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34.誘拐⑯〜事件の終焉

  ーーーー領主邸ーーーー


 ー子供たちを無事救出


 捕縛現場から複数地点を経由して伝えられた

発光信号に、領主邸司令部は歓喜に沸いた。


 部屋中に響く歓声のなか、エリシアが俯き、呟きを

繰り返していた。


「……よくぞ、…よくぞ…」


 身体が震え、頬を何かが伝い、落ちた。

 ハッとし、さりげなく顔を撫で、

 そして、机に落ちた数滴の雫を、

 誰にも見られぬまま、そっと拭った。


「ご両親に無事を知らせてくる。後を頼む」


 皆の笑顔に送られて、エリシアが部屋を出る。

 こんな軽やかな気分はいつ振りだろう。

 足取りが徐々に早くなる。

 歩き、早歩き、小走り、最後は全力で走り、

 ゴッヅ夫妻のいる部屋のドアを開けた。

 

 一瞬固まる夫妻が目に入った。

 期待、不安、焦燥、

 疲弊しきった顔がこちらに向く。


「…メリッサ嬢を救出しました。ご無事です」


 努めて明るい声を作ったつもりだった。

 少しうわずったかもしれない。


 夫妻は、暫し動かなかった。

 動けなかった。

 あらゆる感情が溢れ、

 処理が間に合わないようだった。

 目の焦点が、少しずつ合っていく。

 告げられた事実に、

 自分たちの感情に。


 焦点が一致した時、

 夫妻は抱き合い、 

 滂沱の涙を流した。




 エリシアは深々と一礼し、その安堵の泣き声を背に部屋を出ていった。

 



**********************




   ーーーー救出現場ーーーー



「奴らの身柄は、犯罪人引渡し条約に則り、貴国にお引渡し致します」


 アルベルトが檻を一瞥する。

 子供たちを閉じ込めていた檻。

 今は、あるじを誘拐団リーダーとメリッサを誘拐したハゲ頭に変え、堅固にその口を閉じている。


 リーダーは未だガタガタと震え、檻の隅で縮こまっている。

 ハゲ頭は応急処置を受け、麻酔で眠っている。


「ありがとう。私も名無しの『使者』じゃなく、

『秘密特使』の第4王子として国に凱旋できるよ」


「救出した子供20人と、前回と今回合わせて9人の悪党の連行。しかも御自ら犯人捕縛に出陣し、激闘の末に

2人を討ち、リーダーを捕縛。

 いやぁ、大英雄の誕生ですな。

 ところで、貴国は奴らをどのように?」


「事件の詳細と、他の事件に加担した連中を聞き出す。

 一連の誘拐事件の新しい情報や、他の犯人の捕縛に寄与すれば、減刑の余地はあるって伝えてね」


 ゼクスがこれにやや不満顔をする。


「……むぅ、それはまた随分と慈悲深い……」


 フリッツがクスッと笑う。


「弑逆未遂で斬首か縛り首のところ、罪一等を減じても、利き腕を落として鉱山送りだよ。

 並の男でも3年保たないといわれる場所だ。

 あとは推して知るべし、という事で、御両所にも納得して貰えないかな」


「ほう、それは痛快…いや失礼、これは貴国の専決事項でしたな。異論を挟むなど不敬千万じゃ、アルベルト、自重せんか」


 しれっとアルベルトに濡れ衣を着せるゼクスだが、当のアルベルトは思案顔だった。


「ん、どうした、反応が薄いの。わしの渾身の冗談

だったんじゃが」


「失礼。ひとつ考えている事がありまして。

 詳細は改めて殿下にご相談させていただきます」


 そう言って、アルベルトはそこを離れ、保護された

メリッサたちのもとに行った。


 

 メリッサは、保護された子供たちとともに、温かいミルクを飲んでいた。

 アルベルトの姿を認め、タタタッと駆け寄り、抱きついてきた。


「補佐さん…、ありがとう。来てくれて…ホントにうれしかった」


 メリッサの目線まで腰を落とし、頭を撫でる。


「メリッサ、君こそよくリンを守ってくれた。

 君はリンの恩人だ。リンからも、君のご両親からも、君を助けるよう頼まれた。

 君が無事でよかった。ご両親もすごく心配してたからきっと喜ぶよ」


 するとメリッサが、妙な事を話し始めた。


「うん、父ちゃんも母ちゃんも、私が心配で泣いてたけど、ケガしてないって言ったら、ちょっと安心したみたいだった」


「え?、ご両親と…話した…?」


「うん、父ちゃんと母ちゃんと、あと領主さまともお話したよ。領主さまが、絶対助けるって言ってくれて。あと、あたしのこと、メリッサ嬢って呼んでくれたんだ。なんか貴族のお姫様みたいで、照れちゃう」


  おかしい…

  何かおかしい…


「君はずっと…檻の中に閉じ込められていたんだよね…」


「うん、そうだけど、補佐さんが助けに来てくれるちょっと前に、なんか周りが光って、みんなの声が聞こえてきたんだ。お話もできたんだよ。不思議だよねえ。」


「…そう…なんだ…」


  奇妙な話だ。

  メリッサが極限状態で見た幻か…?

  いや、その可能性もあるが、

  メリッサと面識のないエリシアが

  出てくるのは不自然だ。

  何が起きた…?

  今は情報が足らない。

  エリシアとゴッヅ夫妻に

  聞いてみないと。


 難しい顔をしているアルベルトを、メリッサがキョトンとして見ていたが、すぐに出立の合図が鳴り、疑問を残したまま、皆が帰途についた。


 





 


 

 






 

お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回、リンの神気発露の条件が

おぼろげながら見えてきます。


タイトル予告「発露の条件」

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