20.誘拐②〜カーチスからの使者
本日2話目です。
数日後、カーチスから使者が来訪した。
応接室に案内されたのは使者と従者2名。
テーゼ側はエリシア・アルベルト・ゼクス。
「ようこそ、使者殿。よく来られ……た…?」
出迎えたエリシアが驚きの表情。
アルベルトもゼクスも顔を見合わす。
「……フリッツ第4王子殿下…?」
「お久しぶり振り、エリシア」
にこやかに微笑みかける意外な『使者』は、
隣国カーチスの第4王子フリッツ・ベルナール・フォン・カーチス。
かつてエリシアがカーチスの王立学院に留学していた時、2年上級に在籍していた。
硬直して動かないエリシアを、アルベルトが軽くつつく。ハッと我に戻って、慌てて着座を勧める。
「殿下、大変失礼を致しました!どうぞおかけ下さい」
「しかし驚きました。まさか殿下が『使者』としてこちらにもいらっしゃるとは」
「自由気ままな冷や飯食いにも、たまには公的な仕事させないと、他に示しがつかないんだよね」
茶を口にしつつ、和やかな雰囲気で雑談が続く。
エリシアの留学中、一部の貴族からは「独立しているとはいえ、一介の都市領主ではないか」という侮りの視線を投げかけられていた。
そんなエリシアを、フリッツはなにかと気遣い、声を掛け、同行を許し、親交を結んだ。
これは見た貴族連中は、エリシアを庇護下に置いたのだと理解し、以降は表立った侮蔑は姿を消した。
エリシアも、王族とは思えないほど気さくな為人のフリッツに好感を持ち、感謝の念を抱きながら、彼の卒業を見送った。
それ以来の再会となる。
「それで今回の事件だが……」
フリッツが立ち上がり、謝意を語る。
「貴都市は、その深い洞察と迅速且つ的確な対応により、忌むべき誘拐犯を摘発し、我が国臣民を無事救出してくれた。ここに深く感謝の意を示すととに、今後も良き隣人として、この関係が永く続くよう切に望む」
国の公式謝意としては、かなりくだけた言葉なのは、これが外交上の問題ではなく、犯罪の摘発に対してのものであり、国内治安の担い手である内務卿辺りからの謝意表明という位置付けだからなのだろう。
「貴国の感謝の意、確かに拝受致しました。こちらこそ、良き隣人・友人として、末永く共にあらんことを希望致します」
エリシアが礼節を以てそれに応える。
セレモニーはこれで終了。
その後は、お互いの情報交換の場に移った。
「事件の全貌を暴く、なにか糸口のようなものはないのでしょうか」
エリシアの尋ねに、フリッツは首を振る。
「ないね。今回捕まった連中の中に、一応リーダーらしきヤツはいたけど、基本的には一匹狼の犯罪者の寄せ集めだ。組織だった統率もなく、カネ目当てで集まって、終わればまた散らばる。メンバーのうち3人は新顔だったようだ」
「つまり、今回加わらなかった連中が、別個にメンバーを集めて同じ事をしている可能性があるということですね」
フリッツが苦々しく首肯する。
「そういう事だ。彼のリヒテンラーデには非合法の奴隷市場があると聞く。売り先と需要があるのであれば、別に他人に従う必要などない、自分で、と考えるだろう」
アルベルトがその点を補足する。
「人身売買は“商品”をある程度確保しないと、手間の割に儲けが出ません。必然的に加担する人数もそれなりに必要です。一連の誘拐に関与した連中が離合集散しているとしても、経験者を軸としたグループがあと2〜3あるかどうかといったところでしょう」
「奴らの処遇は?」
「法に照らせば、鉱山送りかな。死ぬまでね。
一両日中に護送車が到着する。私が子供たちと連中を護送するから、安心していいよ」
その言葉に、多少溜飲を下げたように、ふぅっとエリシアが息を吐いた。
ゼクスが重々しく口を開いた。
同時に凄まじい殺気を漲らせる。
「国境付近の検問の厳格化は既に済んでおる。まだ隠れ潜んでいるゴミどもは、絶対に領外には出さん!!」
ゼクスの圧に、思わず従者が身構えてしまう。
フリッツが苦笑混じりに片手で制し、アルベルトが、コラっとばかりにゼクスの足を蹴る。
「ははは、御老体の覇気は相変わらず凄いね。一瞬で場を沸騰させる」
穏やかに事を収めてくれたフリッツに、ゼクスが恐縮して頭を下げた。
「いや、殿下、ご無礼致しました。年甲斐もなく、ちとアツくなりましたわい」
構わないよ、とばかりにひらひらと手を振り、茶を口にしながら、フリッツが静かに言う。
「いつも思うのだが、この地は子供の事に熱心な方々が非常に多いね。だいたいは祖先がこの独立都市の成り立ちに関わった方々だ。この都市の特性かな?」
やや含みのあるこの言葉。
エリシアとゼクスに緊張が走る。
秘匿された口伝
顕現した幼子
何か知られた?
何を知った?
話題に不釣り合いな空気への変化。
それが発露する前にそっと止めたのは、アルベルトだった。
「ご容赦下さい、殿下。ゼクス翁は先日、“じいじ”になりまして、舞い上がっているのです」
なっ?!と顔を赤らめ、アルベルトを睨みつけるゼクス。
アルベルトは意に介さず、しれっと続けた。
「肩車しているその子に“じいじ“と呼ばれて、このシワだらけの顔を更にクシャクシャにしているゼクス翁の姿は、かつて各国の剣士に『武神』と恐れられた御仁とは思えない、と周囲の者たちも申しておりまして」
顔が真っ赤になり、ワナワナと震えるゼクス。
エリシアとフリッツが思わず吹き出す。
「いやいや、そうだろうとも。孫はかわいいだろう。だからこそ、人の子とはいえ、攫って売り払うような悪党共は許せん、と。」
一転して和んだ空気に、エリシアが密かに安堵し、ゼクスは含羞で顔をパンパンにし、アルベルトは平常運転のまま、会談は終わった。
次回タイトル予告「魔手」




