33.誘拐⑮〜捕縛
ゼクスとフリッツの蹂躙劇が終焉を迎えた頃、
アルベルトはハゲ頭の男が対峙していた。
男はアルベルトの殺気に怖気を感じつつも、
一方で、まだ、ここを抜ければ生き延びられるという一縷の望みも抱いていた。
身体が震える。
だが、やるしかない。
短剣を握りしめ、
アルベルトに突進した。
突く!斬る!突く!突く!斬る!斬る!!
しゃにむにアルベルトを攻撃する。
しかし、当たらない。
捉えようとする全ての動作が躱される。
空振りは、見た目以上に体力を削ぐ。
数回の空振りで、相当ダメージを負った。
男はもう肩で息をしている。
一方のアルベルトに乱れはない。
依然、凄まじい殺気を纏い、剣を男に向けている。
「お〜い、青二才!まだ終わっとらんのか。
こっちは仕舞いじゃぞ」
男がゼクスの声にビクリとした。
振り向くと、ゼクスとフリッツがこちらにゆっくり向かってくる。
男は改めて恐怖した。
ダメだ。
あの化け物ふたりにはとても歯が立たない。
逆にそれが、男に疲労を忘れさせた。
窮鼠、猫を噛む
男の目に、凶暴な光がまた戻った。
「………」
アルベルトも、男の決死を認め、無言のまま、更に
気配を研ぎ澄ました。
「む、アルベルトめ。やる気か…」
ゼクスがボソッと呟く。
「アルベルト殿が、なにをすると?」
フリッツがゼクスに問う。
「まあ、見ていなされ。一合で決しますわ」
暫しの沈黙。
男がじりじりと間合いを詰める。
逆にアルベルトは詰めない、引かない。
依然として、剣を向けているだけ。
パキッ
男が小枝を踏んだ。
これが自分への合図になった。
「うおおおお!」
全力でアルベルトに突進し、短剣を突き出す。
呼応するようにアルベルトも男の横に回る。
すり抜け際、剣が瞬いた。
ヒュン!
ヒュンッ!
男の、剣を握る指が、飛ぶ。
支えを失い、剣が地に落ちた。
「あぁ?」
一瞬、何が起きたかわからない男。
アルベルトの方に振り向いた時、
更にアルベルトの剣が、男の顔を一閃した。
ザァッ!
振り抜かれた長剣が月を映し、鈍く光った。
「がぁっ!…目が…!目がぁー!」
男が、目の辺りを押さえ、悶え苦しんでいる。
アルベルトは、それを一瞥。
ふうっとため息を吐く、
纏っていた殺気が消えていく。
剣を鞘に収めて、ゼクスとフリッツのもとに歩いていった。
「お待たせしました」
ペコリと頭を下げるアルベルト。
「久し振りに見たぞ。『三つ指切り』」
「『三つ指切り』?」
フリッツが尋ねる。
「こやつは一時、騎士団付きの文官をしておりましてな。1年に満たん期間でしたが、わしのもとにおったんですわ。
生意気なヤツで、文官の分際で捕り物の現場に何度か同行し、実際に荒事にも参加しおった。
その時にやったのが『三つ指切り』です。
すれ違いざまに、相手の剣を持つ手の指を飛ばして戦闘不能にする。
結構な乱戦の渦中でも、間違っても致命傷にはならんので、生きたまま捕縛したい犯人の時は重宝しましたわい」
ゼクスはサラリと話しているが、フリッツは戦慄と興奮を覚えた。
自分もすれ違いざまに人を斬れる。
先ほども犯人の首を落とした。
だが、それができたのは、圧倒的に優位な状況
にあってこそだ。
生死を掛けるような戦場では、斬る場所に構っていられるはずがない。
とにかく、どこでもいいから、相手を斬る。
そうでなければ、自分が斬られる。
なのに彼は、乱戦の渦中で、相手の指だけを…
信じられない。
しかし、確かに彼はやって見せた。
1対1だった事を差し引いても、その技量には感服せざるを得ない。
アルベルトの底知れなさを、まざまざと見せられ、感じ入っていた。
「それにしても…」
ゼクスが少し声を落として、アルベルトに言う。
「……一太刀多かったな…」
アルベルトがやや顔を顰めた。
「私も、人の子…という事…です」
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かくして誘拐事件は無事解決した。
公式な事件記録にはこう記されている。
〃誘拐事件発生後、当都市テーゼは
領主エリシア・ベルベット指揮の下、
国境付近の検問を強化し、半封鎖状態に
するとともに、運送業組合と連携で調査を
開始した。
運送業組合は、その卓越した情報収集能力
と分析能力により、犯人の逃走ルートを
正確に予測。
運送業組合の情報を基に、救出作戦が立案
され、騎士団長以下総勢30名が救出予定地点
に布陣。
作戦決行当夜、救出予定地点に現れた誘拐団
を急襲。
誘拐された少女と、カーチス国内で攫われた
子供6人を無事救出した。
犯人との戦闘の結果、犯人6名のうち、
リーダー格の男と、少女誘拐の実行犯を
捕縛。
他4名は死亡した。
尚、捕縛には、カーチス国内で発生した
一連の誘拐事件捜査のため、秘密特使として
滞在中だった、カーチス国第4王子フリッツ・
ベルナール・フォン・カーチス殿下が参加。
誘拐団リーダーを捕縛するとともに、犯人
2人を討ち取った。
今回の広域誘拐事件解決にあたり、以下の
団体および人物を、特筆すべき多大な貢献が
あったものとして特記するとともに、正式
に記録に残すものとする。
緻密な分析で誘拐団逃走ルートを予測した
運送業組合
自ら誘拐団捕縛に同行、その武勇を
いかんなく発揮し、誘拐団リーダーを
はじめとする3人を捕縛または討った
フリッツ・ベルナール・フォン・カーチス
第4王子殿下〃
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次回タイトル予告「事件の終焉」




