26.誘拐⑧〜出陣
本日2話目。
救出作戦始動です。
ーーーー騎士団本部ーーーー
「フリッツ殿下が、同行を希望しているじゃと?!」
部下とフリッツの従者が連れ立っての報告に、仰天するゼクス。
「はい。危険は厭わぬ、ぜひに、とのことで」
「ならん、ならん!ダメに決まっとろう!」
しかし従者は引き下がらない。ゼクスも引かない。
「ご懸念は理解は致しますが、殿下は王立学院では、剣術で4番の席次。在野の犯罪者如きに後れを取るとは思えませぬ。ご再考を」
「認められん!同行を主張するだけでも、ヘタすりゃ内政干渉の誹りを免れんぞ!そんな事を殿下にさせるつもりか!」
「そこを曲げてーーお願い申す!」
「くどい!!」
堂々巡りの口論。
それに楔を打ったのはアルベルトだった。
「−−要するに、内政干渉と批判される危険を冒してでも、参加しなければならぬ理由が、殿下にはお有りと」
アルベルトが、静かに、だが鋭く斬り込んだ。
「ならば、その理由をお聞かせいただきたい。
そうでなければ、我が騎士団長も首を縦には振れません」
「そ、それは……」
言葉を濁し、逡巡する従者。
話が進まない、と結論が謝絶に傾いた時、
「すまなかった、私から説明させてもらうよ」
フリッツが部屋に入ってきて、にこやかに結論を制した。
部下と従者を退席させ、団長室には、ゼクス・アルベルト・フリッツの3人となった。
フリッツが口火を切る。
「まずひとつはっきりさせておこう。
私は王位を継承するつもりは全くない。
3人の兄のいずれかがその座に就いて、国が安寧
であれば、それでいいんだ」
アルベルトが応じる。
その指摘はまさにフリッツの行動の核心部分だった。
「つまり殿下は、王を産み、王を育てる立場にありたいと」
フリッツの整った眉が僅かに動いた。
たったこれだけの情報で自分の思惑の根幹を握るとは……
畏怖の念を覚えつつも、動揺を見せないよう細心の注意を払い言葉を選ぶ。
「それは過大な評価だね。王は産むが、育てるまでの世話は焼けない。逆に国政には関わらないよ。
”手を出させない”程度の力を持って、のんびり暮らすさ」
「なるほど……」
再びアルベルトがフリッツに向う。
「今回の『使者』派遣は、殿下自身の差配ですね」
やわらかい笑みを浮かべるフリッツ。
「どうしてそう思うのかな」
アルベルトが続ける。
「殿下の『使者』というお立場が不自然でした。
捕縛された犯人を連れて戻っても、ただの護送
に過ぎない。
救出された犯人を連れ帰っても、凱旋と呼ぶには
物足りない。
率直に申し上げて、王子のすべき役目ではない。
おそらく貴国では、殿下がここにいる事さえ伏せられているでしょう。
一方で、誘拐団が複数存在する事、国から出たであろう事はある程度把握していた。故にこの都市に潜伏している可能性は高い。
当初は、秘密裏に我々と手を組み、連中を狩るつもりだった。
成功すれば、あなたは子供たちを救った『英雄』として凱旋する。民の信頼は絶大なものになり、後々の大きな力となる。
我々が協力を拒否、または捜索失敗に終われば、あなたは『使者』のまま帰国する。非公式な肩書だから傷は負わない。
今回は不幸にも事件が起きてしまったが、これは、我々と協力して犯人を狩り、子供たちを救出するという、あなたの思惑の延長線上にある。
故に、是が非でも同行したい。そういう事ですね」
アルベルトの弁が終わる。
暫しの沈黙が続く。
それを破ったのはフリッツ。
ほぉっとため息をひとつ吐き、拍手を送る。
「驚いたよ、ここまで読み切るとは。見事な洞察だよ、アルベルト殿。あなたの言う通りだ」
フリッツが立ち上がり、アルベルトとゼクスに頭を
下げた。
非公式とはいえ王族が頭を……
驚くふたりにフリッツが続ける。
「私心がないとは言わない。だが、子供たちの救出を
第一としている事に偽りはない。
どうか同行を許していただきたい」
ゼクスが立ち上がって腕組みし、アルベルトに振る。
「どうする?執政官補佐」
「……青二才…じゃないんですね」
苦笑混じりにアルベルトも立ち上がる。
「ご同行いただきましょう」
この言葉に、フリッツはホッとし、
ゼクスは無言で頷く。
「内政的には、隣国の王族と協力しての、悪党捕縛と
子供たちの救出劇。
外交的には、後の隣国の”影の王“となられる方
との頑強な関係性構築。
いずれもテーゼには大きなメリットとなります」
「ありがとう」
感謝の意を示すフリッツ。
「よかろう。ではすぐに出立するぞ、青二才ども、
ハッハッハ」
豪快に笑うゼクス。
「青二才が復活して、複数形になりましたね」
やれやれといった感じのアルベルト。
部屋を出るまでは三者三様。
「さあ、鬼退治じゃ!!」
しかし、部屋を出た後は、
3人とも、“鬼“の目をしていた。
お読みいただきありがとうございました。
少しでも「続き読んでもいいかな」と思って
いただけましたら大変嬉しいです。
末永くお付き合い下さいませ。
次回、エリシアの覚悟が小さな奇跡を
呼びます。
タイトル予告「神気発露」




