2.地盤調査①
「お前だけズルいだろ〜!」
朝の執務室で、若き領主エリシアが広い執務机に
突っ伏して嘆く。
視線の先には、うず高く積まれた書類の山、山、山、といつもの光景。その傍らで冷徹な視線を送る執政官補佐アルベルト。これもいつもの光景。
「私だって遠出した〜い!」
泣きを入れるエリシア。
「できるわけないでしょ。さっさと仕事して下さい」
冷徹に言い放つアルベルト。
これも毎度の日常風景。
「だって、ウォーケン領主城跡地の地盤調査って、あそこは今から行けば昼前には着くだろう。
行きは馬車の中でゆったり…、現地に着いたら高原でランチ…、帰りはたぶん疲れてお昼寝…、至福の時じゃないか!」
「ピクニック前提で駄々こねないで下さい。
あの一帯は以前から地盤の弱さが噂されてて、
もし崩落が起きて土砂が川を堰き止めたりしたら、
この街や周辺の農地に甚大な被害を与える危険があるんです。
だいたいあなたはーー」
「あ…これマズった……」
アルベルトの正論魂に火を付けてしまったと
エリシアは瞬時に後悔した。
しかし時既に遅く、いつもならココからタップリ
お説教タイムに突入!が、ルーティンのエリシア。
しかし今日はノックの音が彼女を救った。
侍女がドア越しに声を掛けてくる。
「アルベルト様、お時間です。お急ぎ下さーーー
きゃあ!」
と同時にドアが勢いよく開けられ、侍女長のマーサと、騎士団団長のゼクスが、共に肩を怒らせながら
なだれ込んできた。
先代領主の時代からベルベット家に仕える両古参。
アルベルトの2倍を超える年月を当家に捧げて
きた女傑と豪傑。
いずれも、豪快で、情に厚く、懐深く、マーサはその恰幅のいい体躯から、ゼクスは年齢を感じさせぬ筋骨で、共に周囲を安心させる雰囲気を醸し出す存在。
エリシアの政務補佐をアルベルトが担い、警備・防衛をゼクスが統括し、生活その他全般をマーサが仕切る。
三者はいわば二人三脚の関係であり、戦友として、
同胞として、お互いに敬意を払っていた。
「早くしな!門前で迎えが立ち往生してて、出入りの
商人が入れないだろう!
仕入れができなきゃ、今日の夕飯と明日の朝食は諦めてもらうしかないよ!」
「急げ、アルベルト!新米どもには良い行軍訓練
になると思って許可したのだ!時間をムダにするな、
この青二才が!」
「すみません、すぐ出かけます」
アルベルトは急ぎ足で部屋を出て、それでも
整然とした雰囲気で玄関に向かう。
ゼクスがふんっと鼻を鳴らし、マーサがホッとする
エリシアにイタズラっぽい笑顔を向け、
「よかったですね」と小さくささやく。
エリシアは涙目でコクコクと頷き、無言の感謝を贈り続けた。




