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ある執政官補佐の肖像〜騎士団員

【騎士団員】


 アルベルト様が騎士団付き文官だった頃の話か…。


 まあ、一言で言うとさ…、アリャ『伝説』だよ。


 あのヒトが騎士団付きになったのは…、確か27.28くらいの時かな。

 1年程ココにいたよ。


 俺たちのこと、事件がなきゃアイツらヒマだろって思ってる人も多いかもしれねえけどさ、いやいや、そんなことねえんだって。

 定例巡回とか、国境警備とか、検問所とか、いろいろあんだぜ。

 それを持ち回りで担当しながら、訓練があってな。

 そんで、なんか事件があったら捜査に駆り出される。

 非番だっていってもよ、休みなんてあってないようなもんだわ。

 

 そうするとさ、やっぱり生まれるもんなのよ、偏りだとか、不公平感っていうか、そのあたりの不満がな。


 軍隊ほどじゃねえが、やっぱり命令系統や上下関係って厳しいよ。

 そうなると、下のモンってなかなか上に言い出しづらいわな。


 あのヒトがココ来て、まずやったのがそこだ。


 勤務シフトの整理。


 まずな、勤務状況の数値化して、それが月単位でみんなほとんど同じになるように設計したんだよ。

 ほら、平日は1ポイントにして、週末は2ポイント、夜勤は3ポイントってな。

 これをひと月分紙に書いて貼っとくんだ。


 一目瞭然だよ。不満なんか出やしない。


 全員が均等とはさすがにムリだけど、変にワリを食う奴もいない。

 これまではさ、頼みやすい奴に勤務変わってもらうって、結構あってさ。知らない間にソイツだけワリ食うって、見えてなかったんだよ。


 

 それから、部隊ごとに動くトコには「パターン(循環)型」ローテーションを作ったな。


 あらかじめ「日勤 → 日勤 → 夜勤 → 明け → 休み」って固定の循環サイクルを作っておいて、それぞれの部隊に割り当てて回すんだ。

 これなら全員が同じサイクルを通るだろ。

 文句の出ようがないよな。


 でその後、


 あのヒトはそれを強制しなかった。


 俺達に選ばせたんだよ。



 自分は、完全に騎士団の状況を把握してるわけじゃない。

 こういう方法があるが、それを騎士団に合ったカタチにするのはあなた方ですってな。


 それに感銘を受けたんがアレク副団長だ。


 副団長も、その問題には結構アタマ悩ませてたからさ。

 ふたりでかなりの時間、話し合いして、俺たちからもいろんな意見吸い上げて、そんで今の仕組みを練り上げたんだ。


 いやあ、地味だけどスゲえって思ったよ。



 さすが文官の注目株だ、そういう仕事なら得意だろって、そう見られたけど、あのヒトはそれだけじゃなかった。


 あのヒト、捕物の現場に手ぇ上げたんだよ。


 あん時は、アミドニアの犯罪グループが街に逃げ込んだんだったかな。

 主犯格の連中は生かしたまま捕縛してくれって、アミドニアから依頼があってよ。


 ったく、ムチャ言うぜ。


 捕物って言っても、現場は生死を掛けた戦場だ。

 そんな場所で、手加減なんてしてる余裕ねえさ。

 それを生け捕りにしろって、どんだけ難しいかわかるかい?


 もう騎士団長なんかカンカンさ。


「んな事知らん!わしに、お前ら死にに行けって言わせるつもりか!」てな。


 その現場に手ぇ上げたんだよ、あのヒト。


 騎士団長も最初はスッゲエ形相だぁ。


 無理スジの命令にアタマきてっトコに、素人の文官が現場連れてけって言い出したワケだわ。


 そりゃ怒りもするよな。


 団長は詰め寄ったよ。俺らでもビビって、へたり込んじゃいそうな顔でよ。


 そしたらあのヒト、サラッと言ったんだ。


「団員の皆さんに手加減を命じる必要はありません」


 それ聞いて、団長の怒気が消えた。


 そんで、団長はあのヒトの目をジッと見てよ、

「エエじゃろ、ついて来い」って許したんだ。


 団長に何が見えたかはわかんねえ。

 だけど『武神』には……見えたんだろうな、あのヒトの凄味ってのがさ。



 そんで、現場で見せたのがあの『三つ指切り』だ。

 

 俺は、あのヒトが作った仕組みに結構恩を感じててさ、やっぱ気になっから、捕物始まっても、意識して近くにいたわけ。

 

 そしたら、あのヒト、フラッて相手に向かって行ってよ。

 気合いも怒気もなく、相手の間合いに入るんだわ。


 俺は焦ったよ。何を考えてんだってな。



 で、驚いたのが次だ。



 あのヒト、襲いかかってくる悪党の横を、軽くいなす感じにすり抜けた。


 そしたらさ、相手の剣が落ちたんだよ、


 カランって。


 俺、慌てて落ちた剣拾ったよ。



 そしたらな……


 剣と一緒に落ちてたんだよ……。


 相手の指が……。




 結構な乱戦で、何人にもそれやったんだ。


 斬ったのは、どいつも剣を握る三本だけ。

 多くも少なくもねえ、全員同じだ。

 


 気がついた奴らは、みんな唖然としてた。


 団長も気がついて、主犯格の連中をあのヒトに任せたよ。


 結果はさ、ご推察の通りだよ。




 たった1年程だったけどさ、あのヒトの残してくれたモンは大きい。

 ああ……素直に感謝してる。


 まあ、若い連中がそれにヘンに憧れちまって、『三つ指切り』の練習したがるのには、正直困ってるけどな。



 あのヒトは今もペン握ってっけど……。


 もしもさぁ……

 もしも剣を握ってたら……


 とか……、今でもちょっと考えちまう時……あるんだぜ。


 


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