35.誘拐⑰〜発露の条件
アルベルト達は早朝に騎士団庁舎に着いた。
庁舎には、エリシアとゴッヅ夫妻が待ちかねていた。
「「メリッサ〜!!」」
「父ちゃん、母ちゃん!」
馬車から降りるメリッサの姿を認めた夫妻が、メリッサのもとに走り、声に気づいたメリッサも両親に駆け寄る。
耐え難い時間を経て、ようやく再会できた一家。
それを暖かく見つめるアルベルトの肩を、エリシアがそっと叩いた。
「お疲れさま、よくやってくれた」
さすがに疲労の跡は見えるが、笑顔は明るい。
「これで事件解決だ。子供は全員無事、犯人は全員捕縛か死亡、我が方に損害なし。完璧だ」
「事後承諾をいただくことになりましたが、犯人の身柄はカーチスに委ねる事にしました」
「条約通りだ、問題ない。フリッツ王子も参加した捕縛だ。向こうの顔も立つし、異存はない」
ようやく肩の荷が下りた。
そんな安堵感の中、リンの姿を探す。
メリッサを随分心配していたし、
無事な姿を見たいだろう。
ん…?いない…
幼い子だし、まだ寝ている時間か。
「リンは部屋ですか?まだ寝ているでしょうけど、
起きたらすぐにメリッサの無事を知らせてやりたいんですが」
アルベルトの言に、エリシアの顔が曇る。
…何だ…?
…何があった…?
「アルベルト…、実はーー」
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アルベルトはリンの部屋に駆け込んだ。
リンはベッドの中。
枕もとにはマーサがいる。
「…リンの、リンの様子は…?」
マーサが寂しけな笑顔で答える。
「…寝ている、そう寝ているだけさ。
スゥスゥって寝息も立ててる。
……ただ…起きないんだよ、何しても」
「どういう…事ですが…?」
「わからない…、医者もわからないって…。
異常はないって言ってた。
とにかく、今はこのまま様子を見るしかないよ」
「何があったんですか?」
「私も直接見たわけじゃないんだ。エリシア様の
話だと、この子の身体が光ってー」
それから、マーサから経緯を聞いた。
突然、リンの身体が光を放った事。
声は同じだったが、
表情も、口調も、雰囲気も、別人だった事。
メリッサの声が聞こえ、
それからしばらく会話ができた事。
光が消え、それと同時にリンが倒れ込んだ事。
メリッサの話と符合した。
あれはやはり本当の話だったのか。
おそらく、何かがきっかけになって、リンは
神気を発現させた。
力を使い、消耗して眠りについたのだろう。
であれば、回復すれば目覚めるはず。
アルベルトは少し安堵した。
「マーサ、すみませんが、もう少しリンの傍に
いてやって下さい。
私はエリシアのところに行ってきます」
マーサが軽く頷く。
「行っておいで。直接見たエリシア様からなら、
もっと詳しい説明が聞ける。
何が原因か、どうすれば防げるか、考えなきゃ
ならない。エリシア様もそう思ってるよ」
「ありがとう、よろしくお願いします」
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エリシアが人払いをし、執務室にはアルベルトと
ふたりだけとなった。
「マーサから経緯は聞いてくれたな」
「はい」
エリシアが回想しながら、考えを話す。
「……あれは神気だ…」
「おそらく…そうでしょう」
「淡い…暖かい光だった。それが皆を包み、外の音が
遮断され、メリッサとの会話が始まった。
その間、リンは…なんというか…そう、違う存在に
なっていた」
空洞でリンを見つけた時の、あの表情、口調、雰囲気の変化。
あの時は神気が消え、年相応の少女になった。
今回は、神気を発現し、"神"という存在になった。
間違いなく系統は同じ。
上から下か、下から上か、の違いだけ。
「私なりに考えた事がある。聞いてくれ」
エリシアが自説を説明する。
①神気は完全に発露していない
伝承では、周囲一帯を消失させるほどの力
とあるが、今回は明らかに微弱だった
②自分の意思では発現できない
自由に使えるならば、襲われた時に発現し
危機を乗り越えたはず
発現には何か条件がある
③一度発現すると、消耗して昏睡状態になる
今の状態がまさにこれ
アルベルトがエリシアの自説に首肯する。
「ほぼ、間違いないですね。
私が見つけた時、リンはひどく古風な口調でした。
今回の口調は、今よりも成長した少女…、
おそらく10代…だったのですね。
つまり、神気の強さに応じて、口調も年齢を重ねるように老練になると。そう考えられます」
「きっかけは何だと思う?」
「こればかりは、その場にいたあなたにしか
わからない。よく思い出してみて下さい」
エリシアが考える。
あの時、私は…
ゴッヅ夫妻があまりに痛々しくて…
励まそうとして…
声を上げ、宣言した…
いや、そうじゃない
あれは夫妻を勇気づけるためじゃない
自分の"覚悟"を
領主の"覚悟”を宣言した
あの時、確か……
リンも…
リンの姿をしたあの存在も
言っていた
「領主の覚悟」を確かに聞いた、と
エリシアがアルベルトに振り返った。
エリシアの表情で、アルベルトも察した。
「……見つけたんですね、条件を」
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「なるほど…、『領主の覚悟』…ですか」
アルベルトがこの意味を咀嚼するように呟く。
「そうだ。あの時、私は気持ちを抑えられず、自分の領主としての決意を叫んだ。
リンが光を放ったのは、その直後だった。
そして、リン…があの口調、あの表情で、私に言った。『領主の覚悟』を確かに聞いた、と」
アルベルトが咀嚼を終え、エリシアに告げる。
「わかりました。あなたの『領主としての覚悟』が、
神気解放の条件のひとつで、間違いないでしょう」
「条件の…ひとつ…?」
「はい。今回の神気発露は僅かなものでした。
発動条件が『領主の覚悟』だけならば、もっと大規模あるいは劇的な奇跡になってもおかしくなかった。
例えば、連中が雷に打たれて全滅するとかね。
まさに天の怒り、神の雷鎚だ。
しかし、親子の会話だけという、小規模且つ静かに
終えた。
リンの力が、長い年月のなかで衰えていたという可能性もありますが、もうひとつふたつ、条件があると考えていいでしょう」
エリシアが少し躊躇する。
「しかし、それを確かめる術は……」
アルベルトが頭を振る。
「そう、ありません。実証実験できる話ではないし、
なにより、そんな力が必要になる事態なんて起きて
欲しくない。
あの子には、そんな力を使わずに、幸せに過ごして
もらいたい」
その言葉にエリシアは救われたような気がした。
うれしかった。
アルベルトが自分と同じ想いを抱いていた事が、
うれしかった。
「そうだ…、そうだよね…」
「…そうです…」
エリシアが、さりげなく目頭を押さえたが、
アルベルトはいつも通り、見て見ぬふりをした。
お読みいただきありがとうございました。
誘拐団捕縛編はこれで終了です。
この後は事後処理編をお届けします。
アルベルトがその知略で
捕縛された誘拐犯たちを更に追い詰めていきます。
少しでも「続き読んでもいいかな」と思って
いただけましたら大変嬉しいです。
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末永くお付き合い下さいませ。
次回、意図せずリンの神気を目撃した
ゴッヅ夫妻の出した答えを描きます
タイトル予告「ゴッヅ夫妻」




