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35.誘拐⑰〜発露の条件

 アルベルト達は早朝に騎士団庁舎に着いた。

 庁舎には、エリシアとゴッヅ夫妻が待ちかねていた。


「「メリッサ〜!!」」

「父ちゃん、母ちゃん!」


 馬車から降りるメリッサの姿を認めた夫妻が、メリッサのもとに走り、声に気づいたメリッサも両親に駆け寄る。

 耐え難い時間を経て、ようやく再会できた一家。


 それを暖かく見つめるアルベルトの肩を、エリシアがそっと叩いた。


「お疲れさま、よくやってくれた」


 さすがに疲労の跡は見えるが、笑顔は明るい。


「これで事件解決だ。子供は全員無事、犯人は全員捕縛か死亡、我が方に損害なし。完璧だ」

「事後承諾をいただくことになりましたが、犯人の身柄はカーチスに委ねる事にしました」

「条約通りだ、問題ない。フリッツ王子も参加した捕縛だ。向こうの顔も立つし、異存はない」


 ようやく肩の荷が下りた。

 そんな安堵感の中、リンの姿を探す。

 メリッサを随分心配していたし、

 無事な姿を見たいだろう。 

 

 ん…?いない…

 幼い子だし、まだ寝ている時間か。


「リンは部屋ですか?まだ寝ているでしょうけど、

起きたらすぐにメリッサの無事を知らせてやりたいんですが」


 アルベルトの言に、エリシアの顔が曇る。


 …何だ…?

…何があった…?




「アルベルト…、実はーー」

 




**********************





 アルベルトはリンの部屋に駆け込んだ。

 リンはベッドの中。

 枕もとにはマーサがいる。


「…リンの、リンの様子は…?」


 マーサが寂しけな笑顔で答える。

「…寝ている、そう寝ているだけさ。

 スゥスゥって寝息も立ててる。

 ……ただ…起きないんだよ、何しても」


「どういう…事ですが…?」


「わからない…、医者もわからないって…。

 異常はないって言ってた。

 とにかく、今はこのまま様子を見るしかないよ」


「何があったんですか?」


「私も直接見たわけじゃないんだ。エリシア様の

話だと、この子の身体が光ってー」


 それから、マーサから経緯を聞いた。

 突然、リンの身体が光を放った事。

 声は同じだったが、

 表情も、口調も、雰囲気も、別人だった事。

 メリッサの声が聞こえ、

 それからしばらく会話ができた事。

 光が消え、それと同時にリンが倒れ込んだ事。


 メリッサの話と符合した。

 あれはやはり本当の話だったのか。


 おそらく、何かがきっかけになって、リンは

神気を発現させた。

 力を使い、消耗して眠りについたのだろう。

 であれば、回復すれば目覚めるはず。


 アルベルトは少し安堵した。


「マーサ、すみませんが、もう少しリンの傍に

いてやって下さい。

 私はエリシアのところに行ってきます」


 マーサが軽く頷く。

「行っておいで。直接見たエリシア様からなら、

もっと詳しい説明が聞ける。

 何が原因か、どうすれば防げるか、考えなきゃ

ならない。エリシア様もそう思ってるよ」


「ありがとう、よろしくお願いします」




*********************




 エリシアが人払いをし、執務室にはアルベルトと

ふたりだけとなった。


「マーサから経緯は聞いてくれたな」

「はい」


 エリシアが回想しながら、考えを話す。


「……あれは神気だ…」


「おそらく…そうでしょう」


「淡い…暖かい光だった。それが皆を包み、外の音が

遮断され、メリッサとの会話が始まった。

 その間、リンは…なんというか…そう、違う存在に

なっていた」


 空洞でリンを見つけた時の、あの表情、口調、雰囲気の変化。

 あの時は神気が消え、年相応の少女になった。

 今回は、神気を発現し、"神"という存在になった。

 間違いなく系統は同じ。

 上から下か、下から上か、の違いだけ。


「私なりに考えた事がある。聞いてくれ」


 エリシアが自説を説明する。

  ①神気は完全に発露していない

   伝承では、周囲一帯を消失させるほどの力

   とあるが、今回は明らかに微弱だった

  ②自分の意思では発現できない

   自由に使えるならば、襲われた時に発現し

   危機を乗り越えたはず

   発現には何か条件がある

  ③一度発現すると、消耗して昏睡状態になる

   今の状態がまさにこれ


 アルベルトがエリシアの自説に首肯する。

「ほぼ、間違いないですね。

 私が見つけた時、リンはひどく古風な口調でした。

 今回の口調は、今よりも成長した少女…、

 おそらく10代…だったのですね。

 つまり、神気の強さに応じて、口調も年齢を重ねるように老練になると。そう考えられます」


「きっかけは何だと思う?」


「こればかりは、その場にいたあなたにしか

わからない。よく思い出してみて下さい」


 エリシアが考える。


 あの時、私は…

 ゴッヅ夫妻があまりに痛々しくて…

 励まそうとして…

 声を上げ、宣言した…


 いや、そうじゃない

 あれは夫妻を勇気づけるためじゃない

 自分の"覚悟"を

 領主の"覚悟”を宣言した


 あの時、確か……

 リンも…

 リンの姿をしたあの存在も

 言っていた

「領主の覚悟」を確かに聞いた、と



 エリシアがアルベルトに振り返った。

 エリシアの表情で、アルベルトも察した。


「……見つけたんですね、条件を」




**********************


 



「なるほど…、『領主の覚悟』…ですか」


 アルベルトがこの意味を咀嚼するように呟く。


「そうだ。あの時、私は気持ちを抑えられず、自分の領主としての決意を叫んだ。

 リンが光を放ったのは、その直後だった。

 そして、リン…があの口調、あの表情で、私に言った。『領主の覚悟』を確かに聞いた、と」


 アルベルトが咀嚼を終え、エリシアに告げる。

「わかりました。あなたの『領主としての覚悟』が、

神気解放の条件のひとつで、間違いないでしょう」


「条件の…ひとつ…?」


「はい。今回の神気発露は僅かなものでした。

 発動条件が『領主の覚悟』だけならば、もっと大規模あるいは劇的な奇跡になってもおかしくなかった。

 例えば、連中が雷に打たれて全滅するとかね。

 まさに天の怒り、神の雷鎚だ。

 しかし、親子の会話だけという、小規模且つ静かに

終えた。

 リンの力が、長い年月のなかで衰えていたという可能性もありますが、もうひとつふたつ、条件があると考えていいでしょう」


 エリシアが少し躊躇する。

「しかし、それを確かめる術は……」


 アルベルトが頭を振る。

「そう、ありません。実証実験できる話ではないし、

なにより、そんな力が必要になる事態なんて起きて

欲しくない。

 あの子には、そんな力を使わずに、幸せに過ごして

もらいたい」


 その言葉にエリシアは救われたような気がした。

 うれしかった。

 アルベルトが自分と同じ想いを抱いていた事が、

うれしかった。


「そうだ…、そうだよね…」

「…そうです…」


 エリシアが、さりげなく目頭を押さえたが、

アルベルトはいつも通り、見て見ぬふりをした。


 


 



 


 

お読みいただきありがとうございました。


誘拐団捕縛編はこれで終了です。


この後は事後処理編をお届けします。


アルベルトがその知略で

捕縛された誘拐犯たちを更に追い詰めていきます。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回、意図せずリンの神気を目撃した

ゴッヅ夫妻の出した答えを描きます


タイトル予告「ゴッヅ夫妻」

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