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29.誘拐⑪〜救出

 本日2話目です。

 月明かりのもと、馬車が疾走する。


 日が落ちてから、軽い休みを入れながらも、

かなりの時間走っている。


「おう、今、どの辺走ってる?」

 馭者席の男の問いに、リーダー格の男が地図を見ながら答える。

「今、左に見える池が、ちょうど2/3を過ぎたっていう目印らしいぜ。あと残り1/3だ」 


「んじゃ、このまま行けば、夜明け前にリヒテンラーデに辿り着くな」

「ああ、この地図のおかげだ。いいモンくれたぜ、あのヒゲ面」


 連中は皆安心しきっていた。


 昨日までは、マヌケどもが捕まったせいで

 苦悩の連続だった。

 街中は騎士団の巡回が増え、ガキどもを積んだ

 まま、馬車を引いて歩くわけにもいかん。

 国境付近は厳重な検問。突破は無理だ。

 完全に手詰まりと思った矢先に、思いがけない

 情報ネタを手に入れ、文字通りの“抜け道”を見つけた。


 どうやってこの街を出るか、悩んでいたのが

 バカらしく思えるほどの簡単さ。

 それなりに整備された“裏道“を、地図に沿って 

 走ればいいだけ。


 あとはリヒテンラーデに入って、ガキどもを

 カネに変えたら、そこで手仕舞い。

 てんでバラバラに散りゃあ、追手なんかに

 見つかるわけもない。

 あとは、ほとぼりが冷めるのをのんびり

 待てばいい。



 皆がそう考え、自分たちの強運に上機嫌だった。



 しかし、その時ーーー



「ああ?!や、やべえ!!」

 馭者が叫び声を上げ、馬を急停止させた。


 ガガガガガガ!


「うわぁ!!」

「な、なんだ!!」

 

 馬車が止まった。



「……いててて…」

「…いってぇ…」


 男たちは、反動であちこちにぶつかった腕や頭を押さえながら、馭者席に来る。


「…おお、痛え、クソ。おい、なんだってんだよ、急に止まりやがって」


「し、仕方ねえだろ、アレ見ろよ」

「あぁ?」


 馭者に示された前方。


 木が数本倒れ、道を塞いていた。


「おいおい。なんだよ、ありゃ。ウソだろ」

「なんでぃ、通れねぇじゃねぇか。どうすんだよ、引き返すのか?」

「なんだよ、ココまで来たってのによぉ」

「どうすんだ、コレ…」

「オレが知るか!クソっ」


 狼狽する男たち。

 協調性もない、組織的繋がりもない、

 所詮は自分本位のただの寄せ集めたち。

 自分だけは楽にこの場を凌ぎたい。

 結果、ああでもない、こうでもないと、

 堂々巡りの口論が始まった。


 当然、適切な提案など出るはずもない。


 そんな男たちに、苛立ちを見せながら、リーダー格の男が一喝する。


「バカヤロウ、こんなところでモタモタしてられるか!何のためにここまで来たと思ってやがる!

 木をどける。それしかねぇだろうが!」

「ああ?…マジかよ…」

「しょうがねぇだろ!ほら、とっとと降りろ。男6人でやりゃあ、なんとかなんだろ」

「チッ、しゃあねえ、やるか〜」

「あ〜あ、こんな夜中に力仕事かよ…」


 口々に愚痴を言いながら、全員が倒れた木に群がる。


「結構デカイぜ」

「なぁに、別に運び出すわけじゃねぇ。少し横にどけりゃイイんだ。ほれ、コレからいくぞ」


 男たち全員が倒木の除去を始めた。



 馬車の周りは無人。





 それを見計らうように、影が走った。




 *********************




 メリッサは、最初は何が起きたのかわからなかった。


 馬車が急に止まった時は、もしや助けが、とも思った。

 だか、男たちが「木が倒れてる」と口々に文句を言っているのを聞き、また落胆した。


「違った…」


 男たちがいなくなった。


 馬車の中は静かだった。

 少し遠くで、奴らの声がしているだけ。

 子供たちも、疲弊しきって、誰も喋らない。

 静寂だけが過ぎていく。


 

 その時、スッと影がふたつ、馬車に忍び込みように入ってきた。


「…え?なに…?」


 影がそのまま、檻の前に立つ。



 影のひとつが、口に人差し指をやり、

シィっと、沈黙を合図した。


 もうひとつが、檻の鍵の前にかがみ込む。




「…メリッサ、よくがんばったね」


 小さな囁き。


 でも、聞き覚えのある声。



 メリッサは混乱した。


 落胆、恐怖、希望、これまでの出来事、いろいろなものが、頭の中で交差し、交じり合う。


 でも……、父ちゃんと母ちゃんが言ってくれた

 

 領主さまも…約束してくれた…


 絶対に助け出すと


 必ず助け出すと


 その約束を…守るために……


 ホントに…来てくれた……?



 …カチャッ


 檻の鍵が、小さな断末魔を上げて

 床に落ちた。



 檻が開かれ、影がメリッサに手を伸ばす。


 そのまま、メリッサの頭を優しく撫でた。




 影が、少しずつ実像を結ぶ。



 よく知ってる顔…


 お店のお得意さま…


 父ちゃん母ちゃんの知り合い…


 リンちゃんの保護者…




「……補佐…さ…ん…?」



 涙が溢れかえるメリッサに、

 アルベルトが優しく微笑んだ。



「迎えに来たよ」




 

 

 


お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。

今後の励みになります。


末永くお付き合い下さいませ。


次回、事件の経過を見つめる

別な視点のお話。


タイトル予告「エヴァと運送業組合長ベン」

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