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32.誘拐⑭〜蹂躙劇

 文字通りの『蹂躙劇』の開始です。

「さて、そろそろ始めようかの。

 ほれ、さっき馬車出せとか言うとったお前、

 お前がリーダーか?」


 ゼクスが、リーダー格の男をアゴでしゃくる。


「だ、だったらなんだってんだよ、ジジイ!」


 声もうわずり、腰も引けている。

 精一杯の虚勢か。

 フリッツが冷やかな侮蔑の笑みを浮かべた。


「…ということらしいので、あやつは殿下にお譲りしますわい」

「ご厚意、ありがたく受け取らせていただくよ」

「では、わしが2人、殿下が2人。これでよろしいか」

「異存はない。私がリーダーと左端の彼をもらうから、ゼクス殿は右の2人を頼むよ」

「承った」


 ゼクスが大剣をゆっくり頭上に掲げる。

 月を背にして、大剣を天に捧ぐシルエット。

 それは猛将が猛将たる威光に映った。


 誰もが目を奪われる。

 敵さえも。


 次の一瞬で大剣を振り下ろした。


 ズシャァッ!


 地を揺らし、大剣が突き刺さる。


「さあ、ゆくぞ。これほど慈悲の必要を感じぬ輩は

久し振りじゃわい」


 獰猛な嗤いをたたえながら、大剣を掴む。

 片手で引き抜き、そのまま引きずって、

 的になった一人に近づいていく。


「…か、か、か…、勘弁…して…」

 男がガタガタ震えながら懇願する。


「お?なに言っとるんじゃ、今さら」

 ゼクスがキョトンとした顔で応じる。


「お前らの仲間が、さっき短剣抜いて突っかかってきよったろう。首飛ばされおったが。

 突っかかった相手は、カーチスの第4王子殿下じゃぞ。その場で討ち取られるに決まっとろう。

 いやぁ、いくらわしでも、隣国の王子殿下に剣を向けた連中を見逃したとあっては、怠慢が過ぎようって、厳罰モンよ。ムリじゃ、ムリじゃ」


 男たちにざわめきが走った。

「お、王子…?」

「…第4王子…?、なんでココに…?」


「なんじゃい、お前ら、カーチスの出じゃろう。自国の王子の顔も知らんのか。

 …まあ、知らなかったで済む問題でもないがな」


 男の肩に手をやり、剣を肩に担ぎ上げる。 


「わしは常々忠勤を旨としとってな。  

 真面目なわしは王子殿下の威光には逆らえん。 

 そんなわけで諦めてくれや」


「…そ、そ、そんな……」


 ゼクスが顔をずいっと男の顔に近づけ、小さく呟く。


「お前らが売り払った子供と、その親の悲しみに比べたら、お前の嘆きなんぞーー」


 大剣が肩の上から跳ねる。


「まだまだ軽すぎるわ!!」


 次の瞬間、振り下ろされた大剣が男の左肩から

袈裟懸けに入った。

 男は左肩から右横腹までを斬られた……

 というより、消し飛ばされ、

 さっきまで人間だったその歪つな塊は、

 軽すぎると罵られた嘆きを吹き出しながら

 ずしゃり、と倒れ、地を濡らした。



「ひい!」

「か、身体が…消し飛ん…だ…?」

「………」


 怯え震える者、唖然とする者、

 男たちの反応はさまざまだった。

 心が折られ、仲間の身体とともに、

 逃げる気力さえも消し飛ばされたようだった。

 


「『武神の一閃』…。相変わらず凄い威力だ」

 フリッツが呆れたように、首を横に振る。

 

 ゼクスの剣は『剛』。

 その凄まじい腕力から繰り出される衝撃で、

 対象全てを“破壊“する。

 斬るというより、殴るという表現がより近い。

 一方、フリッツの剣は『柔』。

 速度に特化し、且つその力を一点に集中させ、

 切断力を最大限発揮する。

 自分とは真逆の剣。

 羨望はないが敬意を払おう。



「と、投降する!お、俺ぁ投降するぜ!

 おとなしく捕まる!…だから法の保護をーー」


 フリッツを前にした男が、顔を引き攣らせ

助命を乞うた。


 フリッツが顎を撫でながら思案顔になる。


「う〜ん、法の保護か。確かに法に照らせば、

誘拐は鉱山送りかな」


 ウンウン、と青ざめた顔で頷く男。

 チラリと男を見てフリッツが続けた。

 

「でも、君たち、私に斬り掛かったじゃないか。

これも法に照らすとね…、弑逆未遂になるんだよ」


「…へ…?」


「私は王位継承権では4番目だ。

自分でも王位に就こうなんて考えていないし、

周囲も期待していない。

 気張らず、常に寛容に、皆と接してきた。

 しかしね、そうすると困った事に、軽く見てくる連中もいるんだ。

 第4王子は甘い、とね。

 ここで弑逆未遂の犯人にも温情をかけたとあっては、陛下や兄弟達からも呆れられるし、連中が更に頭に乗るだろう?

 そういう連中にさーー」


 瞬時にフリッツが男の横をすり抜けた。

 手の剣が翻る。


 ズズズッと、

 男の首が、少しずつズレていく。

 男の手が、あがくように動いた。

 首を押さえようと、

 あるべき場所に戻そうと。

 しかし、そこにはもう何もない。

 虚空を弄りながら、男の身体が崩れ落ちた。



 剣を鞘に収め、フリッツが呟いた。


「侮られるわけにはいかないんだ」



**********************



 フリッツの前にはリーダー格の男。

 ゼクスの前にはもう一人。

 

 ゼクスの前の男が、膝をついてゼクスに喚く。


「お、俺ぁ、この街で子供攫った!

 こ、この街の法で裁いてくれや!

 これならスジが通ってんだろ!

 なぁ騎士団のダンナ!」


 ゼクスがギロリと男を睨む。

「ほう…、お前があの娘を…?」


 男が下卑た嗤いを浮かべ頷く。

「ああ、そうだ。

 攫ったのは別のやつだが、俺も一緒にいた。

 潔く、この街で罰を受ける。

 この街の法で罪を償わせてくれや」


 ゼクスが、さっきとは打って変わって、感心したような顔で男に言う。 


「おうおう、殊勝な心掛けよ。無頼の輩も、自分の犯す法は一応調べるらしい。

 確かにこの街の法では、誘拐は奴隷落ちじゃが、子供の救出されたり、自首すれば、減刑される場合もあるな」


 男がコクコクと頷き、弁を振るう。


「あぁ、そうだ。子供はアンタらが助け出したし、俺も自首するんだ。何の問題もねぇだろ」


 ゼクスが男の前にかがみ込んで、シワだらけの顔をさらにシワシワにして笑顔を作った。


「わしゃ、この前、“じいじ”になってな。

 かわいい子なんじゃ。

 高い高いしてやると、きゃっきゃ言うて喜びおってな」


 まるで孫との戯れを思い出している祖父。

 まさにそんな印象。

 …何だ…こんな時に…?

 男はそう思うが、軽薄に追従した。


「へへっ、そりゃあ、おめでとさんで…」


 次の瞬間、その男の首をゼクスの大きな手が掴んだ。


「…あ…、が…」


「その子を、お前らから必死に守ってくれたのが、あの娘じゃ」


 ゼクスの手が、ギリギリと男の首を締め上げる。


「その子が言うとったそうじゃ。

 あの娘に守ってもらった、お願い、助けてあげてって、泣きながら…のう…」


 ゼクスが立ち上がった。

 男も首を掴まれたままの格好で、つま先立ちになる。


「“孫“にそんな想いさせた輩を、”じいじ”が許すわけないじゃろ。

 …ほう、投降する言うとったが、まだ帯剣しとるわ。これゃ、投降の意思なし、と考えざるを得んのう」


 この言葉を聞いて、男が悶えながら顔を横に振って、剣を捨てようと、震える手で剣に手を伸ばした

 

「……手を掛けおったな、剣に」


 ゼクスがまたあの獰猛な笑みを浮かべる。


「殿下、ご覧になられたか。他の者も見たな。

こやつ、剣に手を掛けおったぞ」


 そう言って、男をさらに上へと締め上げる。

 男のつま先が地を離れ、首を支点に宙に浮く。


「剣に手を掛ければ、抵抗の意思ありと見做し、その場での処断も認められとる。

 どうせ貴様らは悔い改めなんぞせんのじゃろ。

 せいぜい苦しんで、あの世に行けや」


 ギリッ、ギリッとゼクスの手にまた力が加わる。

 男は激しくもがいた。

 手足をバタバタとさせ、何とか首にかかる手から逃れたようと、ゼクスの腕を殴ったり、手を掻きむしったりもした。

 しかし、次第に動きがなくなる。

 暫しの身悶えの後にその動きも途絶え、ダラリとぶら下がる、それだけの物体になった。


 それをリーダー格の男の足元に投げつける。

「ひぃっ!」

 男が飛び退いて、仲間の成れの果てを避けた。

 涙と鼻水だらけの顔になって、震えながら、

ゼクスを、フリッツを、交互に見て、その場にへたり込んだ。



「捕縛完了…かな」


 ゼクスとフリッツが、静かに男に向き合った。




 





 


 

 

 


 

お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。


末永くお付き合い下さいませ。


次回、アルベルトと、メリッサ誘拐犯との

対決を描きます。


タイトル予告「捕縛」

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