 沈黙が流れる。


 未だ茫然自失の感のエリシアに、フリッツが

また言葉を投げた。

「頼む、エリシア。アルベルトーー」

「ーーダメです!」


 フリッツの言葉を遮って、エリシアが立ち上がり

叫んだ。

 無意識だったのか、ハッとして顔を赤らめる。

「で、殿下!し、失礼いたしました!私としたことが……、

 し、しかし……アルベルトは私の…補佐役で…、

 確かにいつも皮肉ばっかり言うし…、生意気だし…、アイツはホントは私が領主だという事を知らないのでは……と思う事もしばしばですが…」


 ワタワタ、ゴニョゴニョと弁解し、だんだんと

声も身体も小さくなっていくエリシア。




 ややあって、フリッツが大声で笑いだした。


「…?、で…殿下……?」

 なぜ笑っているかわからずオロオロする。

 ようやく笑いが収まってきたのか、フリッツが

エリシアに手をひらひら振って立ち上がった。


「いやぁ、ゴメンごめん。悪かったよ、急に

突拍子もない事言って。

 そうだよね、彼は君の右腕以上の存在だ。

 まだまだ、側にいてくれないと困るよね。

 わかった。それじゃ、これで失礼するよ」

「あ、はい、ありがとうございました!」



 扉を閉め、フリッツがボソッと独り言を呟いた。



「やっぱり、外堀は無視して本陣に斬り込むしか

ないか……」




**********************





 滞在する館に戻ったフリッツを待っていたのは意外にも当のアルベルトだった。


 なぜこのタイミングで……

 困惑を表情に出さぬよう努めるフリッツを意に介す素振りも見せず、慇懃に謝意を示す。


「申し訳ありません。出立前のご多忙な時にお時間を

頂戴しまして」

「いやいや、こちらこそ好都合…いや、気にしないでくれよ、ともに死線を越えた仲だろ」

 

 アルベルトに着座を勧めながら、来訪の意図を問うた。

「で、今日来てくれた用件は、連中の処遇…の事かな?」

 あの夜、アルベルトが後日相談したい事があると言っていたのを覚えており、このタイミングでの来訪はその事しかないと当たりをつけていた。


「はい、そうです。つきましては、護送前に一度、連中に会わせていただきたいのです」

「それはかまわないが、ひとりでかい?

 誰か付けようか?」

「はい、貴国の書記官を1人お願い致します。

 それから、恐れながらぜひ殿下もご一緒に……」

 

 フリッツは僅かに眉を顰めた。

「……私も…かい…?」


 王族に、犯罪者の尋問に立ち会えと…?

 自分だけしかいないこの場だから、誰も咎める

者はいないが、場合によっては不敬罪を主張され

かねない発言だ。

 彼ほど聡明な人物が、なぜこんな無礼な依頼を

口にする…?


 フリッツの口調の変化に気づいているのだろうが、

アルベルトは一向に態度を変えず、

「不敬不遜は承知のうえで、ぜひ……」



 フリッツは腕組みして思案する。


  何を考えている…?

  これまでの連中の尋問内容は

  テーゼにも伝えている

  確かにさほど重要な情報は得られていない

  それは事実だが

  自分なら連中を崩せると考えているのか

  いや、それは簡単じゃない

  連中も必死だ

  情報の内容次第で、自分の処遇が変わる

  となれば、より高く売りたい

  そう考えているからこそ、

  情報を小出しにしている

  連中の態度を見れば明白だ

  それを崩せるというのか…?


 さっきは、アルベルトの依頼に僅かに不快感を覚えたが、今は興味の方が勝った。

 彼は連中をどうやって崩すつもりか、

 果たしてそれは可能なのか、

 彼はどのような手腕を魅せてくれるのか。


「……わかったよ、いいだろう」

 フリッツがやや微妙な顔で了承した。


 しかし、当のアルベルトはまるで意に介さない

様子で「ありがとうございます」と言っただけ

だった。

   

 

 


 



 

 



 


 


 

お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回、誘拐団リーダーを追い込む

アルベルトの魔法をお届けします


タイトル予告「銅貨の山」

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