21.誘拐③〜魔手
その日、リンはメリッサとともに孤児院に来ていた。
今日は、孤児院の年少組が近くの森にピクニックに行く事になっている。
メリッサは、年少組用に特注されたピクニックの昼食用のパンを届けに行く途中で、リンと出会い、そのまま一緒に孤児院に来たのだ。
リンは、ピクニックに誘われ大喜び。
メリッサも、この仕事を済ませて、そのまま孤児院で遊んでくる予定だったため、全く異存はない。
二人の職員と年少組に混じって、二人は意気揚々と森へと出発した。
森は静かだった。
穏やかな日差し、爽やかな風、若々しい草木の香り。
街の喧騒とは隔絶された緑の空間。
はぁぁ、と感嘆しながら森を進む子供たち。
勝手にはしゃぎまわる子はいない。
皆で固まって、幼いながらも秩序だった行進を続けている。
リンもメリッサも、その一員として歩みを進めていった。
しばらくすると、森を抜け、目的地の丘に出た。
ここで昼食を食べ、しばらく遊んだ後、帰路に着くスケジュール。
「さあ、お昼にしましょう」
引率の職員の声に、わぁっと歓声が上がる。
群がる子供たちに、メリッサが届けたパンとミルクが配られる。
パンを頬張りながら、きゃっきゃとはしゃぐ子供たち。リンもメリッサもその笑い声の輪の中にいた。
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アルベルトの執務室。
アルベルトとゼクス、それにフリッツの従者が
いる。
「数が合わん…と?」
ゼクスの問いに従者が答える。
「はい。この地に到着してすぐに、直近で行方不明の
子供のリストと、保護された子供との照合を行わせておりまして、その結果、6人が依然行方不明と」
「別なグループですね」
アルベルトの眉間にシワが刻まれる。
「貴国で騒ぎが大きくなった事で、これ以上続けるのは危険と判断し、急ぎこの地に逃げ込んでいるでしょう。
捕まった連中は、平然と要路を使っていました。
これまでの成功体験の通り、事を進めていた。
ルートも、偽装も、これまで通り。
おそらく14人の子供も、連中にとって十分な数だったと思われます。
だか、逃げ込んだグループは、その半分に満たない商品しか集められていない。つまり……」
ゼクスが、またあの凄まじい殺気を放つ。
2度目とはいえ、やはり従者が慄くほど。
しかし、それ以上の殺気が、その傍らから噴き出ている事が、更に従者を恐怖させた。
「最後の急ぎ働きを、ここでやるつもりです」
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リンたちは帰路に着いていた。
整然と、とはいえないまでも、一団に固まって歩みを進める。
森の半ば辺りに差し掛かった頃、
メリッサは、リンがモジモジしているのに気がついた。
「これは……」
そっとリンの耳元でささやく。
「リンちゃん、もしかして…”お花摘み”?」
顔を少し赤らめ、頷くリン。
メリッサがクスッと笑い、引率の職員に声を掛ける。
「先生、ごめんなさい。“お花摘み“に行きたい」
「あらあら、いいわよ。ここで待ってるから、行ってらっしゃい」
「ありがとう。リンちゃんも行く?大丈夫?」
ここでメリッサが、リンに声を掛けた。
まず自分が行きたいと伝え、リンにもそれを促す流れを作り、用を済まさせる。リンに対するメリッサの気遣いだった。
「わたしも…行ってくる」
二人は手をつなぎ、森の草むらの中に入っていった。
リンが用を済ませ、メリッサのもとに戻って来た。
「じゃあ、帰ろうか」
二人連れだって道に戻ろうとした時、背後に人の気配を感じた。
振り返ると、男が二人、こちらを見ている。
粗野な印象
剣呑な雰囲気
下卑た笑い方
ニヤニヤしながら
近づいてくる
嫌な感じがした…
周りの大人たちの眼差しとは
全然違う…
子供を見る目じゃない…
獲物だ
いい獲物を見つけた
そんな、嫌な感じが
こいつら…!
こいつら、人攫いだ!
メリッサの脳裏に危険信号が走り、咄嗟にリンの背中を押して叫んだ。
「リンちゃん!逃げて!!」
そして、向かってくる男たちの前に立ちはだかる。
少しでも時間を稼ぐんだ。
両手を広げ、また大声を上げた。
「誰が来てー!助けてーー!!」
あたしはお姉ちゃんだ
父ちゃんと約束した
お姉ちゃんは妹を守るんだって
きっと先生にも聞こえてるはず
もうすぐ来てくれる
リンちゃんは逃げ切れる
あたしはこいつらを
ここから先に行かせない!
「このガキ、大声出しやがった!近くに親がいんのか!」
「こいつとあのチビで8人だ!とっとと攫うぞ!」
男の一人がメリッサの横を抜き、リンに迫ろうとする。
ダメ、行かせない!
その男の足に、小さなメリッサの身体がしがみついた。
ドザァァッ
男は顔から倒れ込み、顔面を鼻血で濡らす。
「こ、このガキ!」
怒鳴りながら、もう一人がメリッサに手を伸ばす。
男に掴まれた。
力が強い。
メリッサがもがくが、離れない。
手もとの土くれを、男の顔に投げつけて応戦する。
「うわぁ!目が…!!」
上手く目潰しになった、と安堵した瞬間、視界が逆転した。
掴まれたまま、持ち上げられたのか。
「こんちくしょうめ!」
怒号とともに、背中に強い衝撃を受けた。
息が一瞬詰まる。
地面に叩きつけられたのか。
ああ、目の前が…暗くなる…
あ、先生の声が聞こえる…
リンちゃんは逃げ切れたみたい……
よかった…
父ちゃん…あたし…
妹を…守れたよ……
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次回タイトル予告「懇願」




