表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/77

27.誘拐⑨〜神気発露

 領主邸の一室で待機しているゴッヅ夫妻。


 彼らのもとに、エリシアとリンが現れた。


「おじちゃん、おばちゃん…」

 ふたりに駆け寄るリン。

「あぁ、リンちゃん」

 アンナがリンを抱きかかえる。

「おばちゃん…ごめんなさい…ごめんなさい…

わたしのせいで…ごめんなさい…」

 泣きながらそう繰り返すリン。


 その頭を優しく撫でながらアンナが言う。

「気にすんじゃないよ。リンちゃんが無事で、あの子もきっと喜んでるよ。

 逆に、あんたが一緒に攫われたら、あの子は死ぬほど後悔してるよ。お姉ちゃん失格だってねぇ……」

 ゴッヅもうんうんと頷く。

「…そうだぜ、アイツは前っから、妹が欲しいって言ってやがってな…。俺らを困らせたモンさ…。

 でもなぁ……、アイツは立派にお姉ちゃんになった。こんなかわいい妹を…しっかり守ってなぁ……」


 エリシアがこの光景を見つめる。

 見つめながら思う。

 

  優しい人たちだ。

  娘を攫われても、それでもなお

  リンを本気で気遣っている。

  私は…領主だ。

  この善良な人たちを守る責を負い

  子供たちを無事救出する義務を負う。


 心のなかで、徐々に感情が昂ぶっていく。


  父が亡くなり、跡を継いで数ヶ月。

  就任した時から、領主としての覚悟はしていた。

  しているつもりだった。


  だが、違った。


  本当の意味で、自分は覚悟をしていなかった。

 

  今になって、ようやくわかった。

 

  無辜の民を守る。


  これが、領主の、領主たる”覚悟“だ。


  私は…領主だ!

  必ず、救出を成功させる!

  この人たちを、絶対に悲しませたりしない!


 エリシアは、心のなかで雄叫びを上げた。


 ゴッヅも、アンナも、気づかない雄叫び。


 ただ、リンだけが、ハッとして、エリシアを見つめた。






**********************






 日が落ち、夕闇が街を覆う。


「……いよいよ…かい…?」

 アンナが振り絞るような声で、エリシアに問う。

「はい。奴らは昼の間にある程度距離を稼ぎ、夜に乗じて一気にこの街を抜けるつもりです。本格的に動き出しているでしょう」


 アンナがゴッヅの腕にしがみつく。

「…アンタぁ……」

「おぅ…、大丈夫さ、領主様はじめ、たくさんの騎士さんが動いてくれてんだ。無事に帰ってくるさ」

「……無事…なのかねぇ……」

「バ、バカヤロ!当たり前じゃねえか!縁起でもねぇ事言うんじゃねぇ!

 ……無事だ、きっとよ、無事に決まってらぁ…」


 ふたりはグシグシと涙を拭う。


 見ているのさえ辛い。

 エリシアが目を伏せる。



 沈痛な面持ちでアンナが呟いた。

「…せめて、せめて…声だけでも…聞けたらねぇ」

「…ああ、アイツの…無事な…声だけでも……、

 聞きてぇな……」


 ふたりのしゃくりあげる泣き声。


 エリシアは、ふたりの心痛を思い、たまらなくなる。

 たまらなくなって、

 先ほどの、声にしなかった”覚悟”を叫ぶ。


 心のなかで誓った、“領主としての覚悟“を。


「我々が必ずや、メリッサ嬢を無事に救出してみせます!

 あなた方のもとに、必ず無事にお連れしてみせます!

 それが、私の、領主としての使命です!」


 

 部屋に響くエリシアの叫び。



 それと同時に、

 リンの身体が、やわらかい光に包まれた。


 静かで、暖かで、慈愛に満ちた光。


 エリシアも、ゴッヅも、アンナも、驚きのあまり、

身動きができない。


 ただただ、リンを見つめる。


「…リン…?」


 エリシアが、辛うじて口を開いた。


 その声に呼応するように、リンの瞼がゆっくりと開いていく。


 それを見ながら、エリシアは感じ取る。


  違う…

  いつものリンじゃない…

  顔つきも

  纏う雰囲気も

  全く違う…


  これが……神気か 


 リンが口を開く。

 声は同じ。

 だが、口調は違った。


「領主の”覚悟”、確かに聞きました。

 愛し子の声を、あなた方に届けましょう。

 語りかけてあげて下さい」


 周囲の音が消えた。


 いや、全ての音が消えたわけではない。


 エリシア・ゴッヅ・アンナを包むように

 光の空間が広がり、その外の音が消えているのだ。

 

「……え…?」

 ゴッヅもアンナも理解できない。

 何が起きているのか、どういうことなのか。

 全くわからない。


 ただ、リンの声に導かれるように、

 ここにはいない娘の名を呼んだ。


「…メリッサ…」


 刹那の後、

「……父ちゃん!?」


 3人の耳に声が届いた。

 間違いようがない、焦がれ続けた娘の声。


「メ、メリッサか!?」

「ほ、本当にメリッサ…メリッサなのかい!?」


「父ちゃん!母ちゃん!」


 メリッサの声に涙が混じり、ゴッヅ夫妻も涙声に変わる。


「父ちゃん、母ちゃん……」

「メリッサ!おめえ無事か?ケガしてねえか?」

「うん…、打ち身とか…身体は痛いけど…大丈夫だよ……」

「…そうかい…、よかった…本当によかったよ…」


 両親が待ち焦がれた子供の声。

 子供も、本当は心細くて仕方なかっただろう。

 両親の声を聞けて、少しは安心しただろうか。


 ふと、メリッサの声に影が落ちる。


「父ちゃん、母ちゃん…あたし、これから…どうなっちゃう…のかな…?」

 

 親の声を聞けても、やはり不安か。

 それも当然だ。

 攫われて、どこかに売られようとしているのは、子供なりにわかっているのだろう。


「メリッサ嬢、エリシアだ。あなたを今夜救出する。

安心して欲しい」


「…え?…領主…さま…?」


「そうだ、あなたのご両親と一緒にいる。

 今夜、ゼクス騎士団長指揮のもと、救出作戦を実行する。もう少しの辛抱だ」


「…ホントに…帰れる…の…?」


「もちろんだ。ご両親に誓った。必ずあなたを無事に救い出すと」

 

 ここまで話した時、エリシアは、光が薄まってきているのを感じた。

 

 時間切れ…?ここまでか…


「もう、時間的に限界のようです。ご両親、最後に

お嬢さんに声を掛けてあげて下さい」


「メリッサ!もう少しの辛抱だ、待ってろよ!」

「メリッサ〜!」


 光が消える。


 音が再び戻った。


 リンの放っていた光も消え…

 リンが崩れるように倒れ込んだ。


「リ、リン!」

 エリシアがリンを抱き抱える。


 息は…ある。

 眠っている…のか?


「…リンちゃん…」

「リンちゃん……あんた……」

 夫妻が、戸惑いながら、リンの名を呼ぶ。


 エリシアがリンを抱き抱えたまま、ふたりに向き合った。


「すまない、今は詳しい説明はできない。

 ご容赦願いたい。

 リンを別室で休ませたいので、一旦失礼する」


 ふたりの視線を背に感じながら、エリシアはリンを

抱き抱え、急ぎ部屋を出た。

 

 

 


 




 

 


 

 

 

お読みいただきありがとうございました。


少しでも「続き読んでもいいかな」と思って

いただけましたら大変嬉しいです。


次回、メリッサの視点とエリシアの独白

をお届けします


タイトル予告「メリッサの希望・エリシアの希望」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ