表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/77

39.事後処理④〜銅貨の山

 アルベルトとフリッツは、リーダー格の男の

牢の前に来ていた。

 机が2台。1台は牢の前に置き、もう1台には

カーチスの書記官が座った。

 

 牢内の男は、神経質そうな目で、訝しげに様子を

窺っている。

 尋問はこれまで何度も受けた。

 また今日もこれから始まるのだろう。 

 しかし、王子が同席するなんて聞いた事がない。


 たまらず男がアルベルトに声を掛けた。

「お、おい、何を始めようってんだ?」

 アルベルトはそれに答えない。

 持参した小ぶりな箱から、銅貨と砂時計を取り

出した。

 箱を机の上に置き、さらにその上に銅貨を積み始める。

 皆が唖然としているなか、20枚の山が5個、

合計100枚の銅貨が積み上がった。


「おい、テメエ!そりゃ何だって聞いたんだよ!

答えろ、コラァ!」

 喚き散らす男の前に、アルベルトが立つ。

 男の顔を冷徹な視線で見つめ、静かに告げた。


「これはね、君の命…だよ」




**********************




「な、な、何言ってやがる!テメエ!」

 また喚く男を手で制した。


「順を追って説明する。よく聞いてくれ。

 君は明日、カーチスに送還される。

 君の罪状は、弑逆未遂、誘拐、違法奴隷売買。 

 弑逆未遂だけでも極刑だ。

 しかし、有益な情報を提供して今後の誘拐事件の

捜査に貢献すれば、減刑の余地もある。

 ここまではわかっているね。

 では、続ける。

 一連の誘拐が複数のグループの仕業ということも判明している。

 尋問の報告書を読んだよ。君はこれまでも複数回、

同じ事を繰り返してきたようだね。

 その全貌を掴んで、関与した連中を捕縛したいんだ。君は誘拐に関与した連中を何人も知っているはずだから、その情報が欲しい。

 しかし、あまり君は協力的ではないようだ。

 自分の情報が重要だと踏んで、売り惜しみしているんだろう。

 だから、君にも状況をよく理解してもらおうと思って、これを用意したんだ」

 

 アルベルトが机の横に移動し、話を続ける。

「君は、このまま口を噤んでいれば、カーチスは君にもっと譲歩すると考えているんだろう。

 しかしそれは間違いだ。お国はそんなに悠長に待ってたりしない。

 せいぜい3ヶ月だよ。殿下、違いますか」


 急に話を振られ、フリッツは少々たじろいだが、それでもアルベルトの弁の正しさを認めた。

「確かにそうだ。情報の1つとっても、信憑性の確認、捜査が必要だ。

 有益な情報なら減刑の理由になるが、真偽が判明するまで1〜2ヶ月かかる事もままある。

 仮に最初の1つが虚偽だったら、そこで見限る。

 罪人からの情報提供猶予は、総合的にみると3ヶ月程度だね」


 アルベルトが冷たく男に告げる。

「君の不運はもう1つある。

 君の他に捕まった連中が8人いる。 

 そのうち、君と同じく複数回関わったのが4人、残り

4人が新顔らしいね。

 つまり、君と同等か、それに近い情報を持つと思われる人間が4人いる事になる。

 いいかい、4人もいるんだ。

 君が10の情報を持っていたとしよう。

 もし、4人が各自3しか持っていなくても、それだけで12になって、君の情報を凌駕する。それ以上なら君にもう勝ち目はない。

 つまり、カーチスは、君より他の連中を取る方が遥かに効率がいいんだ。

 売り惜しみしている状況じゃない。

 カーチスは時間的効率を欲している。

 そこで君の命をより凝縮させてもらうことにした」

 

 アルベルトが机の銅貨を1枚つまみ、男に示す。


 なんの変哲もない銅貨。

 使い古され、くすんだ表面。

 ……さほどの価値もないコレが、自分の命…?


 困惑する男に、アルベルトの抑揚のない言葉が再び向けられた。


「これが君の命1日分だ。この机の上に君の命が

100日分、約3ヶ月分あると考えてほしい。

 我々は君に情報提供を求む。

 情報を渡すまで、この砂時計の砂が尽きる毎に銅貨を1枚ずつ減らしていく。

 砂とともに君の1日が減っていくんだ。

 早く話した方がいい。


 以上だ。それでは始めよう」


 極めて事務的な口調で開始を告げ、アルベルトが砂時計をひっくり返した。

 

「お、お…、おい、ま、待って…!」

「……それは情報とは言わないな…」

「おい!待ってくれって!おい、聞けよ!」


 会話にならない不毛なやり取りが続く。

 焦りと怒りの入り混じった罵倒を平然といなしながら時が過ぎ、そうしているうちに砂時計の砂が尽きた。


 アルベルトが銅貨を1枚つまみ取る。

 その表情には何の感情もない。


「意外と短いね。君の1日は」


 そう言って、トンッと再び砂時計を返す。


「…や、やめろ!!」

 男が檻から手を伸ばし、砂時計を奪おうとした。

 その勢いで机が揺れ、銅貨の山がひとつ崩れ、

その大半が床に落ちた。


「君はずいぶん自分の命を粗末にするね、

 こんなにムダにして」

「お、おい、戻せ!それ戻せよ!」


 アルベルトはその懇願と悲鳴の入り混じった声

を静かに跳ね除ける。

「言ったはずだ。机の上の銅貨が君の命だって。

もうこれは机の上にない。下に落ちたんだ。

 戻すなんてできないよ」

「……!!な…」

「暴れると、また銅貨が落ちるよ。箱はそんなに大きくない。ほら、すぐにでも崩れそうな山がある」

 

 そんな言い合いをしている間に、山が1つ崩れ、

他の山を巻き込みながら半分ほどが机から溢れ

床に落ちた。

「ひっ…!ひい!!」

「…またか…」


 アルベルトが初めて男に笑みを向けた。


「このぶんなら、思ったより早く終わりそうだ」


 

 



**********************

 



 男の心は完全に折られた。

 

 これまで、のらりくらりと情報を出し惜しみ

していた男が、堰を切ったように話を始めた。

 このため、急遽尋問官が集められ、本格的な

聴取が行われる事になった。



「まるで…魔法だ……」


 フリッツが改めてアルベルトの手腕に戦慄を

覚え、そう評した。

 しかしアルベルトは特に恐縮もせず、しれっと言う

だけだった。



「とんでもない、ただの嫌がらせです」


お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになりますので、よろしければお気持ちの分だけ☆をいただけますでしょうか。


できましたら、ブックマークもしていただけると嬉しいです。

末永くお付き合い下さいませ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ