26.事後処理⑤〜有益な情報
アルベルトとフリッツは、次にハゲ頭の男のもとに向かった。
男は捕縛の際に負傷しており、一応の医療設備がある独房に収監されている。
そこまでの道すがら、フリッツはアルベルトに興味津々といった感じだった。
この男は次に何を仕掛けるのか
どんな奇策を使うつもりなのか
先ほどの銅貨は、尋問官に渡しており、
今は手ぶらだ
書記官も同行していない
どうするつもりなのか
アルベルトには、特に視線を気にする素振りはない。
フリッツの興味と疑問の視線を浴びながら、
建物の前に着いた時、ようやく答えらしきものを
口にした。
「私はあの男にいくつか話をするつもりです。
つきましては、殿下にお願いがございます。
私は、殿下がここに居られる事を伏せたまま、男と話をします。
男は包帯をしており、何も見えませんので、殿下は一切喋らず、静かにご覧になっていて下さい。
そして最後に、私の話の真偽を殿下にお尋ねします。
そのタイミングで私の話を肯定していただきたいのです」
「何も喋らず、静かに…?」
「はい、私が男に話す内容は、殿下にとっても意外なものかも知れませんが、賛同も異議も唱えず、ただ悠然とお聞き下さい。
そして、最後に、私の話が事実であると、男に告げて下さいますようお願い致します」
フリッツには、アルベルトが何をしようとしているのか、見当もつかない。
ただ、フリッツの興味は一点のみ。
”今度はどんな魔法を使って奴らを追い詰めるのか”
それ以外は全て些事に過ぎなかった。
「いいだろう、了解した」
アルベルトは黙して一礼し、建物の入口をくぐった。
**********************
アルベルトは、独房手前に椅子を置き、男に気づかれぬよう、無言でフリッツに着座を促し、自分は独房前に進み、椅子を置いた。
男は、右手と目に包帯を巻いていたため、誰が来たのかわからなかった。
アルベルトから、自分を斬った相手だと告げられてようやく理解し、敵愾心を剥き出しにして喚いた。
「ケッ!テメエなんぞに話す事ぁ何もねぇ!」
しかしアルベルトは、男の苛立ちを気にする素振りもなく、静かに椅子に座り、口を開く。
「私は、君から誘拐事件に加担した連中の情報を聞き出したくて来たわけじゃない。
その逆だ。私は君に情報を提供するために、ここに来た」
アルベルトの意外な申し出に、男は毒気を抜かれ、怒気が急速に萎んだ。
「な、何を言ってんだ、テメエ……」
「言葉通りだ。私は君に情報を提供しに来た。
やり方次第で君には有益な情報になるはずだ。
まず、君個人の事をいくつか聞かせてもらいたい。
それが済めば情報を提供する」
「やっぱり俺からーーー」
「ーーあくまで君個人の事だ。君の知るご同輩の
情報じゃない。
私は、君に仲間を売れとは言わない。
君が自分から話すのでなければ、その話題には触れないよ」
男には、アルベルトの言っている意味が、全く理解できなかった。
同じ犯罪を踏んだ連中の情報は
いらない?
俺個人の事だけ教えろ?、
逆に俺に情報を渡しに来た?
何を狙ってんだ、コイツは?
男の戸惑いを意に介さず、淡々と話を続ける。
「私はこのテーゼの執政官補佐を務めている。
君らが起こした誘拐事件は私が解決した。
君らの身柄の引渡しも私が決めた。
事件の報告書を仕上げたら、私の仕事は終わりだ。
カーチスに君らの身柄を引き渡した以上、我々に捜査する権限も、意義もない。
だから誘拐団の残党の情報は不要なんだ」
「……じゃあ、俺の情報が聞きたいってのは……」
「報告書を仕上げるためだよ。直接の実行犯の欄が空白というわけにはいかない。そこを埋められればそれでいい」
一応、スジは通ってる。
男はそう思った。
しかし、もうひとつの『自分に情報を提供する』という真意は見えてこない。
「俺の事が聞きてえって理由はわかった。話してやってもいい。
だが、俺に情報を提供するってのは、やっぱり意味がわからねえ。俺にオイシイ情報を渡して、テメエに何の得がある?」
男の態度の軟化は明らかだった。
しかしアルベルトは、それにすら関心なさげに
淡々と言葉を続ける。
「わからなくて当然だ。これは私の性分、とでも言えばいいのか」
「なんだよ、それ。やっぱ意味がわかんねえ」
「私の性分なんだよ。わからんだろうがね。
まず、私の仕事を終わらせて貰えるかな。
君の話を聞いて、次に情報を渡す。それでいいだろう?」
**********************
男は一応の納得をした様子で、聴取はそれなりにスムーズに進んだ。
名前、年齢、生い立ち、今回の事件の動機…
アルベルトは手早く聴取内容を書き留める。
「ーーつまり、君は今回が初めての参加……だったと……」
「ああ、ガキは捕まえんのは簡単だし、実入りもそれなりにデケェって聞いてよ。楽な仕事だって誘われたんだ」
「……子供は弱いからな……」
「子供も大人も関係ねえ。弱えヤツらは強えヤツの食いモンにされる。それが当然だろ。自然の摂理ってヤツさ。弱えのが悪いんだよ」
「……ふむ、なるほど……な……」
「ところが、国元で騒ぎがデカくなって、こりゃヤベェって、十分にガキ集められねえまま国を出るハメになっちまった。
俺らは、この街で何匹か調達するつもりだったが、別のヤツらがアンタらに捕まっちまって、身動きが取れなくなった。
俺ァ、国出た時はボウズでよ。このままじゃ分け前がほとんどねえってところで、あのクソガキと出っくわしたんだ。
もっけの幸いと攫ったら、ハッ、このザマさ」
「……うん、いいだろう……」
アルベルトがここまで書き留めて、紙を折りたたみ、懐に入れた。
「ありがとう、聴取は終了だ」
「ふうっ、やっと終わったかい。それじゃ今度はアンタが約束を守る番だな」
「いいだろう、君に情報を提供しよう」
アルベルトが少し前のめりになり、男に語りかける。
「私は執政官補佐として、法を運用し、人に法を守らせる立場にある。当然、自分も法を遵守している。
君は法の外側の住人だから、理解し難いかもしれないがね」
「へッ、確かにな」
「まず、君がここで犯した罪を整理してみよう。
君は少女を売り払う目的で誘拐した。これは明白な事実だ。異議はないね」
「ああ、間違いねえ、テメエに捕まったがよ」
皮肉めいた口調で認めた。
アルベルトが一拍置いて問うた。
「では、フリッツ第4王子への弑逆未遂はどうかな」
男は途端に顔を顰めた。
湧き上がる苛立ちが見て取れる。
憤懣やる方ないといった表情で、苦々しく毒を吐いた。
「あのマヌケどものせいだよ!
ヤツらが王子に剣なんか向けやがって!
おかげでこちとら巻き添え食らって、いいツラ
の皮だぜ!あのクソ野郎ども!」
アルベルトがここで手を叩いた。
パンッ!
男がこの音にビクッと反応する。
「……お、おい……なんだよ、急に……?」
アルベルトが、男にずいっと近づく。
男には見えないが、気配は感じたようだ。
「それだよ、私が君に提供しようと思っている情報は」
「……はあ?……」
男には、アルベルトの表情は見えない。
どんな顔でその言葉を口にしたか、
見えていなかった。
ただ、その言葉は、
あまりに意外で、
あまりに衝撃的で、
あまりに魅惑的だった
アルベルトは、静かにこう言った。
「君は弑逆未遂を、犯してはいない」
お読みいただきありがとうございました。
少しでも「続き読んでもいいかな」と思って
いただけましたら大変嬉しいです。
今後の励みになりますので、よろしければお気持ちの分だけ☆をいただけますでしょうか。
できましたら、ブックマークもしていただけると嬉しいです。
末永くお付き合い下さいませ。




